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赤い悪魔と白い悪魔  作者: ぺんぎん


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2/7

馬

「馬を出せ」


白軍側の騎兵は、村へ入ると家ごとに同じことを言った。


ステパンの前にいる男も馬から降りようとはしなかった。軍服は埃で白く、頬には何日も剃っていない髭が伸びている。乗っている馬の脇腹には、汗が乾いて塩のような跡が残っていた。


「使える馬を集める。軍に必要だ」


ステパンは自分の馬の首に手を置いた。朝から畑で働かせていたので、毛はまだ湿っている。


「これは畑の馬だ」


「見れば分かる」


「なら置いていけ。馬がなければ耕せん」


騎兵は村の家々を見回した。


「ここの馬は、みんな畑の馬だろう」


別の兵が馬から降り、口を開かせて歯を見た。前脚を撫で、背中を押し、最後に尻を軽く叩く。


「使える」


ステパンは手綱を短く持った。


「触るな」


兵が顔を上げた。


「何だ?」


「俺の馬だ」


「今から軍の馬だ」


ステパンの指が手綱へ食い込んだ。


少し後ろにいたパーヴェルが一歩出た。


「勝手に決めるのか」


ステパンは弟を見た。


騎兵も見た。


「何か言ったか」


パーヴェルは一瞬だけ口を閉じたが、引かなかった。


「人の村に入ってきて、馬を持っていく。それで何を守ってるんだって言ったんだ」


「パーヴェル」


今度はステパンが止めた。


兄に名前を呼ばれ、パーヴェルは舌打ちして半歩下がった。


騎兵は鼻で息を吐いた。


「戦争をしている。馬が要る」


「俺は戦争なんかしてない」


ステパンが言うと、男は初めて彼をまともに見た。


「農夫か」


「そうだ」


「なら土地が要る。馬が要る。分かってる」


「分かってるなら置いていけ」


男は疲れたように首を振った。


「こっちも馬がなければ動けん」


「それは俺の知ったことじゃない」


後ろにいた兵が小銃を持ち直した。


その金属音だけで、ダーリヤが戸口から顔を上げた。


コーリャとアンナを家の後ろへ押しやり、自分はそこに残る。


「ステパン」


ステパンは振り向かなかった。


「馬を渡したら、秋はどうする」


「だから渡さん」


「違う」


ダーリヤの声は静かだった。


「あんたまでいなくなったら、誰が畑をやるの」


ステパンの手が止まった。


小銃を持った兵と、馬の手綱と、戸口に立つダーリヤを順に見た。


そのとき、道の向こうからミハイルが歩いてきた。畑仕事の途中らしく、シャツの袖を肘までまくり、額から汗を流している。


村の真ん中に並んだ騎兵と、ステパンの馬を見て、すぐ事情を察した。


「今度は馬か」


騎兵の一人が振り向いた。


「何だ」


「昨日は赤い連中が麦を持っていった。今日はあんたらが馬だ。明日は何を持っていくのかと思っただけだ」


「ミハイル」


ステパンが低く言った。


ミハイルは肩をすくめた。


「聞いただけだ」


騎兵はしばらく彼を睨んでいたが、相手にしなかった。


「手綱を放せ」


ステパンはまだ握っていた。


馬一頭のために撃たれるつもりはなかった。


そんなことは分かっている。


分かっているのに、指が開かなかった。


コーリャが戸口から父親を見ていた。


ステパンはそれに気づいた。


息子の前で、自分の馬を持っていかれる。


昨日は麦を守れなかった。


今日は馬を守れない。


そのことの方が、小銃より腹立たしかった。


「ステパン」


ダーリヤがもう一度呼んだ。


彼は手を開いた。


兵が手綱を取った。


殴られもしなかった。罵られもしなかった。


何も起きなかった。


だからこそ、ステパンには堪えた。


自分が手を放した。ただそれだけで、馬は他人のものになった。


兵が鞍を替えている間に、コーリャが父親の横まで来た。


「どこに連れていくの」


「知らん」


「いつ帰ってくる?」


ステパンは答えられなかった。


ダーリヤが代わりに言った。


「帰ってこないよ」


コーリャは母親を見た。


「どうして? うちの馬だよ」


誰も答えなかった。


