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世界書で恋の魔法は作れない  作者: rpmカンパニー


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89.禁止カード

 ワンパックに来るとみんな対戦そっちのけでスマホを見て大騒ぎしていた。

 一人二人が騒いでいるならともかく数十人もいてその状態なのは非常に珍しい。


「あ、真琴さんチワっす」

「よ、どうしたんだ」


 隼人から声をかけられたのでとりあえず席に座る。

 隼人も同じくスマホを見ているようなので事情を知ってるかもしれない。


「え、〘ゴブリンの悪あがき〙が禁止?」

「そうっすね」

「いや、あれ禁止になるような強さないだろ」


 〘ゴブリンの悪あがき〙はサイコロを振って出た目によって効果が変わる儀式呪文だ。

 どの目の効果も非常に強力なんだけど、事前に宣言した目と一致しないと効果がない。

 わざわざカード1枚使って1/6の成功率なので期待値が低すぎてネタカード愛好家ぐらいしか使っていなかったはず。


「魔法って知ってるっすか?」


 隼人がデッキを机に置いて世界書を手元に出現させる。

 世界書は意外とかさばるので手元を空けたかったようだ。


「ほら、これっす」


 見せられた隼人の世界書には一つの魔法が表示されていた。


名称:手品師のタネ

登録者:西園 匠

効果:一時間何度でもサイコロで任意の数字が出せる。

消費MP:140


「は?」


 書かれている内容を読んで一瞬思考が停止した。

 なんだよこれ、今まで一度限りしか任意の数字出せなかったのに一時間以内なら何度でも出せる!?

 こんなのあったらほぼ間違いなく勝てるだろうが!?


