第119話 『西方大魔震災』
2025-12-13公開
〔王国歴378年 準陽神月 10日〕
『ふむ、始まったな』
昼食後にモンソン姉妹の妹のクラーラ相手に戯れていたエレムが、白い仔猫の姿のままで「西方大魔震災」の発生を告げた。
普人に友好的な精霊が警告を発し、諸神教が教義を改める切っ掛けにもなった大異変が始まった瞬間だった。
今頃、西の大地に在る国々は初めて経験する地震で恐慌状態に陥っているだろう。
諸神教が事前に発生する事を広めているからと言って、大地が揺れるなんて経験をした事が無いのだ。
「異世界知識【微】」で「にほん」の地震を経験した上に知識も有る俺でも、実際に体験したら落ち着いていられる絶対的な自信は無い。
なんせ、「異世界知識【微】」は、30歳で亡くなった男の人生を追体験するというものだったが、視覚と聴覚のみだったからな。
そのおかげで、俺は俺のままで居られたと思う。
その点、モンソン姉妹は嗅覚、味覚、触覚、痛覚、平衡感覚まで再現されたせいで、「てんせい」したという意識が残ってしまった。
「準備がちゃんと出来ていれば良いのですけど」
リリーが心配そうな声音で呟いた。
「少なくとも、事前の告知に加えて、発生する前日には警戒する様にという告知が諸神教から出る事になっている。まあ、西の大地の国の中には諸神教を排斥している国が在るらしいから、全ての民に伝わったかは分かないが」
そういう国には、外交ルートから事前に警告が行っている筈だが、信じるかどうかは国の指導者次第だ。
エレム曰く、「しんど5」の揺れらしいから、「たいしんせい」の無い建物ならば、倒壊してもおかしくない。
せめて防獣柵や防壁がしっかりとしていれば良いのだが。
防獣柵や防壁も役に立たず、生活の拠点も失った上に魔獣の氾濫に巻き込まれた場合、生存確率はかなり低くなる。
告知からの期間もそれほど無かった段階で準備が不十分なままという村や町は多いだろう。
施政者の能力が問われたのだが・・・
例えば、防壁がしっかりとしている街に収容して籠城するくらいはしていると思いたい。
それくらいの準備をする時間は有ったからな。
とは言え、俺も他人の事をとやかく言える立場にはない。
なんせチベタニア領に来てから2カ月半が経ったが、まだ本格的な建物の「たいしん」補強は進んでいない。
統治体制の確立に時間を費やして、やっと平常の状態になった段階だ。
今後は街壁に取り掛かる予定だ。
領衛隊の募集も終わり、今は応募して来た人員の選考中だ。
ただ、問題が有って、旧警衛隊の遺児と冒険者からの応募が思ったよりも多いのが誤算だった。
現在の段階で120名の応募が有るから、100名規模で発足するという当初の構想を守らずに、増員した形で発足させるかを悩んでいる。
最大の障害が予算なんだよな。
旧警衛隊の遺児からの応募は構わないんだ。誇りを持って任務に当たってくれるだろう。
それに対して、せっかく冒険者という予算を食わない戦闘員が居るから有効活用する事を考えていたが、その冒険者からも意外と応募が舞い込んでいる。
冒険者稼業で十分に生活が成り立っている中堅以上は静観の構えを貫いたが、そこまで達していない層が応募して来ている。
確かに一から鍛えなくても済む点は良いのだが、変な癖も付いている可能性も有る。
今日の午後に行われる会議で結論を出そう。
それまでは、西方諸国の為に祈る事にしよう。
お読み頂き、誠に有難うございます。




