88.魔法作成のテクニック
最近は魔法の進化が著しい。
魔法名を唱えると手が光るだけだったシャイニングフィンガーもきちんとセリフに合わせて光るし、キングオブハートの紋章も浮き出るようになった、ものすごくかっこいい。
ああいう魔法での再現はコツが有るようで俺が真似して作ると数十倍の消費MPになる。
「このあたりはプログラムに似てるよな」
似たようなものは作れるけど容量が大きくなったり処理速度が遅くなったりする。
おそらく無駄が多すぎるんだと思う。
「しかもそこに制約があるんだもんな」
制約次第でコストは下げられる。
一見消費MP高の構成と思わせて制約で一気にコストを下げている魔法とかあってすごいよな。
「これとかまさにそんな感じなんだよな」
世界書を開いて一つの魔法の詳細を出す。
名称:行先を示す赤トンボ
登録者:剣崎 亜子
効果:目的地への道筋を示す理。
現在地から目的地までの地図が必要。
消費MP:20
この魔法は道案内をしてくれる、いわゆるナビだ。
視界内に常時赤トンボが見えていて赤トンボについていけば目的地に到着する。
目的地につくとその場で円を描くように回り始めて消えるのがかっこいい。
しかもいちいちスマホを見なくても赤トンボを追いかけるだけでいいので楽なのがすばらしい。
それだけなら似たような魔法はけっこうあるけど消費MPが決定的に違う。
通常、視界内で何らかの案内をする場合は消費MPが跳ね上がる。
矢印表示で案内してくれるのとかはまさにその典型。
設定するだけで音声指示の数十倍の消費MPになってしまう。
だから大抵の道案内魔法は消費MPを抑えるために音声案内にするか消費MPが高いのを覚悟して視界内で案内するかの二択になっている。
それなのに[行先を示す赤トンボ]は視界内で案内しているのに消費MPが音声指示の二倍程度と少ない。
正直、最初見た時は詐欺魔法だろうと思った。
一度でもいいから魔法を使わせるのが目的ってのは非常に多いからだ。
「ただ理って記載があったからなぁ」
世界書を触りながらつぶやく。
俺が魔法と呼んでいるものは正式には理と呼ぶらしい。
ただほとんどの人は分かりづらいそんな名前で呼ばずに魔法と呼んでいる。
意味がすぐに分かるからだ。
でもなぜか一部の効果設定欄であえて理と書く人たちがいる。
そう言う人が作る魔法はやけに独創的なものが多く便利なものが多い。
詐欺をするような人間が使う言葉ではないので試しに使ってみたんだ。
「ほんとにあの消費MPで目的地に到着するまで効果続くとは……」
本当に説明に書かれた通りの内容だった。
試しに真似して作ってみたけど同じ結果にはならなかったので、きっと何か条件とか制約があるんだろう。
あまりに興味深かったのでいろいろ検証と検証してみることにした。
「まさか矢印で指示するのが消費MPを増加させる原因だったとは」
ルート案内に矢印は一般的だ。
行き先を示すのだから誰でもその考えになると思う。
でもそのルート案内を矢印から赤トンボにすると劇的に消費MPが減少する。
最初意味が分からなくて赤トンボ以外にもいろいろ試してみた。
結果としては、視界の向きに合わせて形や方向が変化するものを使うと消費MPが大きく増加するということだった。
どうも視界に合わせて常時形状計算やルート変更をしているらしく、それを加味しての消費MPだったらしい。
よく考えれば常時矢印の向きが変わるのだから当たり前なんだけど、まったく気づいていなかった。
「しかも向きデータなしって発想もなかったし」
向きデータというのは現在自分が東西南北のどの方向を向いているのかという情報だ。
これがないと音声で指示を出そうにもどの方向に進ませればいいか分からない。
矢印で指示を出す時も基本的に目の前に矢印が出ているので視界の向きが必要となる。
しかし[行先を示す赤トンボ]に視界の向きは必要ない。
赤トンボは向きに関係なく常に現在地点からの最短ルートしか示さないためだ。
しかも現在地点の設定がかなり曖昧になっているらしく、多少動いた所で再計算されていないっぽい。
こういう発想はなかったのですごい。
そして一番の発想はこれだ。
「地図データを紙の地図から読み込むなんてまさに神……なんちゃって」
うん、翔や陽菜に聞かれたらひどい点数つけられそうだ。
あの二人はギャグになると途端に厳しいからなぁ。
「ただやっぱりこの魔法はすごいぞ」
一般的に地図は魔法で生成する方法とスマホの地図アプリから読み込む方法がある。
魔法で生成すると消費MPが高く、スマホの地図アプリから読み込むと効果時間がスマホの電池次第になってしまう。
どちらも一長一短あるという状況だったのに、これを解決したのがさっきの手法だ。
魔法で生成しないので消費MPは低く抑えられており、ただの紙なので電池なんて関係ない。
ただし、もちろんこの考えがなかったわけじゃない。
いろいろ研究されていく過程でどうしても使えないとなっただけだ。
その理由は紙の地図では現在視界が分からないというのが大きい。
魔法やスマホの地図アプリであれば向いている方角を分かるので問題ないけど、紙だと別途視界が今どこを向いているかの情報が必要になる。
しかもそれは地図と連動しないといけないので余計にコストもかかってしまい、結果的に消費MP削減につながらなかった。
でもさっきも言った通り[行先を示す赤トンボ]に視界のデータは必要ない。
座標データと照らし合わせるだけだ。
だから地図で十分事足りる。
こんな発想は今まで聞いたことがなかった。
「研究量の違い……なんだろうな、やっぱり」
俺のようにいきあたりばったりで魔法を作ってるんじゃなくて、ちゃんと研究して目的を達成するように魔法を作っている気がする。
それに研究内容もかなり独自なものだと思うんだよな。
少なくても魔法関連のSNSやDiscordで見たことがない理論ばかりだ。
「この理って言葉を使う人たちは何なんだろうな」
そう言いながら魔法の作成者名を見る。
剣崎 亜子と記されているが他にまったく魔法が見つからない。
不思議な話だ。
魔法についてかなり知識のある人物であるはずなのに魔法は一つしか作っていない。
試作段階の魔法は残していないのかもしれないけど、それにしても同じような人が多いのが謎だ。
何か特定の集団でひっそりと研究しているんだろうか。
「まあ参考になるからいいんだけどね」
研究過程は分からなくても結果は分かるので、そこから逆算すればある程度の研究内容は推測することは出来る。
実際、今回の[行先を示す赤トンボ]も結果から原因を導き出すことが出来たし。
「隠してるのは何か理由があるのかな?」
秘密機関みたいな所でひっそり研究されていたりして。
……って小説の読みすぎだな。
本当にそんなことするなら説明文をまともな内容にしないだろう。
単にあんまり研究結果を発表しない人たちなんだろうな。
「なら俺が情報を公開してみるか?」
いや、それだとまるで俺が発見者みたいになってしまう。
研究して実際の環境に落とし込んでいる人がいるのにそれは駄目だ。
せめてこういう魔法があるという紹介程度にとどめておいた方が良いか?
「でもなぁ……」
なんだろう、陽菜じゃないけど直感的にそれはまずいって思っている。
何か言葉には出来ないけどやばい気がする。
「こういう時は感性に従った方がいいか」
まあ俺だけが知っている推し作者って思えばいいよな。
別に自慢したい訳じゃないし。
「さて今日は参考にした結果をもとに魔法を作るぞ!!」
ちなみに頑張りすぎたせいで次の日の朝起きれず陽菜に起こされたのは内緒だ。