「任意の目を出せるなら〘ゴブリンの悪あがき〙は禁止カードでもおかしくないっすよね?」


 それは間違いない。

 非常に強力な効果6種から《《選択》》して使用できるなら禁止カード確定だ。


 確かに魔法が使えるようになってから〘ゴブリンの悪あがき〙の値段は高騰していた。

 一回限りの出目指定の魔法と組み合わせるんだろうと思っていたけどまさか何度でも使える魔法があるとは……。


「なので真琴さんには残念な話っすが〘ゼピュロス〙も禁止っす」

「嘘だろ!?」

「というか、かなりのカードが禁止になってるっす」


 俺も急いでスマホでカオスフィールドの公式サイトを開こうとした。

 でも読み込みが遅くて全然表示されない。

 普段こんなことはないのでよほどの大量アクセスがあるんだろう。

 読み込み画面のまま数分待ってようやく見ることが出来た。


「まじかよ……」


 発表された禁止カードリストを見ると100枚以上のカードが禁止になっていた。

 これは誰でも分かるレベルで異常事態だ。


 カードゲームをやらない人から見ると、禁止カードに指定されても公式の大会に出ないなら関係ないと思うかもしれない。

 でも大抵のプレイヤーはデュエルスペースでの対戦時に公式準拠のデッキ構築を求めてくる。

 なぜなら禁止されるカードの多くは強すぎて禁止されるので、そんなものを使ったデッキと対戦しても蹂躙されるだけで面白くないからだ。

 禁止カード入りで対戦してくれるのは友人ぐらいだろう。


 つまり禁止カードに指定されるというのは、実質イラストが書かれた紙になるのと同じ。

 加えて恐ろしいのは資産価値も暴落する点だ。

 禁止されるぐらい強いカードなら需要があるので相応の値段になっている。

 それこそ一枚数千円とか数万円とかだ。

 しかし禁止されると需要がなくなるので値段は一気に下がる。

 高いお金を出して買い揃えたのにいきなり使えなくなって資産価値もなくなる、はっきり言って悪夢だ。


 そんなのが数枚出るだけでも大騒ぎになるのに今回は100枚以上。

 みんな大騒ぎして当然だ。

 そして一番まずいのは……。


「やあ真琴くんじゃないか」

「店長!! 大丈夫なんですか!?」 


店長が空のペットボトル片手に疲れ切った様子で俺に声をかけてきた。

どう見ても体調が悪そうだ。


「ヤバいね、もうてんやわんやだよ」


 店長は椅子に座るとゆっくりとペットボトルを口に当てた。

 でもどんなに傾けても口に液体が流れているようには見えない。


「店長、それ空っすよ」

「ああ本当だね、せっかくなので隼人にパシリの任をあげよう」 

「いらないっす」

「なら真琴くんに」

「なんでこっちに来るんですか!?」


 流れるように俺の方に飛んできた。

 なぜ隼人が頼まれたのに俺になるんだよ。


「うんうん、反応いいね、隼人とは雲泥の差だよ」

「真琴さんには勝てないっす」

「反応の問題なの!?」


 その後、よく分からないうちに丸め込まれて買いに行かされた。

 店長の口のうまさは父さん並みだと思う。

 暑い中急いで帰って来ると、二人は優雅に座って寛いでいた。


「ご苦労」

「暑い中大変っすね」

「人ごとすぎる!?」


 二人にジュースを渡すと、店長は豪快に一気飲み、隼人は少しずつ飲み始めた。

 見た目の印象と真逆の行動で面白い。


「いやー、昨日から徹夜だったからしみるねー」

「そんなに騒ぎになってるんすか?」

「店舗によっては潰れかねないね」

「そこまで!?」


 影響は大きいだろうなとは思っていたけど、それでも店長の返事は衝撃だった。

 店の存続に関わるなんて大丈夫だろうか。


「うちは幸いスタンダードがメインだったから致命傷ではなかったね」


 スタンダードとはカードゲームのレギュレーションの一つで、比較的新しいカードのみが使える環境のことだ。

 具体的には6個のエクスパンションで構成されていて、新しいエクスパンションが出るたびに古いエクスパンションが一つ使えなくなる。

 デッキ構築が固定化しないのが面白い点だけど常に新しいエクスパンションを購入していかないといけないのが難点だ。


「クラシックだと《轟音流》とか《疾風の騎士》とかヤバそうっすよね」

「うん、知り合いの店は値段付けどうするか悩んでたね」


 クラシックは全てのカードが使える環境。

 スタンダードと違って資産が使えなくならないのでかなり人気のある環境になる。

 そして禁止カードの多くはクラシック環境のカードだったのでみんなが大騒ぎしているという訳だ。


「こういう事態を想定してスタンダードメインだったんすか?」

「いや、私の趣味」

「趣味だったんですか!?」


 なんでM:tGはヴィンテージ(全てのカードが使える環境)まで取り扱ってるのにカオスフィールドはスタンダードだけだったのかと思ったら趣味だったとは……。

 わざわざ他の店まで買いに行ってたから面倒だったんだけどな。

 でも結果的にそのおかげでお店が助かったんだから良いことか。


「反応がおしい、80点」

「40点すね」

「隼人は厳しすぎないか!?」

「オウム返しじゃなくもっと的を絞ってツッコミ入れると高得点っす」

「審査員の厳しい指摘ありがとうございます!?」

「まあクラシックメインだったらうち程度の店は潰れてたね」


 やっぱりそうか。

 さっき話題に出ていた《轟音流》とか《疾風の騎士》は通常で数万円、Foilで数十万円するのでそれが紙になったら大損害だろう。


「それでもけっこう被害出たんじゃないんすか?」

「なに、M:tGでヴィンテージのデッキ1つ組むより安いものさ」

「それはそれで怖すぎっすね、おれぜってーM:tGはやらないっす」

「いい機会だし隼人もM:tG沼に落ちよう」

「俺がデッキ貸してあげるよ」

「ついでに変人沼に沈むのはごめんっす」


 露骨に嫌そうな態度で断る隼人。

 変人は店長だけで俺は一般人なんだけどな。


「しっかし魔法1つでここまで変わるとは思んなかったっすね」

「私はそういうのに詳しくないんで知らなかったけどイカサマ出来るんだって?」

「らしいっすね、おれじゃ使えないっすけど」


 その言葉を聞いてさっき隼人に教えてもらった魔法を見てみる。

 ……ほんとだ、よく見たらこの魔法消費MPが高すぎる。

 こんなのレベル20になってないと使えないぞ。 


「これ、実用できる人いるんすかね?」

「そりゃあどこかには存在するだろうさ」

「そんな人のために禁止っすか」


 いやそれは違う……。

 そう思ったのは俺だけじゃなかったようだ。


「優勝者は1人だからね」


 店長が諭すように答える。

 非常に完結で分かりやすい一言に隼人も頷く。


「そういうことっすか」

「迷惑な話だよ、まったく」


 たった一人の存在が全てを変えてしまうことがある。

 魔法とはそれぐらい影響力の強いものなんだ。

 改めて前に江川が話していたことを思い出す。

 魔法は本当に存在していてよいものなんだろうか。


「どうかしたっすか?」

「あ、いや、魔法があるからこんなことが起きたのかなって」

「それはそうだろうね」


 しみじみと同意する店長。

 その様子を見ると店長は魔法が不要だと思っているのだろうか。


「でも前に真琴さんが教えてくれた魔法みたいなのはあると楽しいっすね」

「お、どんな魔法なんだい?」

「それはっすね」


 隼人がデッキを持ってきて魔法の説明を始めた。

 話している隼人も聞いている店長も笑顔で楽しそうだ。


 うん、やっぱりみんなを楽しくする使い方であれば魔法はあっていいと思う。

 悪用するのが悪いんだろう。

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