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赤い悪魔と白い悪魔  作者: ぺんぎん


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4/7

戸

朝、パーヴェルは小銃を村の評議会へ返した。


昼前には、また赤い兵たちと出ていった。


ステパンは何も言わなかった。


言えば昨日と同じ喧嘩になる。家族を守るには、言い返すより、黙って弟の残した分まで麦を運ぶ方がましだった。


代わりに、弟が残した分まで麦を運んだ。


ミハイルの牝馬はまだ脚をかばっていた。だから重い荷は載せず、ステパンが荷車の後ろから押した。


昼を少し過ぎたころ、村の西側で犬が一斉に吠え始めた。


吠え声は一匹ずつではなかった。村じゅうの犬が、同じものを見て、同じ方向へ牙をむいていた。低い唸りが地面を這い、次々に重なって、胸の奥まで震わせた。


ステパンは荷車から手を離した。


掌に食い込んでいた綱の跡が赤く残っていた。指がうまく伸びない。


道の向こうに馬が見えた。


六騎。


赤い布は見えない。


「またか」


ミハイルが隣で言った。


牝馬の手綱を取っていた手が、わずかに震えていた。


ステパンは人数を数えた。


六人。


昨日までなら、最初に馬を見るところだった。


今日は人の手を見た。


全員が銃を持っている。


銃口が揺れるたび、ステパンの喉が勝手に狭くなった。


「白か?」


ミハイルが聞いた。


「分からん」


「赤じゃないのは分かる」


騎兵たちは村へ入った。


蹄が凍った道を叩き、乾いた音が家々の壁に跳ね返った。馬の鼻息と革具の軋みが、犬の吠え声の隙間から近づいてくる。


三日前に馬を集めた隊より、ばらばらだった。


軍服の色も揃っていない。帽子も違う。馬の一頭は鞍の片側が切れた革紐で縛られていた。


統制のない姿だった。だからこそ、どこへ向かうか分からなかった。


先頭の男が井戸の前で止まり、村人に水を出させた。


別の二人はそのまま家へ向かった。


「何してる」


ミハイルが言った。


兵の一人が、道端に干してあった男物の上着を取った。


持ち主の女が何か言った。


兵は上着を丸め、鞍へ括りつけた。


もう一人は家の中へ入っていく。


戸が閉まる音がした。


その音だけが、犬の声よりはっきり聞こえた。


「帰るぞ」


ステパンが言った。


「荷車は?」


「置け」


「牝馬は?」


「連れていく」


「また取られるぞ」


ステパンは答えなかった。言い争っている間に家へ向かわれば、守れるものまで失う。


二人は急いだ。


ステパンの靴底が土を蹴るたび、足が自分のものではないように軽く滑った。背中に、犬の吠え声と、どこかで上がった短い叫び声が追ってきた。


家へ着くと、ダーリヤは庭で豆を選っていた。


ステパンは門を閉めた。


木の閂が溝に落ちる音がした。薄い板一枚で、銃を持った男たちを止められるとは思えなかった。


「中へ入れ」


ダーリヤが顔を上げる。


「何が来たの」


「兵隊だ」


「赤?」


「違う」


それだけで十分だった。


ダーリヤは豆の入った籠をその場に置いた。


「コーリャ!」


家の裏から返事がした。


「アンナを連れてきて」


ステパンは納屋へ行った。


何を隠すか考えた。


麦。


干した肉。


冬用の靴。


毛布。


全部は無理だった。


麦袋を二つ、空の飼料箱の後ろへ押し込んだ。


袋が木に擦れ、乾いた音を立てた。


ステパンは息を止め、外を見た。


犬の声が一瞬遠のいた気がした。耳の奥で自分の脈だけが、どく、どくと鳴っていた。


まだ誰も来ていない。


ダーリヤが来た。


「何人?」


「六」


「村に?」


「今見えたのは六」


ダーリヤは家へ戻り、寝台の下から冬用の長靴を出した。


「それをどこへ」


「竈の裏」


「見つかる」


「納屋よりまし」


「毛布は?」


「一枚だけ出しておく」


ステパンはダーリヤを見た。


「お前とアンナは裏へ行け」


「どこへ」


「どこでもいい。見えないところだ」


ダーリヤの手が止まった。


二人とも、その意味を口にしなかった。


「コーリャも連れていく」


「そうしろ」


「あなたは?」


「ここにいる」


「何で」


「家を空にしたら全部持っていかれる」


ステパンは、家族を隠すことも、自分が残ることも、どちらも怖かった。それでも誰かがここにいなければ、兵は家の中を好きにする。


喉が乾き、舌が上顎に張りついていた。逃げろと言いたいのに、声にすれば自分の足まで崩れそうだった。


ダーリヤは少し考えた。


「全部より、あんたの方が高いよ」


「値段の話か」


「今はそういう話」


いつものダーリヤだった。


だが声が少し速かった。


外で女の叫び声がした。


二人とも動きを止めた。


一度。


短く。


それから男の怒鳴り声。


何かが倒れる音。


木が割れ、金属が床を打つ音が続いた。


