第117話 『好きな類いの変わり者』
2025ー12-04公開
〔王国歴378年 従地神月 29日〕
「現世神エレム様、聖徒エリアス・エリクソン様、当神殿にお越し下さり、恐悦至極で御座います」
エリクソン家の家紋が入った獣車でティケイシの街をしばらく走り、神殿前で降りればオクタヴィアン・ボルグ・ティケイシ神殿神殿長自ら、神殿の門の前で待ち構えていた。
増員されているから15人ほどの司祭や助祭たちもボルグ神殿長の後ろに並んでいる。
こっちは俺とモンソン姉妹の妹のクラーラが先頭だ。
クラーラはエレムを胸に抱いているから、地位や序列とは関係なく俺の横に位置している。
「わざわざのお出迎え、痛み入る」
「門前で立ち話も何ですから、どうぞ神殿にお入り下さいませ」
「邪魔する」
神殿に入るのは2箇所目だ。
初めて入った神殿はエイディジェイクス王国の王都に在る大神殿だった。
あの時も大変だった。
なんせ、諸神教の実務を取り仕切る点では実質的な頂点と言って良いペテルセン枢機卿がボルグ神殿長と同じ様に出迎えてくれたからな。
しかも出迎えに参加した者の地位も高い上に人数も多く、信徒や都民が遠巻きに見ていたからな。
うん、あれも政だったから、仕方が無いと言えば仕方が無い見世物だった。
拝殿の礼拝所に設置されている9体の神像に順にお祈りを捧げて行く。
それぞれの神様には専用の祈祷文が有って、成人した信徒は覚えていて然るべき、と言われている。
とは言え、実際は自分が特に信じる神様の祈祷文を覚えていれば構わない。
まあ、俺の場合はエレムが居るので、それほど熱心な諸神教信徒では無かったが、一応全て覚えている。
お祈りが終われば、慰問の為に孤児院に向けて移動だ。
本日来た目的は孤児院の現状確認とこれからの事を決める為だ。
なんせ、何カ所か在った私設孤児院が閉鎖された影響で、この神殿に併設されている孤児院に集約されたので、その影響がかなり出ていると思われるからだ。
資料では旧チベタニア民主国時代には街全体で70人ほどの孤児が居て、この神殿の孤児院が調整弁となって民間の孤児院が溢れた時の受け皿になっていた様だ。
8000人の人口で70人の孤児という数字が多いのか少ないのかは分からないが、少なくとも「にほん」と違って、魔獣という直接的な脅威となる存在が居る事から、人口の比率では多い筈だ。
そして、現在では100人を超える孤児がここに居るらしい。
明らかに詰め込み過ぎだが、民間の孤児院が助成金を打ち切られた影響で全て閉鎖された9年前から常態化している様だ。
まあ、一時大量に発生した警衛隊隊員の遺児が巣立って行ったので、多少はマシになったそうだが。
拝殿を回り込み、裏手に建っている神殿長や独身の司祭と助祭が住んでいる住居部分を越えて(諸神教の司祭・助祭は妻帯が可能で、所帯を持つと別の建物に移る)、裏庭とも言える空き地に建てられた孤児院が見えて来た。
うん、無理やり増築した事が分かる造りをしている。
それと、周囲には畝立てが終わっている種撒き前の畑が広がっている。
外には孤児の姿が見えない。
孤児院の建物に居るのだろう。
「仰せの通り通常の運用をしているので、今は年齢別の一般教養の授業が行われています。少しでも自立の役に立つ様にと、8年前から始めた授業です」
「なるほど」
バラゴラ帝国は占領した土地では、学校の類は全て廃校にする。
一種の愚民化政策だ。
そうする事で、教育水準を底まで落として支配をやり易くする訳だ。
昨日、気になって訊いたら、6年制の初等、3年制の中等・高等学校の全ては廃校になっていた。
唯一の例外が諸神教の神殿や教社に併設された孤児院での教育だった。
とは言っても、通常は一般教養は少なめで神学の授業が主に行われる。
どうやら旧チベタニア民主国に根付いていた初等学校の代替を目指した様なので、そういう意味では、このボルグ神殿長は変わり者と言えるかもしれない。
建物の外から授業参観をしたが、服装から考えると教師は民間人の様だった。
「ああ、気付かれましたか。旧初等学校の元教師を外部講師として招いているのです。どうしても我々では神学校で習った経験が邪魔して、説法臭くなりますからね。せめて初等学校に近い教育を受けさせて上げたくてお願いしたんですよ」
やはりボルグ神殿長は変わり者だ。
それも、俺が好きな類いの、現実主義な変わり者だ。
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