80.幻覚の無効化
「なあ真琴、最近の流行りの魔法ってなんだ?」
夕食後にくつろいでいると風呂から上がってきた父さんが唐突に質問してきた。
ただそんな質問をしてくる余裕があるなら服ぐらい着てからにしてほしいんだけどな。
しかもさっきまで母さんといちゃついてたのか大事な所が大きくなってるし。
「お父さんが服着るわけないでしょー」
「うん、思考を読むのはともかくそれを娘が言うのはお兄ちゃんとしてはどうかと思うな」
「別に見慣れてるし」
「大事な部分を大きくしてるだろ!?」
「娘で大きくなってるならともかくお母さん見て大きくなってるだけだしー」
「そうだぞ、娘に見せて大きくさせるとか変態の発想だぞ」
「見せてるのが変態なんだよ!?」
父娘で無駄に息の合ったコンビネーションで攻めてきやがる。
父親は全裸で娘は下着姿とかどうなってるんだよ。
「そうか、真琴は血の繋がった家族で興奮するのか、それは変態だぞ」
「おっぱい見る?」
「煽ってんじゃねぇ!?」
「真琴、家族といえど襲ったら犯罪だぞ?」
「家族といえど襲ったらってなんだよ、見せてる時点で犯罪だよ!?」
とりあえず父親のパンツを取って押し付けると面倒くさそうにはき始めた。
窮屈だと言うけどそれが普通だとなぜ理解しないのか、これが分からない。
「お兄ちゃんがそんなに気になるなら幻覚魔法で隠せばいいんじゃないかな」
「なんでこっちが配慮しないといけないんだよ」
「脱ぎたい人からは対処できないから?」
「そこまでしてなぜ脱ぎたいのか、小一時間問い詰めたい」
「体に何か身につけるのが嫌かな」
「そうだぞ、昔の人は全裸で生活してたんだぞ」
「現代人にあるまじき感想だな」
駄目だ、ここには原始人しかいない、早くなんとかしないと。
というか原始人ですら冬は何か着てただろうから原始人未満だ。
「ところで陽菜が言ってた幻覚魔法ってのはなんだい?」
「服を着てるように見せる魔法だよー」
「それはこちらが使えばいいのかな?」
「あ、そういうのもあるねー」
「ほほう、つまりそれを使えば脱いでも問題ないのかい?」
「[真実の目]で見破られるし、そもそも脱ごうとするんじゃねぇ!?」
「ふむ、見破られるのは頂けないな」
顎に手を当てて何かを考え始めた。
パンイチになった父さんがやけに真剣な顔をしているのがシュールだ。
「見破れない幻覚魔法はないのかい?」
「はい?」
「だって見破るほうが常に上位っておかしいだろう?」
「は? え? だってそういうのは大抵防御側が有利なものだろ?」
「真琴、有利と絶対は違うものだよ」
「お父さんの考えは一理あるね」
そんなこと考えたこともなかった。
陽菜も同意しているけどそんなことありえるのか?
「でも魔法の原理?的にそういうのは……」
「なら防御側に細工すればいい」
「は?」
「例えばその[真実の目]とやらに細工をして特定の幻覚だけ打ち消せないとかすればどうだい?」
「あ……」
そうだ、魔法の説明文は自分で作れるんだからそういう効果を仕込んでいても気づかれない。
一応いくつか試してみて幻覚魔法が無効化されてるのを確認はしたけど全ての幻覚が打ち消されているかは分かるわけないんだ。
しかも幻覚無効だと思っているから、今ある光景が幻覚だと疑うこともない。
まさかそんなことって……。
「まあそれは発想の一例だけど、やりようによっては防御なんて無効化出来るものさ」
「さすおと」
「ドヤァ」
陽菜に褒められてドヤ顔している父さん。
ただ今回ばかりは俺も父さんをすごいと思う。
そんな発想まったくなかった。
「あなた、ちょっと手伝ってくれますか?」
「はいはーい、すぐ行くよ」
母さんに呼ばれて急いで部屋を出ていった。
普段からあのくらい機敏に動いて欲しい。
「発想力はすごいよな、変態だけど」
「そうだね、お父さんだけど」
あの血が半分混ざってると思うと、なかなか複雑な心境だな。
いつか俺も脱ぐのを当たり前だと思ってしまわないか心配だ。
「お母さんも脱ぐけど?」
「そうだった!?」
むしろ父さんはパンイチが多くて母さんのほうが全裸率が高いんだった。
俺は露出狂エリートの家系だったのか……。
「見せるだけなら害はないよ」
「見るのに害があるんだが?」
「だから幻覚魔法使えばいいのにー」
たしかに自身で使うなら幻覚無効化なんて関係ない。
見たくないものを視界に入れたくないと言うならそういうのも……あれ?
