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赤い悪魔と白い悪魔  作者: ぺんぎん


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3/7

銃

馬がいなくなってから三日目、ステパンは弟と二人で麦袋を運んでいた。

ミハイルから借りた牝馬は午前中だけ使った。腫れた脚をこれ以上悪くすれば、今度はミハイルの家まで馬を失う。

だから午後は人間が運ぶ。

パーヴェルが袋の端を持ち上げた。

「せーの」

「待て。そっちが低い」

「兄貴が持ち上げすぎなんだよ」

「お前が弱い」

「馬と比べるな」

二人で荷車へ載せた。

パーヴェルは腰を伸ばし、息を吐いた。

「これ、あと何袋だ」

「十七」

「聞かなきゃよかった」

「聞いたのはお前だ」

パーヴェルは笑いながら地面へ座った。

ステパンは座らなかった。

次の袋へ手を掛ける。

「少し休めよ」

「日が落ちる」

「兄貴が倒れたら、もっと遅れるぞ」

「倒れん」

「そういうところだぞ」

「何がだ」

「知らん」

またそれだった。

ステパンは弟を見た。

パーヴェルは笑っている。

三日前に白軍の騎兵へ食ってかかった男と、同じ顔には見えなかった。

遠くで犬が吠えた。

次に、道の方から馬の蹄の音がした。

ステパンとパーヴェルは同時に顔を上げた。

笑いが消えた。

畑の端を、騎馬の男が二人こちらへ向かってくる。

パーヴェルが立ち上がった。

「白か?」

「分からん」

ステパンは鎌を手に取った。

近づくにつれて、一人の帽子に赤い布が見えた。

パーヴェルが息を吐く。

「赤だ」

ステパンは鎌を戻さなかった。

「赤なら安心なのか」

パーヴェルは答えなかった。

二人の兵は畑の脇で馬を止めた。

「オルロフカの者か」

「そうだ」

ステパンが答えた。

「この辺りの道を知ってる男を探してる」

「何のためだ」

「白軍の騎兵が北へ抜けた。小さい隊がまだ近くに残っているらしい。街道を外れた道を知りたい」

ステパンは兵の後ろを見た。

少し離れたところに、さらに六人ほど待っている。

「村の誰かに聞け」

「だから聞いてる」

「俺たちは麦を運んでる」

兵は荷車を見た。

「見れば分かる」

その言い方が、三日前の騎兵と同じだった。

ステパンの顔が固くなった。

パーヴェルが横から聞いた。

「どこまで案内するんだ」

ステパンが振り向いた。

「おい」

兵はパーヴェルへ向いた。

「川沿いの森まででいい。そこから北へ抜ける細い道があるだろ」

「ある」

「パーヴェル」

兄の声が低くなった。

パーヴェルは聞こえなかったふりをした。

「その道なら知ってる。子供のころから使ってる」

「なら来てくれ」

「待て」

ステパンが二人の間へ入った。

「こいつは行かん」

兵が眉を上げた。

「本人に聞いてる」

「こいつはうちの働き手だ」

「兄貴」

「黙ってろ」

パーヴェルの顔から笑いが消えた。

「俺は子供じゃない」

「分かってる。だから麦を運べ」

「白軍がまた来たら、その麦ごと持っていかれるかもしれないだろ」

「来たらその時考える」

「三日前もそう言ってた」

ステパンが黙った。

パーヴェルは続けた。

「馬を取られてから考えて、何が戻った?」

言ってから、パーヴェル自身が少し後悔した顔をした。

ステパンは鎌の柄を握り直した。

「もう一度言ってみろ」

「兄貴」

「言え」

兵が二人を見比べていた。

パーヴェルは目をそらさなかった。

「俺は、次も取られるまで待つのは嫌だって言ってる」

ステパンの胸の奥で、三日前の手綱の感触が戻った。

自分で手を放した。

麦を守れなかった。

馬も守れなかった。

そこを弟に触られた。

「だから赤についていくのか」

「白を追い出すんだ」

「昨日、麦を持っていった連中だぞ」

「昨日じゃない。四日前だ」

「どっちでもいい」

「兄貴にはな」

パーヴェルの声が強くなった。

「俺にはよくない」

兵が口を挟んだ。

「行くのか、行かないのか」

「行く」

「行かん」

兄弟の声が重なった。

しばらく誰も話さなかった。

パーヴェルが先にステパンから目を外した。

「案内するだけだろ」

兵がうなずく。

「日が落ちる前には戻す」

ステパンは鼻で笑った。

「兵隊の“戻す”を信じろって?」

男は少し顔をしかめた。

「俺はお前の弟を徴兵しに来たんじゃない」

「同じだ」

「違う」

「連れていくなら同じだ」

今度はパーヴェルが言った。

「俺が行くんだよ」

その一言で、ステパンは黙った。

連れていかれるのではない。

パーヴェルが行く。

そこが、ステパンには一番気に入らなかった。

道の向こうからミハイルが来た。

牝馬を返しに来たのかと思ったが、こちらの赤軍兵を見ると足を止めた。

「何だ。また何か取るのか」

兵が睨む。

「道を聞いてるだけだ」

「道なら口で教えればいい」

パーヴェルが言った。

「俺が案内する」

ミハイルはパーヴェルを見た。

「何でお前が」

「白軍が近くに残ってるらしい」

「それで?」

「追い出す」

ミハイルは少し黙った。

「お前、三日前に馬を取られて頭まで持っていかれたのか」

「お前は何もしないのか」

