第24話 黒き神との戦い
第24話 黒き神との戦い
轟音が、地下神殿を揺らした。
「うわああああっ!」
天井から巨大な石が落ちてくる。
アルトは慌てて飛び退いた。
「危なっ!」
ドゴォンッ!
石が床にめり込む。
レグナスは眉一つ動かさない。
「騒ぐな」
「いや、今のは騒ぐでしょ!」
少女が思わず笑う。
「昔から変わらないわね」
「だから僕、昔どんな人だったの!?」
「……今と同じよ」
「それ褒めてる?」
少女は答えなかった。
その代わり、前方を見つめる。
そこには――
巨大な黒い存在が立っていた。
四本の腕。
黒い鱗。
赤く燃える瞳。
胸には巨大な、
ᚦ(スリサズ)――「終焉・断絶・消滅」を意味する黒きルーン。
アルトの胸にある紋様と同じものだった。
『……アルト』
低い声が響く。
『千年ぶりだ』
「……僕は、お前を知っている」
『そうだ』
「でも、お前が僕の全部じゃない」
黒き神のような存在が笑った。
『ならば、証明してみろ』
四本の腕が一斉に振り下ろされる。
「来る!」
レグナスが杖を掲げた。
「――炎よ!」
巨大な炎の壁が出現する。
ドォォォン!
黒い腕と炎が激突した。
しかし――
炎が、消えた。
「なっ……!」
レグナスの表情が変わる。
黒きᚦが、炎とのつながりを断ったのだ。
「レグナス!」
「分かっている!」
レグナスが後方へ跳ぶ。
次の瞬間。
床そのものが黒く切り裂かれた。
「うわっ!」
アルトも飛び退く。
床が音もなく消えていく。
「普通の魔法じゃ駄目だ!」
「そうだ」
レグナスが答える。
「ならば、お前の番だ」
「えっ、僕!?」
「最弱魔術師」
「その呼び方やめて!」
「事実だ」
「今は励ましてよ!」
少女が吹き出した。
「ふふっ……」
「笑わないでよ!」
だが、アルトはすぐに表情を引き締めた。
右手を見る。
そこには神の文字が刻まれている。
ᛗ。
ᛋ。
そして――
『繋ぐ』
「……黒きᚦは、つながりを断つ」
アルトは呟く。
「だったら、僕は逆にする」
少女が頷いた。
「そう」
「つなげる」
アルトは地面に手をついた。
「――みんなの力を!」
ᛗ(マンナズ)が輝く。
白い光が広がった。
アルトとレグナス。
アルトと少女。
そして――
アルトとエルナ神都。
すべてを白い線が結んでいく。
黒き神が動きを止めた。
『……その力』
「これが、僕の力だ!」
アルトが叫ぶ。
「僕一人じゃない!」
レグナスが杖を構える。
「ならば、道を開く」
「頼む!」
レグナスの魔力が爆発した。
炎。
雷。
風。
大地。
あらゆる魔法が同時に放たれる。
黒き神は腕を振る。
しかし――
アルトの白い線が、それらをつないでいた。
黒きᚦが魔法とのつながりを断とうとしても、別のつながりがそれを補う。
「今だ!」
レグナスの攻撃が黒き神の胸を直撃した。
「ᛏ(ティール)――!」
アルトも続く。
「戦い・勝利・正義」のルーン。
光の刃が黒きᚦへ向かう。
ギィィィン!
黒き神の胸に亀裂が走った。
『ぐ……!』
初めて苦しそうな声が響く。
「効いてる!」
アルトはさらに踏み込む。
だが――
黒き神の目が赤く輝いた。
『ならば、つながりごと断つ』
「……!」
黒い線がアルトへ向かって飛ぶ。
狙いは――
アルトと少女のつながり。
「させない!」
少女がアルトの前に立った。
「危ない!」
黒い線が少女の胸へ迫る。
その瞬間――
アルトの中で、何かが弾けた。
「やめろおおおお!」
白い光が爆発する。
ᛋ(ソウェイル)が輝く。
少女の姿が光に包まれた。
黒い線が消える。
そしてアルトの目の前に、一つの記憶が浮かんだ。
千年前。
燃える神都。
少女がアルトの手を握っている。
「絶対に戻ってきて」
「うん」
「約束よ」
「約束する」
少女が泣きながら笑う。
「たとえ全部忘れても?」
少年だったアルトは笑った。
「君が僕を見つけてくれるなら、きっと思い出せるよ」
「……そうね」
少女はアルトの胸に手を当てる。
「だから、これをあなたに残す」
光がアルトの胸へ入る。
そして――
少女の声。
「あなたの本当の名前を、忘れないで」
記憶が途切れた。
「……本当の名前」
アルトは呟いた。
黒き神が笑う。
『思い出したか?』
「まだ全部じゃない」
『ならば、思い出せ』
「嫌だ」
『なぜだ?』
アルトは顔を上げた。
「僕は、過去に縛られるために思い出すんじゃない」
ᛗが強く輝く。
「未来を選ぶために、思い出すんだ!」
黒き神が咆哮した。
『ならば――その未来ごと消してやる!』
四本の腕が振り上げられる。
神殿全体が震えた。
少女が叫ぶ。
「アルト! 最後の文字を!」
「まだ使い方が分からない!」
「心で意味を決めて!」
「そんな無茶な!」
レグナスが叫ぶ。
「考えるな!」
「え?」
「お前が今、何を望んでいるかだ!」
アルトは目を閉じる。
思い浮かぶ。
リーネ村。
父の声。
母の笑顔。
レグナス。
少女。
そして――
エルナ神都の人々。
「僕は……」
手を伸ばす。
「誰も消したくない」
最後の神の文字が、まばゆい光を放った。
『繋ぐ』
白い光が神殿を満たしていく。
黒き神の身体に、無数の亀裂が走った。
『なぜだ……』
『なぜ、お前は……断たない……』
アルトは答えた。
「僕はもう、何かを消すために力を使わない」
「失ったものを――」
「つなぎ直すために使う!」
光と闇が激突する。
その瞬間。
黒き神の胸にあった黒きᚦが、大きく割れた。
しかし――
完全には壊れない。
むしろ亀裂の奥から、さらに巨大な黒い目が開いた。
少女の顔から血の気が引く。
「……違う」
アルトが振り返る。
「何が?」
少女は震える声で言った。
「今、私たちが戦っていたのは……」
黒い目がゆっくりとこちらを向く。
「黒きᚦの本体ではない」
「……え?」
「ただの――」
少女が絶句する。
地下深くから、さらに巨大な気配が目覚める。
「――『器』だったの」
地面が大きく割れた。
その底から現れたのは――
神殿すら覆い尽くすほど巨大な黒い腕だった。
アルトは呆然と見上げる。
「……まだ、いるの?」
レグナスが静かに答えた。
「どうやらな」
「……」
アルトは頭を抱えた。
「最弱魔術師に、難易度高すぎない!?」
少女が思わず笑った。
そして――
三人は、さらに深い闇を見据えた。
第24話 終




