表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の矜持  作者: 川端マレ
第一部 始まり編
2/48

第二話 ヴァルディナ国―帝国軍元帥

 西洋甲冑(かっちゅう)をまとった像が点在する廊下は物々しく、磨き上げられた黒大理石の床がその無機質を怪しく反射させる。

 張り詰めた空間に、コツコツと規則正しく靴音が刻まれていく。

 すれ違う軍服姿の兵士は壁に寄り、敬礼を送ってくるが、ジークフリートはちらりと視線だけをやると、そのまま目的の場所へ進む。

 空気は冷たい石壁に閉じ込められ、どこにも逃げ場がない。

 足音ひとつでさえ場違いに響く。

 まるで『ここに生きている者などいない』と、場所そのものが言っているかのようだった。

 

 重厚に閉ざされた扉の前に立つと、コンコンとノックをする。

 中からの返事を確認すると、ジークフリートは無表情のまま入った。


「失礼します」と入室と同時に姿勢を正し、背筋を伸ばしたまま右手を額に上げ敬礼をする。

 整然と配置されたその室内は、部屋の主の性格を映し出しているようだ。

 壁には濃い木目の本棚が並んでおり、収められている本は上質な皮で仕立てられ、そのどれもが貴重な物だと分かる。


 奥の執務用の机では、難しい顔をした重鎮の風格を持つ男が、書類の整理をしていた。

 ダークブラウンの頭髪は左から分けられ、几帳面に整い後ろに流されている。

 黒の軍服に身を包み、金色の飾緒に、胸には数々の勲章が縫い付けられている。

 背筋の伸びたその姿は見るものにも、静かな緊張を強いるほどに整っていた。


 ジークフリートの父であり帝国軍元帥──アウグスト・フォン・アイゼンブルク。

 元帥は来訪者の姿を確認すると、低く落ち着いた声で出迎える。


「ジークか」


 緑色の瞳は受け入れる様な温かみがあるが、上官としての色が消えることはない。

 ジークフリートは、今日執行された粛清の報告書をスッと差し出すと、アウグストは書類を確認して眉を(ひそ)めた。

 そんな父アウグストの様子を一瞥し、ジークフリートは誰も映していないグレイシルバーの冷たい瞳同様、淡々と報告する。


「本日の粛清対象者が、エルデンシュトラを治めていました」

「統治者が不在となり不安定になっています」

「第十三特務大隊を派遣したいと考えています」


 それを聞き終えたアウグストは、何やら思案気に険しい表情を見せる。


 第十三特務大隊はジークフリートが率いる大隊だ。

 

 エルデンシュトラ──勇敢な一族タラモンの民が住む山岳地帯。

 静かな炎が灯るその地はアウグストにとって忘れられない場所……。

 

 ジークフリートがそこに赴くのには、僅かばかりの私情が含まれてしまう。

 だが、彼以上の適任者はいない。

 元帥として長く従事しているアウグストにはわかる。

 そして軍人。ましてや軍のトップである元帥ならば、そんな私情を挟む余地はない。


(因果なものだな……)


 長くため息を吐くと、すぐさま威厳のこもった眼光へと変わる。


「第十三特務大隊の出兵を許可する」


 その許可の言葉を聞いたジークフリートは、無表情のまま職務方針を述べる。

「では、明後日の早朝に出兵します」

 許可を取り付けるのは予定調和だったかのように、スケジュールは組まれていたようだ。

 ジークフリートは業務終了の合図かのように、アウグストへ敬礼をすると、そのまま踵を返しドアへと向かう。


 そんなジークフリートをアウグスト元帥は呼び止める。


「ジーク」


 呼び止められたジークフリートは眉を一瞬あげ、半身だけ振り返り言葉を待つ。


「これから調べものをするのだろう?気になることを見つけたら来なさい」


 それだけ言うとアウグストは書類整理を再開し、紙束を手前に戻し手元はページの端をめくる。


 その言葉をジークフリートは考え、なるほどという顔つきになる。

 これは元帥としての言葉ではなく、私情が含まれていると考えたジークフリートは、それまでの軍人としての態度からうって変わり、相手を試すような明るい口調で話し始めた。


「あはは、なにそれ」

「すべては言いたくないけど、俺が気が付いた事は答えてやるってことね」


 階級がはっきり分かれている軍において、この様な物言いはありえないだろう。

 だが、ジークフリートには思惑がある。

 試す態度のまま飄々とした微笑を浮かべ、その様子は柔和に見える。

 だが、その瞳の奥は、感情の機微を灯さず硝子をはめ込んだように透明だった。


 アウグストは不敬な態度を咎める事もなく、数秒見つめ返すが、そのまま視線を落とし書類をさばき出した。

 

 その様子を確認すると、再度歩みを進めドアへと向かう。

 振り返る事もなく、そのまま静かに取っ手を引き、音を立てずに扉を閉じた──

最後まで読んでくださりありがとうございます。

彼らが何を選び、どう進むのか、見届けていただけたら幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