「するさ」

「何を」

「次に来た奴から、隠せる物を先に隠す」

パーヴェルが呆れた顔をした。

「それでずっと逃げるのか」

「誰から?」

「白軍からだよ」

「赤が来たら?」

「またそれか」

「まただ。麦を持っていったのは誰だ」

パーヴェルは一歩近づいた。

「だからって白軍を放っておく理由にはならない」

「赤についていく理由にもならん」

二人の間にステパンが入った。

「やめろ」

ミハイルはパーヴェルを見たまま言った。

「お前が行きたいなら行け。俺は止めん」

「なら黙ってろ」

「ただ、帰ってきて“赤は違った”なんて言うなよ」

「何が言いたい」

「旗が違っても、腹が減れば人の物を取る。あいつらも人間だってことだ」

兵の顔色が変わった。

ステパンはミハイルの胸を押した。

「帰れ」

「何で俺が」

「今は帰れ」

ミハイルは兵を見て、それからステパンを見た。

「分かったよ」

数歩歩いてから、振り返る。

「パーヴェル」

「何だ」

「死ぬなよ。屋根直す人間が一人減る」

パーヴェルは一瞬きょとんとして、それから笑った。

「それは兄貴の仕事だ」

「じゃあ死んでもいいか」

「よくない!」

パーヴェルが笑いながら怒鳴った。

ステパンは笑えなかった。

兵の一人が馬から降りた。

鞍に括りつけていた小銃を一本外す。

「持てるか」

パーヴェルの笑いが止まった。

差し出された銃を見る。

「案内だけじゃないのか」

「道で白に会ったら、案内人だけ丸腰にしておくわけにいかん」

ステパンがすぐに言った。

「要らん」

兵は彼を見なかった。

パーヴェルへ差し出している。

「使ったことは?」

「ない」

「撃ち方だけ教える」

パーヴェルはしばらく銃を見ていた。

さっきまでの勢いが少しだけ消えていた。

ステパンはそれを見逃さなかった。

「やめるなら今だぞ」

弟がこちらを見る。

そこには怖さがあった。

ステパンは、少し安心した。

怖いならやめる。

そう思った。

だがパーヴェルは銃を受け取った。

重さに腕が一度沈んだ。

「重いな」

兵が言った。

「人を殺す道具だからな」

パーヴェルは笑わなかった。

ステパンの安心は消えた。

家へ戻ると、ダーリヤはすぐ人数が一人足りないことに気づいた。

「パーヴェルは?」

ステパンは荷車から麦袋を下ろした。

「赤い兵と行った」

ダーリヤの手が止まる。

「どこへ」

「白軍を探しに」

「何しに?」

「道案内だ」

少し間を置いてから付け足した。

「銃も持っていった」

ダーリヤは何も言わなかった。

納屋の方を見る。

「今日の残りは?」

「俺がやる」

「一人で?」

「やる」

ダーリヤは夫の顔を見た。

「怒ってるの」

「怒ってない」

「そう」

それ以上聞かなかった。

二人で荷車から麦を下ろした。

コーリャも小さな束を抱えて手伝った。

日が傾いても、パーヴェルは戻らなかった。

ステパンは何度も街道を見た。

そのたびにダーリヤは何も言わず、次の仕事を渡した。

暗くなり始めたころ、犬が吠えた。

ステパンは手にしていた桶を置いた。

街道から人影が一つ歩いてくる。

「兄貴!」

パーヴェルだった。

ステパンは動かなかった。

弟は泥だらけだったが、怪我はない。

肩には、朝には持っていなかった小銃が残っていた。

「返さなかったのか」

最初に出た言葉がそれだった。

「明日の朝、村の評議会へ持っていけって」

「明日も行くのか」

パーヴェルはすぐには答えなかった。

その沈黙で十分だった。

「行くんだな」

「白軍の跡がまだ北にある。今日、森で馬の蹄の跡を見つけた」

「そんなこと聞いてない」

「兄貴」

「明日の麦はどうする」

パーヴェルは肩の銃を見た。

それから畑の方を見た。

「朝、運ぶの手伝う。それから行く」

ステパンは弟を見た。

朝まで畑にいてほしいのか。

銃を捨ててほしいのか。

赤軍についていくなと言いたいのか。

どれも同じ言葉にはならなかった。

パーヴェルが家へ入ろうとした。

ステパンはその背中へ言った。

「それ、家の中に持ち込むな」

パーヴェルが振り返る。

「なんで」

「子供がいる」

「弾は抜いてある」

「外に置け」

「盗まれたらどうする」

「なら抱いて寝ろ」

パーヴェルも腹を立てた。

「兄貴は何が気に入らないんだよ」

ステパンはすぐには答えなかった。

馬を取られたこと。

弟が自分の言うことを聞かないこと。

赤軍についていったこと。

銃を持って帰ってきたこと。

全部だった。

だが、そのどれでもない気もした。

「その銃を持ってるお前が気に入らん」

パーヴェルの顔から怒りが消えた。

兄弟はしばらく黙っていた。

やがてパーヴェルは銃を家の壁へ立てかけた。

雨の当たらない軒下だった。

「ここならいいか」

ステパンはうなずかなかった。

パーヴェルも返事を待たず、家へ入った。

夜になって、ステパンは外へ出た。

壁には小銃が立てかけてある。

その隣には、いつも自分が使う鎌があった。

畑で使う道具と、人を撃つ道具。

どちらも同じ家の壁に置かれていた。

ステパンはしばらく見ていた。

昨日まで、この家に銃はなかった。

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