ステパンは戸口へ出た。


道の向こう、三軒先で男が地面に倒れていた。


フェドートだった。


兵が背中を蹴った。


別の兵が家の中へ入る。


フェドートが起き上がろうとした。


銃床で殴られ、また倒れた。


ステパンの膝が一瞬、前へ出かけた。


だが足はそこで止まった。胸の中で心臓が跳ね、手のひらが冷たく濡れた。


「ステパン」


ダーリヤが後ろから呼んだ。


彼は見ていた。


フェドートの家には若い妻がいる。


リューバ。


去年結婚したばかりだった。


家の中から、何かが割れる音がした。


「行け」


ステパンが言った。


ダーリヤはもう何も聞かなかった。


コーリャの腕をつかみ、アンナを抱いた。


裏口から出ていく。


ステパンは戸を閉めた。


閉めてから気づいた。


鍵を掛けても意味がない。


銃を持った男が蹴れば、こんな戸は壊れる。


納屋を見る。


鎌。


斧。


鍬。


どれも、相手が銃を持っていなければ役に立つ。


道で馬の蹄が止まった。


ステパンは家の前へ出た。


二人来ていた。


一人は若く、もう一人は髭の濃い男だった。


「食い物」


髭の男が言った。


「ない」


男は納屋を見た。


「農家に食い物がないのか」


「四日前に持っていかれた」


「誰に」


「赤だ」


若い兵が笑った。


「じゃあ俺たちの分は残ってるな」


「ない」


男が馬から降りた。


鐙から靴を抜く音が、妙にはっきり聞こえた。


ステパンの前まで来る。


「靴」


「何だ」


男はステパンの足を見た。


「それ、脱げ」


ステパンも自分の足を見た。


まだ夏だったが、畑仕事用の革靴を履いている。


「裸足で畑へ行けって?」


「好きにしろ」


「嫌だ」


男の顔が変わった。


ステパンはすぐ後悔した。


だが言葉は戻らない。家族の前で屈したくない気持ちと、逆らえば家の中まで荒らされる恐怖が、同時に胸を締めた。


若い兵が馬上から言った。


「やめとけ。別の家にある」


髭の男はしばらくステパンを見ていた。


その視線が顔から胸、腰、足へゆっくり下りてくる。ステパンは動けなかった。逃げれば背中を撃たれる。立っていれば、何を奪われるか分からない。


それから肩を押した。


「中を見る」


「何もない」


「なら見ても困らん」


ステパンは戸の前に立った。


男も止まった。


「どけ」


「妻が寝てる」


嘘だった。


男の口元が動いた。


「妻?」


ステパンの腹の奥が冷えた。


男が戸へ手を伸ばした。


ステパンはその手首をつかんだ。


考えてからではなかった。


次の瞬間、頬に衝撃が来た。


地面が横へ動いた。


自分が倒れたと分かるまで少しかかった。


口の中に血の味がした。


耳の中で高い音が鳴り、周囲の声が遠のいた。頬の熱さより先に、指先の感覚が消えていく。


兵はステパンを見下ろした。


銃床を使わなかった。


拳だけだった。


「もう一回触ったら撃つ」


戸を開ける。


ステパンは起き上がった。


膝が震え、片手を地面につかなければ立てなかった。兵が家へ入る。


若い兵も馬から降りた。


二人で中を探した。


寝台の下。


棚。


竈の横。


箱。


一人が毛布を見つけた。


「これでいい」


もう一人はパンを二つ見つけた。


ダーリヤが朝焼いたものだった。


袋に入れる。


「女は?」


若い方が聞いた。


ステパンは口の血を袖で拭った。


「母親の家だ」


「どこ」


「向こうの村」


「いつ戻る」


「知らん」


若い兵は少し笑った。


「お前、妻の帰る日も知らんのか」


「知らん」


兵は家の中をもう一度見た。


ステパンは、竈の裏に隠した長靴と、納屋の麦袋の位置を思い浮かべた。


若い兵の視線が竈へ向いた。


一歩、近づく。


ステパンの背中に冷たい汗が流れた。止めなければならない。だが声を出せば、今度こそ何かが壊れる。


その時、外で馬がいなないた。


髭の男が舌打ちした。


「もう行くぞ」


若い兵は竈から目を離した。


毛布とパンを持って出た。


門のところで、髭の男が振り返った。


「靴、隠しとけ。次の奴は持っていくぞ」


冗談なのか分からなかった。


二人は次の家へ向かった。


ステパンはしばらく立っていた。


追いかける気にはならなかった。


足が震えていた。


怒りなのか、怖さなのか、自分でも分からない。


膝の力が抜け、戸口に手をついた。指の間に木のささくれが刺さったが、抜くこともできなかった。


三軒先から、また声がした。


今度は女の声ではなかった。


フェドートが泣いていた。


兵たちが村を出たのは、それから一時間ほどしてからだった。


牛を一頭連れていった。


荷車も一台。


いくつかの家から靴や上着、毛布、食べ物を持ち出していた。


誰も追わなかった。


馬の音が消えてから、村人が家から出てきた。


ダーリヤも戻った。


アンナを抱き、コーリャの手を握っている。


ステパンの顔を見る。


