第七章 英雄の遺言
世界各地で、四つの石棺が完全に開いた。
砂漠。
雪原。
深海の神殿。
天空に浮かぶ古代要塞。
眠っていた神兵たちが、一斉に目を開く。
「神兵一号、起動。」
「神兵二号、起動。」
「神兵三号、起動。」
「神兵四号、起動。」
その声は世界中に響いた。
フォーリア王国の一行は、古い砦へと避難していた。
兵士たちは疲れ果て、傷の手当てを受けている。
ジークは城壁から、黒く染まり始めた空を見上げていた。
「一体でも止められない相手が……五体。」
拳を強く握る。
その時だった。
「王よ。」
あの老人が再び姿を現した。
「あなたは……。」
老人は何も言わず、一冊の古びた手帳を差し出す。
革表紙は焼け焦げ、ところどころ血が染み込んでいた。
「これは初代国王レイモンドの日誌だ。」
ジークは驚く。
「英雄レイモンドの……。」
老人は静かにうなずいた。
「真実が書かれている。」
夜。
焚き火の明かりの中で、ジークは日誌を開いた。
最初のページには、力強い文字が刻まれていた。
> 今日、私は魔王クリムトと出会った。
ジークは思わず息を止める。
ページをめくる。
> 奴は世界を支配したいのではなかった。
> 神兵から世界を守るため、人類を一つにまとめようとしていた。
さらにページをめくる。
> 私は奴を止めた。
> だが、それは正しかったのか。
最後のページ。
そこには震える文字で、こう書かれていた。
> もし未来で神兵が目覚めたなら――
> クリムトを信じろ。
ジークの手が震える。
「そんな……。」
彼が知っていた歴史とは、まったく違っていた。
同じ頃。
魔王クリムトは神兵ゼロとの戦いの最中だった。
「人間は相変わらず愚かだ。」
神兵ゼロが光の剣を振るう。
クリムトは紙一重でかわす。
「歴史を変えても、結局同じ道を歩く。」
神兵は答える。
「感情は不要。」
「世界は管理されるべきである。」
「管理?」
クリムトは笑った。
「だからお前たちは滅んだ。」
その言葉に。
神兵ゼロの動きが、一瞬だけ止まる。
「……記録にない発言。」
「滅んだ……?」
クリムトの瞳が細くなる。
「思い出せ。」
「お前たちは敗北した。」
神兵ゼロの頭部から火花が散る。
「記録……破損。」
「情報……矛盾。」
「処理不能。」
その瞬間。
遥か天空から、巨大な光が降り注いだ。
神兵一号だった。
さらに。
東の空から二号。
西から三号。
北から四号。
四体の神兵が、ゼロのもとへ集結する。
五体が一直線に並ぶ。
その光景に、ベルフレイムでさえ翼を止めた。
「冗談だろ……。」
バストラルは笑顔を失う。
ガイラムは拳を握り締める。
バルマーは妖刀を強く握る。
エル=モアは森の精霊に祈りを捧げる。
そして五体の神兵が、同時に口を開いた。
「最終命令を確認。」
「世界浄化計画。」
「最終段階へ移行。」
五体の神兵の胸部から巨大な光の紋章が浮かび上がる。
その光は空へ伸び、やがて一つにつながった。
雲が割れる。
そのさらに上。
誰も存在を知らなかった雲海の彼方に、**巨大な白い大陸**が姿を現す。
そこには無数の神兵が整列していた。
百でも、千でもない。
数え切れないほどの軍勢。
クリムトは苦々しく呟く。
「……ついに動いたか。」
老人は遠くその光景を見上げ、静かに目を閉じる。
「終わりではない。」
「これは、本当の戦争の始まりだ。」
世界を揺るがした「八つの戦火」は、いまや世界そのものの存亡を懸けた戦いへと姿を変えようとしていた。




