83.魔法勝負再戦
キーンコーンカーンコーン
よし休憩になったしトイレに行っておこう。
そう思って立ち上がった時のこと。
「さあ勝負よ、真琴」
「突然話しかけてきて『さあ』と言われてもこっちが『さあ?』だよ」
既視感のあるパターンで平川さんが声をかけてきた。
世界書を手に持って勝負というからには魔法ネタだと思うんだけど生憎なんの準備もしていない。
「いつでもどこでも勝負を持ちかけられたら受けるものでしょ」
「前も言ったけどそんな戦闘民族みたいな考え持ってないよ」
「陽菜ちゃんに『真琴は勝負から逃げた』って言うわよ」
「不利な状況からスタートする勝負であれば逃げても仕方ない」
「むう」
前回と同じように陽菜をだしにすれば勝負を受けると思っていたらしくちょっとむくれている。
ほんと、見た目は大人っぽいのに仕草は子どもっぽい。
こんな子が妹だったら兄姉はきっと可愛がるだろう。
「お兄ちゃん、勝負しよ」
「仕方ないな……はっ!?」
「うわ、本当に言う事聞いた」
「陽菜と間違えたんだよ!?」
妹だったらって考えていたからとっさに出てしまっただけなのに。
ただ言うだけ言っておいて引いたリアクションするのはずるいと思う。
「つまり真琴はシスコンってことね」
「男はみんなシスコンだよ!?」
そう言って周りを見回すと明らかに否定的な反応だった。
「ないな」
「生意気なだけだよな」
「暴君としか思えない」
妹という存在自体が可愛いのにこいつらの家は一体どんな状態なんだよ。
あと鳥海よ、妹がただわがまま言ってるのを暴君と言うのはどうかと思うぞ。
「翔、翔なら分かってくれるよな!?」
「妹が可愛いのは同意するが、同級生を妹と間違えたりしないだろ」
「ほら、やっぱり真琴がおかしいのよ」
ケラケラと笑って俺の肩をバンバン叩いている。
そしてぐっと首元に腕を回してきた。
「ほらほら、勝負するんでしょ」
腕で首をグイグイ絞めてくるのは何の嫌がらせなのか。
そんなことされたら勝負出来ないんだけど……。
「久美、その体勢じゃ勝負出来ないだろ」
「あ、そうね」
翔の言葉でパッと離れる。
ほんと自由だな。
「じゃあ勝負ね、課題は困った時に手が届く魔法よ」
「ふむ」
なかなか面白い課題だけどいかんせんネタが浮かばない。
時間があれば用意も出来るんだけど……。
「まずはあたしからね、[所有権サーチ発光]よ」
「サーチはともかく発光ってなんだ?」
「説明するから黙ってなさい」
翔からのツッコミを黙らせる。
もしかして鳥海の言う暴君ってこういうのか?
「アタシに所有権がある若しくはないものを発光させることが出来るのよ」
ドヤ顔で説明する平川さん。
なかなか興味深い効果なので早速世界書を開いて説明文を熟読する。
「それって何の価値があるんだ?」
「なにか探そうにも全部光りっぱなしになるだけでは?」
「狙ったものを探せる魔法でいいよな」
これは以前陽菜が提唱したものに近いな。
ならこうすればいいか。
「【所有権サーチ発光】所有権のないもの」
教室全体が光り輝いている。
おもむろに自分の鞄を開けて中身を確認する。
「これはすごい」
「でしょ」
「どういうことだってばよ!!」
桐谷が説明を求めてきた。
ただ俺は説明役って訳じゃないんだけどな。
「まあいいか、これは所有権の有無を確認出来るんだ」
「そりゃあ所有権がないものを探せるんだからそうだろ」
翔が何いってんだこいつという目で見てくる。
「所有権は誰が定義するんだ?」
「は?」
「法律か? 認識か? 無理やり合意を取って人のものを奪ったら所有権は変わるのか?」
「ふむ」
「どういう基準かは分からないけど、ありとあらゆるものの対して所有権を定義できるのはすごいことだと思うよ?」
「……なるほどな」
「でもそれが何になるんだ?」
翔は納得したようだけど今度は別の所から声があがる。
いいぞ、質問が飛んでくるってことは興味があるってことだ。
「例えばこの消しゴム」
鞄の中に転がっていた消しゴムを取り出す。
角がどれも丸くなっていて使い込んだ感じがある。
「これは光って見えてるので俺に所有権はない」
「は? 能見の鞄にあったんだろ?」
「うん、多分陽菜から借りてそのまま返すの忘れたんだと思う」
「忘れてたのに分かるのか?」
阿久津がツッコんできたけど的確なツッコミなのが悔しい。
絶対俺にツッコミ役は向いてないと思う。
「角から使うのは陽菜の癖だから」
「そうなのか」
「つまり借りパクして鞄の中に放置してたってことね」
「人聞きの悪い言い方やめよう!?」
平川さんのツッコミが厳しい。
まあたしかに完全に忘れてたけど陽菜も忘れてるからセーフ。
むしろ陽菜の方が俺のもの借りパクしまくるし。
「と、とりあえずこんな感じで普通では気づかないことが分かるってのがすごくていろいろ応用できそう」
「へぇー」
興味なさげに返事をする桐谷。
お前には有用な使い方見つけても教えてやらんからな。
「どう、真琴?」
平川さんが勝ち誇った顔で俺に問いかけてきた。