騎兵たちは村からさらに数頭を集め、来たときより大きな馬の列を作って街道へ戻っていった。


ステパンの馬は途中で一度だけ立ち止まり、後ろを向いた。


コーリャが駆け出しかけた。


ダーリヤが肩をつかむ。


「駄目」


「呼べば戻るよ」


「呼ばないの」


「なんで?」


ダーリヤは遠ざかる馬を見たまま言った。


「戻ってきたら、また連れていかれるから」


馬の列が道の先へ消えると、最初に口を開いたのはパーヴェルだった。


「だから追い出さなきゃ駄目なんだ」


ミハイルが振り向いた。


「誰を」


「白軍だよ。決まってるだろ」


「昨日、麦を持っていった連中は?」


パーヴェルの顔から少しだけ勢いが消えた。


「あれは……軍と町に送るって話だった」


「今日の連中も軍に必要だって言ってたぞ」


「同じじゃない」


「俺には同じだ。村へ来て、人の物を勝手に持っていく」


「白軍を放っておいたら、もっとひどくなる」


「赤を放っておけば麦がなくなる」


「お前、何でも一緒にするなよ」


「旗の色で腹が膨れるなら分けてやる」


二人の声が少しずつ大きくなった。


ステパンは空になった馬小屋を見たまま言った。


「どっちでもいい」


パーヴェルが兄を見る。


「よくないだろ」


「白が正しくても、赤が正しくても、馬は戻らん」


「正しいかどうかの話じゃない。これからの話だよ」


「俺のこれからは、明日の畑だ」


パーヴェルは何か言い返そうとしたが、ダーリヤが先にミハイルへ向いた。


「ミハイル。あんたの牝馬、脚を痛めてたよね」


男三人が一斉に彼女を見た。


「まだ腫れてる」


「荷車なら?」


「軽ければ引ける。畑は長く使えん」


「明日、借りたい」


ステパンがようやく馬小屋から目を離した。


「借りん」


ダーリヤは夫を見た。


「刈った麦を畑に置いておくの?」


「俺が運ぶ」


「何往復するつもり?」


「パーヴェルもいる」


「冬の薪は?」


ステパンは黙った。


「春の耕しは、そのあと考える。今は刈った麦を濡らさないことが先」


ミハイルが小さく笑った。


「お前の家で一番話が早いのはダーリヤだな」


「黙れ」


「牝馬は貸す。代わりに冬までに屋根を見てくれ。西側から雨が入る」


ダーリヤはすぐうなずいた。


「それでいい」


ステパンはまだ納得していなかったが、断る理由を一つずつ潰されていることは分かった。


パーヴェルが兄の肩を軽く叩いた。


「革命で土地が増えて、ミハイルの馬で耕す。世の中、うまくできてるな」


「どこがだ」


「兄貴が怒ってるうちは大丈夫だ」


「何が大丈夫なんだ」


「知らん」


パーヴェルが笑った。


ミハイルも笑った。


ステパンは笑わなかったが、二人を追い払おうともしなかった。


しばらくしてパーヴェルが、騎兵の消えた街道を見ながら言った。


「俺はやっぱり、あいつらを追い出さなきゃ駄目だと思う」


さっきまでの冗談とは違う声だった。


ミハイルは壁に背を預けた。


「俺は赤も白も、村に来なきゃそれでいい」


「そんな都合よくいくかよ」


「だから腹が立つんだろ」


パーヴェルは兄を見た。


「兄貴は?」


ステパンは答える代わりに、空になった馬小屋の扉を閉めた。


「明日の朝、ミハイルの牝馬を借りる」


パーヴェルは呆れた顔をした。


「そういう話じゃないだろ」


「俺にはそういう話だ」


翌朝、ステパンはいつもの時間に目を覚ました。


体が先に動き、馬へ餌をやろうとして外へ出る。


空の馬小屋を見て、足が止まった。


昨日までそこにあった体温も、藁を踏む音も、鼻を鳴らす音もない。


やがてミハイルの牝馬を借りて畑へ出たが、脚をかばう馬に無理はさせられなかった。午前の半ばには休ませ、残りは人の手で運ぶことになった。


朝露の残る麦畑の向こうには、革命のあとで増えた土地が続いている。


昨日まで、その広さを見るたびに少し得をした気分になった。


今日は違った。


ステパンは畑を端から端まで見渡した。


革命で増えた土地を見て、彼は初めて、土地が広すぎると思った。

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