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『最弱魔術師、神の文字を刻む』 ――最弱魔術師。その正体は、千年前の大罪人。  作者: 雨宮ぐみ


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第14話 存在断ちへの反撃

第14話 存在断ちへの反撃


 黒い霧が、地下遺跡を埋め尽くしていく。


 その中心で、黒きᚦ(スリサズ)が赤く輝いていた。


『ならば――試してやろう』


 黒い影が手を掲げる。


 次の瞬間。


 無数の黒い線が空中に走った。


「来る!」


 レグナスが叫ぶ。


 シュッ――!


 黒い線が、アルトへ向かって飛んでくる。


「ᛉ(アルギズ)――『守護』!」


 光の防壁が展開される。


 だが――。


 黒い線が触れた瞬間。


 防壁が消えた。


「……!」


 アルトは目を見開く。


 そして次の線が肩を掠めた。


 シュッ。


「っ!」


 服の一部が消える。


 傷はない。


 血も出ない。


 ただ、そこだけが最初から存在しなかったように消えている。


「これが……存在断ち……」


『そうだ』


 黒い影が笑う。


『お前の魔法も、お前自身も、同じだ』


「……!」


 また黒い線が飛んでくる。


 アルトは横へ飛んだ。


 床が消える。


 壁が消える。


 階段が消える。


 触れたものが、何の痕跡も残さず消えていく。


「こんなの……どうやって戦えばいいんだよ!」


「アルト!」


 レグナスが炎を放つ。


「考えろ!」


「考えてる!」


「なら、もっと考えろ!」


「無茶言うな!」


 アルトは走りながら叫んだ。


 普通の攻撃では駄目。


 防御も駄目。


 黒きᚦは魔法そのものとのつながりを断てる。


 なら――。


「……つながり」


 アルトが呟いた。


 黒きᚦは、何かを消しているわけじゃない。


 対象との「つながり」を断っている。


「だったら……」


 アルトは自分の手を見る。


 そこにはᛗ(マンナズ)が刻まれている。


 ――『人間・自己』。


「僕が……つながりを作ればいい」


『何を言っている?』


 黒い影が迫る。


「お前は、存在のつながりを断つんだろ?」


 アルトは一歩下がる。


「だったら――」


 右手を地面につける。


「僕のほうから、つなげる!」


 ᛗ(マンナズ)が輝いた。


 その光が床へ広がっていく。


 アルトの足元から、白い線が伸びる。


 床。


 壁。


 天井。


 そして――。


 レグナスへ。


「……アルト?」


「レグナス!」


「なんだ」


「僕とつながって!」


「意味がわからぬ」


「僕も半分くらいしかわかってない!」


「お前はいつもそうだな」


「今それ言う!?」


 白い光が二人を結ぶ。


 すると――。


 黒きᚦが放った黒い線が、アルトへ迫った。


「来い!」


 アルトは逃げなかった。


 黒い線が身体に触れる。


 ――だが。


 消えない。


「……!」


 アルト自身も驚いた。


 黒い線が、白い光の上で止まっている。


『なぜだ』


 黒い影が初めて動揺した。


「わかった……」


 アルトが息を整える。


「お前は、僕と世界とのつながりを切ろうとする」


 ᛗ(マンナズ)が強く輝く。


「でも、僕は一人じゃない」


 白い線がさらに広がる。


 レグナス。


 遺跡。


 そして――。


 アルトの記憶。


 父親の声。


 村の景色。


 失った母の顔。


 少女の声。


 それらが光となって、アルトの中へ集まっていく。


「僕が覚えているもの全部が――」


 アルトは黒い影を睨んだ。


「僕と世界をつないでる!」


『……!』


「だから――」


 アルトは右手を前へ突き出した。


「今度は、僕がお前とのつながりを断つ!」


 白い光が一気に黒い影へ伸びる。


 バァンッ!!


『ぐ……!』


 黒い影の身体に白い亀裂が走った。


「効いてる!」


 レグナスが目を見開く。


「アルト!」


「うおおおおっ!」


 アルトはさらに力を込める。


 黒い影の腕が消えていく。


 だが――。


「……っ!」


 激しい頭痛が襲ってきた。


「うあ……!」


 アルトの膝が崩れる。


 白い光が弱くなる。


「アルト!」


 レグナスが支える。


「大丈夫……」


 アルトは頭を押さえる。


「ちょっと……頭が痛いだけ……」


「嘘をつけ」


「……」


 アルトは苦笑する。


「……また、何か忘れた」


 レグナスの表情が曇る。


「何を?」


「わからない」


「……」


「でも――」


 アルトは黒い影を見る。


「今回は、ただ奪われたんじゃない」


 自分の胸に手を当てる。


「僕自身が、力を使ったんだ」


 黒い影がゆっくりと立ち上がる。


 身体の一部を失いながらも、まだ消滅していない。


『……愚かな』


 影が笑う。


『自分の記憶を燃やしてまで、我を断つか』


「……」


『いずれ、お前は何も覚えていられなくなる』


 アルトの顔が曇る。


 その言葉は、何よりも怖かった。


 それでも――。


「それでもいい」


 アルトは立ち上がる。


「……いや」


 一度、首を振る。


「よくない」


 アルトは自分の手を見る。


 ᛗ(マンナズ)が静かに輝いている。


「僕は、忘れたくない」


 そして黒い影を見据える。


「だから、強くなる」


『強くなる……?』


「うん」


 アルトは笑った。


「お前に全部消される前に、全部取り戻す」


 黒い影の笑みが消えた。


『……それは不可能だ』


「やってみなきゃ、わからないだろ」


「無謀だな」


 レグナスが呟く。


「でも――」


 レグナスは剣を構えた。


「嫌いではない」


「……レグナス」


「行くぞ、アルト」


「うん!」


 二人が同時に走り出す。


 黒い影も両手を広げる。


『ならば見せてみろ』


 黒きᚦ(スリサズ)が、巨大な黒い光を放つ。


 白と黒。


 存在をつなぐ力と、存在を断つ力。


 二つの力が真正面から激突した。


 その瞬間――。


 アルトの脳裏に、また少女の姿が浮かんだ。


 少女は微笑んでいる。


 そして今までとは違う言葉を口にした。


『アルト』


「……!」


『思い出して』


 光が弾ける。


 そして少女の手には――。


 アルトがまだ見たことのない、ひとつのルーンが刻まれていた。


 ――次の神の文字が、目を覚まそうとしていた。

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