相変わらずこういう表情はかわいいんだよな。
「すごかったけど残念なのは陽菜が同じことに気づいてたんだよな」
以前透視魔法のときに陽菜がこの現象に気づいていた。
だからこそ驚きはなかったし使い方もある程度想像できたんだよな。
「むー、また陽菜ちゃん」
悔しそうな顔でむくれている。
きっと今度は勝てると思ったんだろうな。
「平川さん可愛すぎだろ……」
「ギャップ萌え」
「妹サイコー」
普段見かけることが少ない平川さんの姿を見て一部の男子は心を奪われたようだ。
まあほんとにかわいいから仕方ない。
「なら真琴の魔法見せてもらいましょうか」
さてどうしよう。
こんなに有用な魔法を見せられた後で発表できるような魔法は持ってない。
困った時に使える魔法……うーん、これぐらいかな。
「俺の魔法は[+と−どっち]だ」
「電気?」
魔法の効果が想像できなかったみたいで小首を傾げている。
ほんと、リアクションが素直だよな。
「そう、指定した場所に流れている電気の+と−がどっちか分かる」
「なる……ほど?」
目をまんまるにして斜めを見ている。
どうやら理科は詳しくないようだ。
勉強得意じゃないって言ってたし仕方ないか。
「検流計みたいなものか」
「そうそう」
翔がフォローを入れてくれる。
俺も詳しい訳じゃないけど原理的には多分それで合っていると思う。
「なら検流計でいいのでは?」
「ぐはっ」
江川のくせに鋭いツッコミしやがって。
まさにその通りで、あえてこの魔法を使う意味がない。
そもそも一般人が電流の向きを調べたい機会というのが少なすぎるんだよな。
「役に立つ場面ないよね」
「ぐはっ!?」
「困った時に手が届くというより無理やり手を伸ばしているような」
「げぼっ!?」
「いざって時のためと言って生命保険を勧められた気分」
「ごふっ!?」
「そもそも電流の向きって何?」
「そこはちゃんと勉強しようよ、橘さん!?」
激しいツッコミの嵐だった。
実際俺も使う場所は少ないよなぁって思ってたけど。
「ありですねぇ」
「え、あ、そうだよね!?」
なんと名雪さんが擁護に回ってくれた。
さすが文武両道才色兼備の(見た目)人気No.1だ。
「ただ攻めが+なのか−なのか気になりますねぇ」
「電池じゃないよ!?」
「+を突起と定義するか切れ込みと定義するか迷いますねぇ」
「一生迷ってて!?」
だめだ、一瞬でも信じた俺が馬鹿だった。
あんな変人は置いといて誰か味方が……。
探してみたけど誰もいない。
「この感じだとアタシのほうが勝ちね」
「くそう」
準備する時間がなかったとはいえ負けは負け。
魔法勝負で負けたのはかなり悔しい。
「じゃあ真琴は今度荷物持ちね」
「いつから敗者への命令権が追加されたんだよ!?」
「今から?」
アゴに指を当てて首を傾げてとぼける陽菜の必殺技まで真似しおって。
それをされたら許すしかないじゃないか。
「許すけど陽菜と同じ罰は受けてもらおうか」
「あばばば」
うわ、陽菜よりアゴの贅肉が少なくてタプりづらい。
でも柔らかくて揉み心地はすごく良いぞ。
「もう、本当に陽菜ちゃんはいつもこんな罰受けてるの?」
「受けてるよ!?」
「本当に?」
「ほんとだよ、なあ翔?」
「知らんな、久美に触りたいだけだろ」
「おいぃぃ!?」
あいつ寝返りやがった!?
くそ、いつも助けてやってるのにこんな時だけ知らんぷりとは許せん。
「彼女がいるくせに平川に触るとか言語道断だな」
「極刑」
「僕も触りたい」
釣られてみんな好き放題に言い始めた。
どれだけみんな平川さんを触りたいんだよ。
「アタシに触りたかったの?」
「いやいやいや、ツッコミの一環だよ!?」
ニヤニヤしながら俺に聞いてきたけど、触るのを目的になんてしていない。
ただ揉み心地はよかったけど。
「透子ちゃんとしては彼氏がそんなことをしていてもいいのか?」
いきなり透子に話を振られた。
透子は本を閉じて顔を上げると俺に近づいてきた。
え、もしかして怒ってる?
「お、修羅場か」
「平手打ちが見たい」
「グーで殴るのもいいぞ」
え、え、そんなに!?
平川さんに特別なことをしたつもりはないけどもしかして駄目だったのか!?
目を閉じて次に来る衝撃に備える。
「いい子いい子」
でも次に来たのは衝撃ではなく甘やかしだった。
俺の頭を撫でて優しく微笑んでくれている。
「お姉ちゃん、甘やかすのは良くないよ」
「かわいい」
「顔がとろけてますねぇ」
「甘やかされるのがよっぽど好きなんだろう」
名雪さんたちがなにか言ってるけど幸せだからどうでもいい。
胸の奥から好きって気持ちが溢れてくる。
「糖分多すぎだから塩まこーぜ」
「藁人形はどこだ?」
「呪い殺す魔法を探さないと」
「ほら春日井くん、このままだと藤田さんに盗られちゃうよ」
「いや盗むもなにも別に欲しくないんだが」
こうしてグダグダのまま休み時間は終了した。
てっきりこれで有耶無耶になったと思ってたんだけど……。
「はい、じゃあ荷物持ちの出番ね」
放課後、帰ろうとする俺を捕まえてそう宣言した。




