第八章 八王会戦
白き天空大陸。
そこに並ぶ無数の神兵を前にして、世界中の戦いが止まった。
敵も味方もない。
誰もが空を見上げていた。
あれほど争っていた八つの勢力でさえ、その光景に息をのんだ。
魔王クリムトは静かに剣を収めた。
「予定より早すぎる。」
その隣では、大龍ベルフレイムが低く唸る。
「全部で何体いる?」
クリムトは空を見上げたまま答える。
「二千年前は、一万。」
「……!」
ベルフレイムの瞳が見開かれる。
「一万だと?」
「あれでも半分しか倒せなかった。」
その言葉は、初めて魔王の口から漏れた"弱音"だった。
フォーリア王国。
ジークは英雄レイモンドの日誌を握りしめる。
「一万……。」
王国の兵士たちは絶望していた。
たった一体の神兵にすら歯が立たなかった。
それが一万。
勝てるはずがない。
沈黙を破ったのはエル=モアだった。
「だからこそ。」
彼は弓を握る。
「私たちは争っている場合ではありません。」
「八つの勢力が手を組まなければ、この世界は終わります。」
しかし、その願いは届かなかった。
「断る。」
最初に口を開いたのはアンデッド王バルマーだった。
黒い剣を肩に担ぎ、空を見上げる。
「私は……世界など守らない。」
「私が欲しいのは。」
「静寂だけだ。」
その言葉と同時に、バルマーはクリムトへ斬りかかった。
轟!!
クリムトが剣で受け止める。
「まだ私と戦う気か。」
「貴様だけは……斬る。」
妖刀「喰魂」が黒い瘴気を噴き上げる。
その力は、これまでとは比べものにならなかった。
「ハハハハハ!」
バストラルが大笑いする。
「最高じゃねぇか!」
「世界の最後に一番強い奴らと戦える!」
彼は神兵ではなく、ガイラムへ斧を向ける。
「巨人! 続きだ!」
ガイラムはため息をついた。
「本当に救いようのない男だ。」
だが、その拳は構えられる。
シェルファはその様子を遠くから見つめ、静かに笑った。
「やはりそうなる。」
彼女の狙いは最初からこれだった。
世界が一つになれば、自分の理想は実現できない。
だからこそ、争いを続けさせる。
彼女は最後の魔法陣を展開した。
「神兵たちよ。」
「命令を書き換えます。」
その瞬間だった。
五体の神兵が、一斉にシェルファを見た。
「……?」
シェルファの笑みが消える。
神兵ゼロ(タロス)が静かに告げた。
「外部からの命令を確認。」
「送信者を敵対存在と認定。」
「優先排除対象を更新。」
「対象――シェルファ。」
「なっ……!」
初めて彼女の表情が崩れた。
「私の術式が通じない……?」
神兵一号が腕を上げる。
そこに巨大な光の槍が形成される。
「排除。」
光が放たれた。
シェルファは間一髪で転移魔法を発動する。
しかし。
爆発とともに、彼女が築き上げた巨大な魔法都市が一瞬で消滅した。
「そんな……。」
世界最強の魔法使いが、初めて恐怖を知る。
その頃。
白き天空大陸。
最奥の神殿。
巨大な扉が静かに開く。
中には、一つの玉座。
そこへ、一人の存在がゆっくりと座る。
人の姿をしていた。
だが、その瞳には感情がない。
「報告。」
五体の神兵が同時に跪く。
「世界浄化計画、順調に進行。」
玉座の存在は静かに頷いた。
「ならば。」
「私も降りよう。」
ゆっくりと立ち上がる。
その背中には、十二枚の純白の翼。
神兵たちが頭を垂れる。
「総司令官。」
「神兵王アーク(ガーディアン)。」
世界を滅ぼす軍勢を率いる、神兵の王がついに姿を現した。
その瞬間、クリムトの表情から笑みが完全に消えた。
「……最悪だ。」
二千年前。
英雄レイモンド、魔王クリムト、そして最後の守護者。
三人が命を懸けても倒せなかった存在。
**神兵王アーク(ガーディアン)**が、再び地上へ降臨しようとしていた。