「殴られたの」


「一発だけだ」


「歯は?」


ステパンは舌で確かめた。


「ある」


ダーリヤはうなずいた。


それからフェドートの家を見た。


女たちが何人か集まっていた。


ダーリヤはアンナをステパンへ渡した。


「行ってくる」


「何しに」


「必要だから」


「何が」


ダーリヤは答えなかった。


家へ入り、古いスカートと布、水の入った桶を持って出た。


ステパンはそこで分かった。


「ダーリヤ」


彼女は振り返らなかった。


フェドートは家の外に座っていた。


顔が腫れている。


両手で頭を抱えていた。


ステパンが近づくと、フェドートは顔を上げた。


何か言おうとした。


声にならなかった。


ステパンも何も言えなかった。


家の中から、女たちの低い声が聞こえた。


リューバの声は聞こえなかった。


ミハイルが後ろから来た。


唇を切っていた。


「お前もやられたか」


「一発」


「俺は二発だ。俺の勝ちだな」


「馬鹿か」


「そうかもしれん」


ミハイルは笑わなかった。


二人でフェドートの家を見た。


しばらくしてミハイルが言った。


「銃、持ってる家がある」


ステパンは横を見る。


「何?」


「村に何挺かある」


「何で知ってる」


「知ってるから知ってる」


「誰が持ってる」


「言うわけないだろ」


「今言っただろ」


「あるって言っただけだ」


ステパンはミハイルの胸ぐらをつかみそうになった。


指が宙で固まった。


やめた。


「今日、使えばよかっただろ」


ミハイルの目が細くなった。


「六人撃って、それで終わると思うか」


「じゃあ何のための銃だ」


「次に十人、二十人来た時、村ごと焼かれないために隠してるんだよ」


「それじゃ何も守れん」


「撃っても守れん時がある」


ステパンはフェドートを見た。


その言葉が腹立たしかった。


正しいかもしれないから、余計に腹が立った。


夕方になって、パーヴェルが戻ってきた。


村へ入る前から様子がおかしいことに気づいた。


荷車が一台なくなっている。


牛のいた柵が空いている。


道に血が落ちている。


家へ走ってきた。


「兄貴」


ステパンは納屋の前にいた。


「何があった」


「白の兵が来た」


パーヴェルの顔色が変わった。


「何人」


「六」


「いつ」


「昼」


「怪我は?」


「俺はこれだけだ」


頬を指した。


パーヴェルは家を見た。


「ダーリヤたちは」


「無事だ」


パーヴェルが息を吐いた。


「他は?」


ステパンは答えなかった。


その沈黙で、弟の顔が固くなった。


「誰」


「フェドートの家だ」


パーヴェルはそちらへ行こうとした。


ステパンが腕をつかんだ。


「今は行くな」


「何された」


「行くな」


パーヴェルは兄の手を振りほどかなかった。


「兄貴」


ステパンは言った。


「明日も赤と行くのか」


「行く」


今度は迷わなかった。


「そうか」


パーヴェルが兄を見る。


いつもなら、そこで喧嘩になる。


今日は違った。


ステパンの視線が、パーヴェルの肩へ落ちた。


小銃があった。


朝、返したものとは別の銃だった。


「それは」


「今日から借りろって」


「弾は」


パーヴェルが目を上げた。


「え?」


「弾は何発ある」


弟はしばらく兄を見た。


「十五」


「全部持ってるのか」


「うん」


ステパンは家の戸を開けた。


「中に置け」


パーヴェルは動かなかった。


「昨日は外に置けって言っただろ」


「昨日は昨日だ」


「兄貴」


「早くしろ」


ステパンは、銃を持つことが家族を危険にさらすと思っていた。だが、銃を持たないままでは、守るために差し出せるものが増えていくだけだった。怖さが消えたわけではない。ただ、沈黙や妥協だけでは足りないと、ようやく認めた。


パーヴェルは何も言わず、家へ入った。


ダーリヤが竈の前から振り返った。


弟の肩の銃を見る。


次にステパンを見る。


「中へ入れるの」


「ああ」


ダーリヤは少し黙った。


「子供に触らせないで」


「分かってる」


それだけだった。


夜、ステパンは戸締まりをした。


木の閂を掛ける。


何度押しても、昼の兵なら蹴破れる気がした。


外では風が納屋の板を叩いていた。


そのたびに、馬の蹄が戻ってきたように聞こえた。


家の隅には小銃が置いてある。


その横でパーヴェルが寝ていた。


ステパンは銃を見た。


銃身の黒い光が、暗がりの中で消えなかった。


昨日まで、家の中に入れるなと言っていた。


今夜は、自分で戸を閉め、その内側に銃を置いた。


怖さは消えない。それでも、もう銃を外へ戻すつもりはなかった。十五発で家族を守れる保証はない。だが、守るために手に取るものが必要だった。ステパンは眠らず、戸の向こうの気配を待った。

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