第五章 魔王との邂逅
神兵ゼロ(タロス)と狂戦士バストラルの激突は、荒野そのものを砕いていた。
斧が振り下ろされるたびに大地が裂け、神兵の剣が振るわれるたびに空気が悲鳴を上げる。
「ハハハハハッ!」
バストラルは血を流しながら笑っていた。
「いいぞ! もっとだ!」
神兵ゼロは無表情のまま応じる。
「対象の戦闘能力を再測定。」
「危険度……上昇。」
「排除を継続。」
激しい斬撃が交錯した瞬間、地平線の向こうから黒い霧が押し寄せた。
霧ではない。
濃密な魔力だった。
「……来たか。」
神兵ゼロが初めて視線を動かす。
黒い魔力の中から、一人の男が姿を現した。
黒衣をまとい、燃えるような紅い瞳を持つ魔王クリムト。
彼は戦場を見回すと、小さく笑った。
「派手にやっているな。」
バストラルが斧を肩に担ぐ。
「お前が魔王か?」
「そう呼ばれている。」
クリムトは穏やかに答える。
だが、その視線は神兵だけを見据えていた。
「二千年前は決着がつかなかった。」
「今日はどうだろうな。」
神兵ゼロが剣を構え直す。
「個体識別。」
「クリムト。」
「危険度――最上位。」
「最優先排除対象へ変更。」
クリムトは肩をすくめた。
「歓迎されているようだ。」
その瞬間。
二人は同時に消えた。
轟ッ!!
衝突した衝撃だけが遅れて響く。
空が割れ、黒雲が吹き飛ぶ。
一合。
二合。
三合。
剣と魔力がぶつかるたびに、山々の頂が崩れ落ちていく。
「……強い。」
神兵ゼロが初めて押し返された。
クリムトは余裕の笑みを崩さない。
「二千年前より、少し鈍ったか?」
神兵の瞳が赤く輝く。
「制限解除。」
「第二戦闘形態へ移行。」
白銀の鎧に黄金の紋様が浮かび上がる。
背中から六枚の光の翼が展開された。
放たれる圧力に、近くの岩山が粉々に砕け散る。
遠く離れた丘で見ていたジークは思わず息をのんだ。
「あれが……本気。」
隣にいたエル=モアの表情も険しい。
「あの二人が本気で戦えば、この大陸そのものが耐えられません。」
その言葉を証明するように、空から巨大な影が落ちる。
「待たせたな!」
灼熱の咆哮。
大龍ベルフレイムが炎をまとって降臨した。
「強い奴が二人もいるとは!」
巨大な炎が神兵とクリムトを包み込む。
クリムトは笑い、神兵は一歩も退かない。
三つ巴の戦い。
その光景を、水晶球越しに見つめる魔女シェルファは静かにつぶやく。
「これで三勢力。」
「でも、本当の勝負はまだ始まっていない。」
彼女は水晶球に映る、ある場所へ視線を向けた。
そこは北方。
氷壁の彼方。
巨人王ガイラムが、誰かと向き合っていた。
その相手は、黒い鎧をまとったアンデッド王バルマー。
互いに武器を構えたまま、動かない。
やがてバルマーが低く言う。
「……邪魔をするな。」
ガイラムは静かに拳を握る。
「それはこちらの台詞だ。」
次の瞬間――。
世界を揺るがす第二の決戦が幕を開けた。
一方その頃、誰にも気づかれず、一人の少年が古代遺跡の奥深くへ足を踏み入れていた。
年は十五、六ほど。
ぼろ布をまとい、武器らしい武器も持っていない。
しかし、彼が最奥の祭壇に触れた瞬間、封印されていた巨大な扉がゆっくりと開き始める。
暗闇の中から響く声。
「――ようやく来たか。」
少年は息をのむ。
「誰だ……?」
闇の奥で、ゆっくりと何者かの瞳が開いた。
「私は、この世界が忘れた最後の守護者だ。」




