第6話 最弱魔術師、まさかの共闘
第6話 最弱魔術師、まさかの共闘
ドドドドドドッ!!
無数の魔物が、暗い通路から一斉に飛び出してきた。
「多すぎるって!!」
アルトは思わず叫んだ。
黒い狼のような魔物。
巨大なトカゲのような魔物。
さらに、見たこともない異形の魔物までいる。
赤い目がいくつも闇の中で光っていた。
「レグナス!」
「なんだ」
「これ、全部倒すの!?」
「そうだ」
「無理!!」
「なぜだ?」
「僕、最弱魔術師なんだけど!?」
「……そうだったな」
レグナスが真顔で頷いた。
「忘れていた」
「忘れないでよ!」
アルトが叫ぶ。
その直後。
魔物の一体が飛びかかってきた。
「うわっ!」
アルトは慌てて横へ飛ぶ。
ドゴォン!!
魔物の爪が床を砕いた。
「危なっ!」
アルトは転がりながら立ち上がる。
次の魔物が迫ってくる。
「もう一体!?」
さらに右からも魔物が飛びかかってきた。
「ちょっと待って! 一匹ずつ来てよ!」
当然、魔物たちにそんなお願いが通じるはずもない。
「アルト!」
レグナスの声が響く。
「伏せろ!」
「え?」
アルトがしゃがんだ瞬間――。
ゴォォォォッ!!
頭上を巨大な炎が通り抜けた。
「うわあああっ!」
炎は魔物の群れをまとめて吹き飛ばした。
黒い煙が立ち込める。
「…………」
アルトは呆然とレグナスを見る。
「……強すぎない?」
「普通だ」
「それを普通って言う人、初めて見たよ……」
レグナスは答えず、再び手を掲げた。
しかし――。
魔物の一体が炎を突き破って飛び出してきた。
「レグナス!」
「分かっている」
レグナスが振り返る。
だが、魔物はすでに目の前まで迫っていた。
「――っ!」
アルトは反射的に手を前へ出した。
「ᛉ(アルギズ)!」
青白い結界が展開する。
ガギィィン!!
魔物の爪が結界にぶつかった。
「ぐっ……!」
アルトの腕に衝撃が走る。
結界に亀裂が入った。
「やっぱり……重い!」
魔物がさらに力を込める。
ギギギギ……。
「アルト!」
「分かってる!」
アルトは歯を食いしばった。
そして、頭の中に嫌な考えが浮かぶ。
――ルーンを使えば、記憶を失う。
母の顔を失った。
そして、もう一つ。
何を失ったのかすら分からない記憶。
「……また……」
怖い。
次に失うのは何だ?
父の声か。
村での思い出か。
友達との約束か。
それとも――。
「……僕自身か」
魔物が結界を破ろうとする。
「……でも」
アルトは魔物の後ろを見る。
そこにはレグナスがいた。
そして、そのさらに奥には――。
逃げ遅れた魔物たちがいる。
「僕がここで使わなかったら……」
誰かが傷つく。
アルトは震える手を握った。
「……だったら!」
右手に炎が集まる。
「ᚲ(ケナズ)――!」
ゴォォォォォッ!!
炎が爆発した。
魔物は炎に包まれ、吹き飛んでいく。
「よし……!」
アルトは息を切らした。
しかし――。
頭の奥がズキンと痛んだ。
「……っ」
膝をつく。
まただ。
また、何かが消えた。
「……何を……」
アルトは必死に記憶を探す。
けれど、分からない。
「……また分からない……」
怖かった。
分からないことが、何より怖い。
レグナスが近づいてくる。
「アルト」
「……何?」
「今、何を失った?」
「……分からない」
レグナスは黙った。
「それが、ルーンの恐ろしさだ」
「……うん」
アルトは俯いた。
その時――。
背後から、魔物の影が迫った。
「アルト!」
「え?」
振り返る。
巨大な爪が迫っていた。
「――っ!」
間に合わない。
その瞬間。
レグナスがアルトの前に立った。
ガキィン!!
魔物の爪を、片手で受け止める。
「…………」
アルトは目を丸くした。
「……え?」
レグナスは魔物の爪を掴んだまま、淡々と言った。
「油断するな」
「……はい」
「死ぬぞ」
「……はい」
「返事だけは素直だな」
「怖いんだから仕方ないでしょ!」
レグナスが魔物を投げ飛ばした。
ドゴォン!!
壁に激突した魔物が動かなくなる。
「……すごい」
アルトは思わず呟いた。
するとレグナスが振り返った。
「何を見ている」
「いや……僕もいつか、あれくらい強くなれるのかなって」
「無理だ」
「即答!?」
「今の汝ではな」
「今のってことは、将来は可能性ある?」
「努力次第だ」
「よし!」
アルトは少しだけ笑った。
初めてだった。
この遺跡に来てから、心の底から笑えたのは。
だが――。
その時。
ドクン。
アルトの胸の奥で、ルーンが強く輝いた。
「……え?」
床に刻まれていた無数の文字が、一斉に光り始める。
レグナスの表情が変わった。
「これは……」
「どうしたの?」
「新しいルーンが目覚めようとしている」
「……新しい?」
アルトの目の前。
空中に、一つの文字が浮かび上がった。
ᛏ。
それを見た瞬間。
アルトの頭の中に、意味が流れ込んできた。
「……ティール」
――戦い。
――勝利。
――正義。
アルトは息を呑んだ。
「これも……僕が使えるの?」
「まだ分からぬ」
レグナスは険しい顔をした。
「だが、一つだけ確かなことがある」
「何?」
「そのルーンは――」
ᛏ(ティール)が、さらに強く輝く。
「今までのルーンとは違う」
「…………」
アルトは嫌な予感を覚えた。
「どう違うの?」
レグナスは答えなかった。
ただ、空中に浮かぶルーンを見つめている。
そして、静かに呟いた。
「……戦いの神の文字だ」
その瞬間。
遺跡のさらに奥から――。
今までとは比べものにならないほど巨大な咆哮が響き渡った。
グォォォォォォォン!!
地面が大きく揺れる。
アルトは青ざめた。
「……ねえ、レグナス」
「なんだ」
「もしかして……」
アルトは震えながら、暗闇を見る。
「さっきまでの魔物って……」
「前座だ」
「…………」
「そういうことだ」
「聞きたくなかった!!」
アルトの叫び声とともに。
ᛏ(ティール)のルーンが、真紅の光を放った。




