弾
夜番を始めてから三日、何も起きなかった。
誰も安心はしなかったが、三日目になると、見張りに持っていく物が少しずつ増えた。水だけだった男が黒パンを持ち、古い毛布を肩に掛け、交代の時間を正確に決めるようになった。
恐怖にも、仕事と同じように手順ができる。
ステパンはそれが嫌だった。
慣れたくなかったが、慣れなければ朝まで起きていられない。
昼は畑へ出た。
馬がいない分、作業は遅れていた。ミハイルの牝馬は借りられる時間が限られており、重い仕事の多くは人の肩と背中へ戻っていた。
パーヴェルも午前中は麦を運んだ。
昼を過ぎると赤い兵たちのところへ行く。
もう「道案内」とは言わなくなった。
ステパンも聞かなくなった。
その日の夕方、二人は納屋の前で縄を巻いていた。
パーヴェルが言った。
「兄貴、昨日の夜はどうだった?」
「何もない」
「一昨日も?」
「山羊も来なかった」
「平和だな」
ステパンは縄を引いた。
「平和なら銃を持って寝る奴はいない」
パーヴェルは返事をせず、少し笑った。
笑えるうちは、まだよかった。
ダーリヤが家から出てきた。
「今夜の分」
布に包んだ黒パンと玉ねぎを渡す。
ステパンが受け取る。
「多い」
「昨日、帰ってから二人分食べたでしょ」
「ミハイルが食った」
「じゃあ今日はミハイルの分も入れた」
「俺が食う」
「知ってる」
パーヴェルが笑った。
「兄貴、全部ばれてるぞ」
「うるさい」
その時、村の東側で犬が吠えた。
笑いが止まった。
西ではない。
見張りを置いている道とも違う。
ステパンはパンをダーリヤへ戻した。
「中へ」
「何人?」
「まだ分からん」
パーヴェルはすでに小銃を取っていた。
二人で道へ出ると、村の東端から少年が走ってきた。
「馬! 三人!」
「誰だ」
「知らない!」
「赤い布は?」
「ない!」
ステパンは家の壁に立てていた小銃を取った。
弾は五発だけ借りていた。
一発ずつ数える癖が、まだ抜けない。
パーヴェルが言う。
「西だけ見てたな」
「ああ」
「回られたか」
「分からん」
三人の騎馬が見えた。
ゆっくり来る。
昨日の略奪隊ほど散らばってはいないが、正規の隊列にも見えない。
一人が何か叫んだ。
聞き取れなかった。
村の男たちが戸口や柵の陰から出てくる。
銃を持っている者は三人。
ほかは斧や棒だった。
ミハイルも走ってきた。
「またか」
「三人だけだ」
パーヴェルが言った。
ミハイルは騎兵を見た。
「三人だけなら、後ろにいるかもしれん」
ステパンは道の左右を見た。
畑。
家。
乾いた溝。
人影はない。
「止まれ!」
村の誰かが叫んだ。
騎兵は止まらなかった。
先頭の男が手を上げた。
武器を持っている。
ステパンの肩が固くなった。
「止まれ!」
今度はパーヴェルが叫んだ。
男が返事をした。
「水だ!」
「馬から降りろ!」
「何でだ!」
「武器を置け!」
騎兵たちが顔を見合わせた。
一人が笑った。
その笑い声が、妙に腹立たしかった。
「水を飲みに来ただけだ!」
ミハイルが低く言う。
「帰らせろ」
パーヴェルは答えた。
「昨日みたいに?」
「昨日みたいになる前にだ」
騎兵の一人が馬を前へ出した。
ステパンは小銃を上げた。
「来るな!」
男は止まらない。
距離が縮まる。
五十歩ほど。
もっと近いかもしれない。
銃を持った相手が近づくと、距離は数字ではなくなる。
あと何秒でこちらへ来るか、それだけになる。
「止まれ!」
ステパンが叫んだ。
男は笑わなかった。
今度は何かを言ったが、風に消えた。
パーヴェルが兄の横で銃を構えた。
「兄貴」
「分かってる」
「近い」
「分かってる」
先頭の騎兵が、肩に掛けていた銃へ手を伸ばした。
その瞬間、村の後ろで何かが倒れ、大きな音がした。
誰かの荷車だった。
馬が驚いた。
三頭が同時に首を上げる。
先頭の男の銃が肩から滑った。
