第118話 『プレゼント』
2025-12-10公開
〔王国歴378年 従地神月 29日〕
「かわいいねぇ・・・ なでていい?」
モンソン姉妹の妹のクラーラが抱えているエレムを見て、4歳か5歳くらいの幼女がクラーラに尋ねていた。
今は俺と神殿側の「大人の話し合い」も終わり、小さな子供が昼寝から起き出して来る時間だ。
来た時には在った仕切りの半分は取り外されて、孤児院最大の広間の半分はお昼寝会場と化していた。
そして、半分くらいの幼児たちが起きてだして、クラーラの周りを囲んでいる。
面白いのは、ここの孤児院は椅子文化ではなく、異世界の「にほん」と同じ様な直接座る文化を取り入れている点だ。
勉強の時も食事の時も、俺の膝位の高さの木製の台を使う。
まあ、幼児や乳児を育てるのにはその方が都合が良いのかもしれない。
今も「にほん」の「ふとん」に似た寝具を床に敷いていて、まだ半分くらいの幼児たちが寝ている。
寝相が悪くて「かけふとん」を蹴飛ばす子も居たりして、女性の助祭が飛ばされた「かけふとん」を掛け直している。
「シロチャン、なでたいって?」
『ふむ、よかろう』
どうやらエレムは小さな子供には寛容な様だ。
まあ、クラーラとべったりな現状から考えると有り得ると言えば有り得る。
だからだろう、この後で孤児院に寄贈する木製の先進型鎧兵を今日の視察に向けて『再現』したんだろう。
順番にエレムを撫でている内に、残りの子供たちも昼寝から起きて来た。
そろそろ呼んでも良さそうだな。
乗って来た馬車の屋根で伏せて待機していた10体の先進型鎧兵を立たせて、地面に飛び降りる様に命令を下す。
金属のA7075で造られた同型機と違って、動作が軽く感じるし、着地音も小さく軽くて柔らかい。
1列縦隊で現れた10体の先進型鎧兵に最初に気付いたのは、真っ先にエレムを撫でたいと言った幼女だった。
「あー、いっぱいいる」
そう言って、玄関に姿を現した木製ネコ型先進型鎧兵小隊を指差した。
10体は玄関に敷かれていた敷物で足裏に着いた土や砂を落して、広間に入って来た。
A7075製との違いは徹底的に安全性に拘っている点だ。
例えば、爪の収納機能と機構は同じでも、A7075製では爪の素材は刃物にも使われるステンレス製だったが、木製ではゴム製に変わっている。
ゴム部品はその他にも肉球に使われていたり、ひげや鼻にも使われている。
ひげは子供の目に刺さる事を避ける為に起倒式で、状況に合わせて倒して顔にくっ付けることが可能だ。
さすがにマウゼやラパドといった野獣を狩る事は出来ない。
あくまでも、子供達へのプレゼントだから、見て、触って、遊べるという機能に特化している。
そうそう、A7075製には無かった機能としては、少ししか変動出来ないが本体温度の調節が出来る様になっている。
冬や夏には取り合いになってしまうかもしれないな。
鳴き声も実装した。
通常の鳴き声でも感情を表す為に何種類か入れてある。その他にもゴロゴロという鳴き声や、警戒時の鳴き声も複数が入っている。
万が一、何らかの危険が子供たちに迫った時の警報代わりになるだろう。
もっとも、ステンレス製の牙で噛み付く攻撃が可能な様に口の開閉機能が有るA7075製と違って、木製にはその機能は無い。
本物のネコなら舐めるという挙動が可能なので、そこは残念な点だ。
木製ネコ型先進型鎧兵小隊は尻尾を真上に上げて、軽やかな足取りで俺の前まで来て、横一線で「えじぷと座り」をした。
これは前足を伸ばす一方、後ろ足を折り曲げて腰を降ろす座り方で、指示待ちの時の基本姿勢だ。
「誰に指示権を移譲すれば良いだろうか?」
そう言ってボルグ神殿長を見れば、木製ネコ型先進型鎧兵をガン見していた。
もしかして心の琴線に触れたのだろうか?
ちょっとの間が有ってから返事が来た。
「えー、ここの院長のアンナ・ラーションがよろしいかと」
「は、はい」
ボルグ神殿長と同じ位ガン見していた女性が慌てたように声を上げた。
40歳前後の優しそうな女性だ。
何と言うか、母性という言葉を体現している様な雰囲気を持っている。
「なるほど。それではラーション院長、この子たちの指示権を移譲する。詳しい注意事項は冊子にまとめてあるのでそれを参考に」
俺の言葉に合せて、10体の木製ネコ型先進型鎧兵がラーション院長の方を見た。芸が細かい。一斉に動きを揃えると不気味さが出るので、微妙に動きをずらした。
そして、今度は一斉に首を傾げた。
ちょっと「あざとかわいい」という言葉を思い浮かべたのは仕方が無いだろう。
お読み頂き、誠に有難うございます。




