81.プール(前編)
「お兄ちゃんはプールに行く」
「どうした、日本語がおかしいぞ?」
陽菜が突然部屋に入ってきてそんな宣言をした。
手には浮き輪も持っているしイマジナリープールにでも行くのかな?
「水着は買ってある」
「うん、意味が分からない」
それもイマジナリーかと思ったけどよく見ると手に男向けの水着を持っている。
イマジナリーなのに水着に着替えるのか?
まあそれぐらいなら構わないんだけど、どこで俺の水着サイズ知ったのか気になる。
「明日の9時出発だからね」
「は?」
「あ、室内プールだから日焼け対策はいらないかな」
「イマジナリープールじゃないのかよ!?」
「お兄ちゃんは妄想力たくましすぎるね」
うんうんと頷いているけど、なんで決定事項になってるんだよ。
せめてもう少し前に相談してほしい。
「急な話すぎて無理かな」
「む」
至極当たり前のことを言ったのに納得いっていないようだ。
部屋を出て行き自分の部屋に入ったかと思うとすぐに戻ってきた。
「お兄ちゃんは私とプール行きたくないの?」
ちょっと目を潤ませて上目遣いでおねだり。
どうやら目薬を差してきたらしい。
「なんでそんなにプールに行きたいんだ?」
俺の言葉を聞いて目を輝かせる陽菜。
俺がこの手の質問をする時は了承する前提だからというのを理解しているからだろう。
ポケットをごそごそして何かを探している。
「なんと名雪んからチケットをもらったのだ」
ジャジャーンという効果音が聞こえそうな勢いでチケットを取り出す陽菜。
「ちゃんと縁を切りなさいって言っただろ」
「しっかり改札鋏で切ったよ」
「それはむしろ通行許可!?」
ノリノリで返してくるあたり、やはり相性が良すぎたか。
せめて性癖だけは染まらないでほしい。
「チケットもらったなら灯里ちゃん辺りを誘えばいいのでは?」
「お兄ちゃんと一緒に来て欲しいって言ってたよ」
珍しい、てっきり男同士で来てくださいとかいうのかと思ったのに。
それなら別に行っても構わないか。
「仕方ないなぁ」
「やったね、ちなみに名雪んも来るよ」
「まじで!?」
え、それなら是非とも行きたい。
キリシタンじゃないけど名雪さんの水着姿は一度見てみたい。
あのこぼれるような大きさのおっぱいがどんな風に包まれているのか気になる。
「むぅ、巨乳の重力に魂を縛られたお兄ちゃんは粛清されるべきなんだよ」
「お前も巨乳側だろ!?」
「地球では太陽の重力に勝てないんだよ」
「俺は地球の方が好きだぞ?」
「えへへー」
ちょろい。
こんなちょろさでこの先やっていけるのかと思うけど、まあ陽菜は相手によって対応変えてるし何とかなるか。
「じゃあ明日に備えないとな」
「うん♪」
・・・
次の日。
俺たちはホテルの前に居た。
見た目からして格式の高い感じでお泊りするなら渋沢何枚飛んでいくか分からない。
「……ここでいいのか?」
「そうだよー」
え、もっと市民プール的なものだと思ってたんだけど?
「市民プールにチケットなんてあるわけないよね」
「よし、それが分かっていて兄に黙っていたということだな」
「てへぺろっ」
誤魔化した辺り意図的にやりやがったな。
こんな場所だと分かっていたら来なかったけど、約束をしている以上帰る訳にはいかない。
「よーし、レッツゴー」
俺の手を取って意気揚々とホテルに乗り込む。
その姿を見て、ロビーで座っていた中年の夫婦の口元が緩んでいる。
「恥ずかしいだろ!?」
「お兄ちゃん、私と一緒で恥ずかしいの!?」
「そんな訳ない」
「なら良し」
「……いや、違うだろ!?」
「大丈夫、お兄ちゃんの着替えは私が持ってるから」
「着替えの話じゃねぇよ!?」
「着替えの話だと思うよ?」
「……今、笑顔と共に押し付けてきたこれは何だ?」
「お兄ちゃんの水着?」
渡されたのはノーマルタイプの水着、つまりブーメランパンツ。
股間が強調されるのでノーマルと言いつつ今では誰もはいていない。
「昨日はスパッツタイプを見せてきただろ!?」
「あれは見せパンだよ~」
「これを見せパンにしろよ!?」
「そんなの見せたら恥ずかしいし」
「俺はそんな恥ずかしいのを着ないといけないんだよ!?」
ニヤニヤしながら言ってるからこれも計画の内か。
朱に交われば赤くなると言うけど赤くなりすぎだろうが。
「ほらほら、みんな見てるよ」
「え?」
言われてみるとさっきの中年夫婦だけでなくロビーにいる人がみんな俺たちを見ていた。
しかも怒っているとか嫌がってるではなく、微笑ましいものを見るような視線。
「い、いくぞ!!」
「はーい」
「……なぜ腕に抱きつく?」
「ノリ?」
困ったらこうやって誤魔化すけどかわいいから許すしかない。
「かわいらしいわねぇ」
「あんなころもあったな」
「よっぽど仲いいのね」
「ほんと、初々しい、恋人になり立てかな?」
なんか誤解されてる!?