ステパンには、それがこちらへ向けられたように見えた。
引き金を引いた。
音が胸の内側まで突き抜けた。
肩を強く殴られたような衝撃が来る。
火薬の匂い。
馬が跳ねた。
騎兵が何か叫ぶ。
誰かが撃ち返した。
弾が柵の板を割った。
村の男たちが伏せる。
パーヴェルも一発撃った。
どこへ撃ったのか、ステパンには見えなかった。
ミハイルが怒鳴った。
「下がれ!」
騎兵たちは馬首を返した。
一人の馬が大きく横へ跳ね、男が落ちかけた。
それでも三人とも道を戻っていく。
村からさらに二発、ばらばらに銃声が上がった。
ステパンは撃たなかった。
銃を肩につけたまま、離れていく背中を見ていた。
「追うな!」
老人が叫んだ。
誰も追わなかった。
騎兵が畑の向こうへ消えるまで、村人は伏せたままだった。
静かになってから、ステパンはようやく息を吐いた。
耳がよく聞こえない。
パーヴェルがこちらを見ている。
「兄貴」
「何だ」
「当たった?」
ステパンは道を見る。
血はない。
人も倒れていない。
馬も走っていった。
「分からん」
「狙ったのか」
ステパンは答えるまで少しかかった。
「馬の前だ」
本当にそうだったのか、自信がなかった。
人には当てたくなかった。
だが引き金を引いた瞬間、どこへ飛ぶかまで考えていたかと聞かれれば、違う。
ただ来るなと思った。
来るな。
それだけだった。
ミハイルが割れた柵を見ていた。
板に新しい穴が開いている。
「向こうも同じだな」
ステパンが聞く。
「何が」
「こっちが銃を持ってると分かったら、撃つ」
パーヴェルが言う。
「撃たなきゃ入ってきた」
「かもしれん」
「じゃあ撃つしかないだろ」
ミハイルは首を振った。
「それを決めるのが早いって言ってる」
「昨日、何されたか忘れたのか」
「忘れてない」
二人の声が強くなる。
ステパンは割れた板へ手を当てた。
弾は板を貫き、その後ろの土壁へ食い込んでいた。
そこはコーリャがよく座る場所だった。
日が暮れる前なら、子供がいたかもしれない。
ステパンは指で穴の縁をなぞった。
木がささくれている。
自分の一発は、あの三人のどこへ飛んだのだろう。
道の土に入ったのか。
馬の腹の下を抜けたのか。
遠くの畑へ飛んだのか。
見えなくなった弾は、もう戻せない。
ダーリヤが家から出てきた。
子供たちは中に残している。
「誰か怪我した?」
「いない」
「向こうは?」
「分からん」
ダーリヤはステパンの銃を見る。
「撃ったの」
「ああ」
彼女は一度だけうなずいた。
「何発」
「一発」
「あと何発」
ステパンは弾薬袋を触った。
「四発」
「覚えておいて」
「何で」
「次に必要になるかもしれないから」
ダーリヤはそう言って、割れた柵を見た。
「これも直さないと」
ステパンは苦笑した。
「今それか」
「今だから」
それ以上の話はしなかった。
夕食のあと、パーヴェルが外へ出てきた。
ステパンは柵を直していた。
弟が板を押さえる。
「兄貴」
「そこ持て」
「うん」
釘を打つ。
二度。
三度。
木槌の音が、昼の銃声よりずっと小さかった。
「俺も撃った」
パーヴェルが言った。
ステパンは手を止めなかった。
「聞こえた」
「当たってないと思う」
「そうか」
「怖かった」
ステパンは釘をもう一本取った。
「俺もだ」
パーヴェルが少し驚いた顔をした。
兄がそう言うと思っていなかったのかもしれない。
「でも撃ったな」
「ああ」
「俺も」
二人で板を押さえた。
しばらくして、パーヴェルが言った。
「兄貴」
「何だ」
「次は、当てなきゃならないかもしれない」
木槌が止まった。
ステパンは弟を見なかった。
「次が来たらな」
「来ると思う?」
「知らん」
また釘を打った。
今度は一度で入った。
その夜、ステパンは小銃を枕元へ置いた。
昨日までなら、銃が家にあること自体が怖かった。
今は違う。
怖いのは、撃てることだった。