とはいえ一々説明して誤解を解く訳にもいかないし、さっさと目的地に行こう。
えっと受付を済ませてエレベーターで向かうのか。
・・・
陽菜からもらった水着をはいたけど股間が強調されすぎて恥ずかしい。
ただ他に着替えている人を見てみるとけっこうブーメランパンツがいるので意外と普通なのかもしれない。
「やっぱり恥ずかしい」
外に出るとみんな俺の方を見ている気がする。
いや、実際は見てないんだけど気分的にね。
こんな恥ずかしさをうちの露出狂達は快感だと思っているんだろうな。
「うーみー」
後ろの方から声が聞こえてきた。
どうやら陽菜が着替え終わって出てきたらしい。
なんで一人で叫んでるんだよ、そのせいで周りも注目してるし。
「プールだよ」
「あ、お兄ちゃん、股間を隠してどうしたの? 大きくなった?」
「下ネタはやめろ!?」
声をかけると嬉しそうに俺の方に近寄ってきた。
陽菜の水着は、薄い水色で上下が一体になっているワンピースタイプでスカートみたいなのがついている。
胸の形がくっきり出ているのでスタイル良くないと着づらそうだ。
「なんか恥ずかしい」
「下着より面積広いのにか?」
「家で見られるのは別にいいけどそれ以外は……」
なんと、陽菜にも一丁前の羞恥心があったらしい。
てっきり誰彼構わず見せているのかと思って心配してたけどよかった。
「なんか馬鹿にされた気がする」
「むしろ褒めてたかな」
「じゃあ口に出そう」
「陽菜はかわいいなぁ」
「えへへー」
ちょろい。
「気分は南国だね」
「塩素の匂いがするけどな」
「もう、お兄ちゃんは風情がなさすぎるよ」
そんなことを言われても白い砂浜も青い海も焼き尽くすような暑さもないからなぁ。
せめて波があるなら海と言えたかもしれないけど。
「お待たせ」
名雪さんが来たと思って振り返ると、そこには透子がいた。
「な、なんで?」
「一体いつから名雪んだと錯覚していたのかな? かな?」
呆然としている俺を見てニヤニヤした顔でそう答える陽菜。
思い出してみればたしかに名雪さんだけなんて一言も言われていない。
透子の水着は、白くて上下が別れているいわゆるビキニ姿で胸の部分にヒラヒラがついている。
まるでお姫様が着るような水着ですごくかわいい。
「あ、透子さん、フレアビキニなんですね、かわいいーー」
「陽菜ちゃんこそスタイル良くてうらやましい」
「いえいえいえ、お兄ちゃんは大きいのから小さいのまでばっちりOKですよ」
陽菜のテンションが全開だ。
サプライズが成功してよほど嬉しいんだろう。
「ほらお兄ちゃん、透子さんに何か言ってあげないと!!」
「あ、えっと、よく似合ってる」
「……恥ずかしい」
ちょっと顔を赤らめて目を伏せたのがかわいすぎる。
白い水着に赤くなった顔が映えて、写真に残しておきたいぐらいだ。
「大きくなった?」
「うん、下ネタはやめようか」
そもそも好きな子を見た時に大きくなるんじゃなくて興奮する時に大きくなるんだよ。
「なんだ、真琴は既に来てたのか」
「能見は妹さんと一緒に来るって話だったからな」
翔と阿久津もやってきた。
二人とも体格が良いだけによく目立つ。
「翔さん、チーッス」
「おう、チーッス」
「隣の方はお兄ちゃんのお友達でしょうか?」
体育系モードから対外用の真面目モードに切り替わったのを見て面食らっている様子の阿久津。
初めてみると驚くよな。
「そうだね、能見の友達で阿久津と言う、君のお兄さんにはいろいろ助けてもらってるよ」
「それはそれはご丁寧に。 むしろうちのお兄ちゃんがきっとご迷惑をかけているでしょう」
「お前は俺の何なんだよ」
「妹?」
「よし、妹が保護者の真似をしている理由を聞こうか」
「妹より優れた兄などいないから保護してあげてるんだよ」
「全国のお兄ちゃんに謝れ」
お兄ちゃんは妹を守るために全力を尽くすから、素直に守られておくのだ。
「態度がコロコロ変わる子だな」
「陽菜ちゃんは大体ノリで話してるだろ」
阿久津が興味深そうに見ている。
まあ見ていて面白いのは分かる。
「お待たせしましたぁ」
「最後っぽいわね」
名雪さんと平川さんの二人もやってきた。
「ふむ、いいじゃないか」
「ほう……」
名雪さんはピンクのビキニで生地が三角になっている。
別に小さい布地って訳じゃないのに、おっぱいがこぼれ落ちてきそうだ。
「どう、真琴?」
平川さんは薄い緑色で肩を出したビキニで上下ともにヒラヒラがついている。
ただおっぱいの自己主張が強すぎてヒラヒラで隠しきれていない。
「Very good!!」
「なんで英語なのよ(笑)」
それ以上の言葉が出てこなかったから仕方ない。
俺はキリシタンじゃないけどここまで素晴らしいものを見せられたら……ん?
肩をたたかれたので振り返るとものすごく不機嫌な顔をした透子が睨んでいた。
「いや、違うんだよ、透子が最高なのは間違いないんだけど脇を固める人がいても」
「正座」
「はい……」
すぐに正座する。
ここが室内プールでよかった。
外だったら焼けた砂の上で正座になってるところだ。
「誰が脇を固めるですって?」
さっきまでご機嫌だった平川さんも睨んできた。
これはまずい。
「いや、それは言葉の綾で」
「なら望み通り脇を固めてあげようじゃない」
そう言って脇固めをしかけてきた。
見た目だけかと思ったら意外としっかりロックがかかっている。
「青春ですねぇ」
「よほど自爆が好きなんだろうな」
抜け出そうと腕を動かすとふにょんとした感触がある。
これは……まずい。
平川さんは気付いていないっぽいけど腕がおっぱいに押し付けられている。
しかも水着なのでほとんど直の感触だ。
これだけ大きいのに弾力があって押し返してくる。
この谷間に手を挟んでもらったらさぞ……。
「む」
「久美、真琴がおっぱい堪能してるぞ」
「はい!?」