「もしかして特定の幻覚を無効化する仕込みどころか意図的に幻覚を見せることもできる?」
「よく分からないけど出来るんじゃないかな」
「なら[真実の目]はどこまで本物なんだ?」
「え?」
「もし幻覚を無効化した幻覚を見せられてたら?」
「んん? 意味がわからないよ」
頭にハテナを浮かべた陽菜が近寄ってくる。
分からないことがあると近くで聞こうとするのがかわいい。
「例えば、1が3に見える幻覚があるとする」
「ふんふん」
「幻覚を無効化してるというのは、3に見えていたものが1に見えるようになるということだ、それは分かるな?」
「難しく言ってるけど幻覚が無効化されて元に戻ったってことだよね」
「もし特定の条件下でのみ2に見えたら?」
「んん? それは1になるはずのものが2になってるってこと?」
「そうだ」
「なら幻覚が無効化されて1になるんじゃないの?」
やはり理解が難しいらしい。
何か上手く伝えられないかな。
「なら実例でやってみよう」
少し離れた所にサインペンを置いてその手前に画用紙を置く。
画用紙の影に隠れてサインペンは見えていない。
「こうすると陽菜から見てサインペンは見えないよな」
「うん」
「幻覚って言うのがこの画用紙みたいなもの」
「うんうん」
「画用紙という障害物でサインペンが見えてない、そして幻覚を無効化にするというのは障害物がなくなるってことだ」
画用紙を持ち上げるとサインペンが見えるようになった。
これが幻覚無効として期待されている効果だと思う。
「でもこの画用紙をこうすると」
画用紙にボールペンの絵を描く。
「鉛筆?」
「ボールぺンだよ!?」
さすがにそこは見分けてほしいけど、まあその話はとりあえずいったん置いておこう。
「これが想像している幻覚無効化魔法を使った時の効果だ、陽菜から見て何が見える?」
「画用紙に書かれたボールペン?」
「うん、えらいぞー」
「えへへー」
ちゃんとボールペンと答えたので褒めておく。
ただ俺の求める答えとはちょっと違うんだよな。
「ただ絵が描かれている部分以外は幻覚無効化魔法の効果で透けて見えるものと考えてほしい」
「ならボールペン?」
「そう、《《サインペンがボールペンに見えているんだ》》」
「え、それの何がすごいの?」
きょとんとした顔で質問する陽菜。
これはまったく理解できていない顔だな。
「画用紙がない時はサインペンが見える、それは幻覚無効化魔法を使っていてもいなくても同じなのはわかるな?」
「分かる」
「幻覚魔法で画用紙を出現させた場合、さっき言った幻覚無効化魔法を使っていないならサインペンは見えない」
「そうだね」
「幻覚魔法で画用紙を出現させた場合に幻覚無効化魔法を使っていたらどうなる?」
「……えっと、ボールペンが見える?」
「さすが俺の妹だ」
「あばばばー」
ご褒美にアゴをタプると気持ちよさそうにしている。
「でもそれってボールペンに見せる幻覚と何が違うの?」
気持ちよさそうにしつつも鋭い質問が飛んできた。
それについてはここがポイントなんだ。
「その場合はサインペンかボールペンかの二択、つまり正解か不正解かの二択になるけど、俺の言ったケースならどちらも不正解の二択なんだ」
「あ……」
これが恐ろしい。
普通は『自分の見えてる物と相手の見えてる物のどちらが正しい?』という状況で両方間違いなんて想定はしない。
「幻覚無効化魔法で無効化出来たので正しい情報を得られていると思っていたら誤った情報を渡されていた、これはすごく恐ろしいことだよな?」
「たしかにそうだね……」
「そんなことが出来てしまうのでかなり怖いんじゃないかと思った」
アゴに手を当てて考えている陽菜。
きっとかなり危険だと理解できたのだろう。
カードゲームのコンボと同じで単独では普通の効果でしかないのに組み合わせると予想外の効果を発揮する。
恐ろしいのはカードゲームと違って説明文が信用できないので組み合わせを見つけるのがほぼ無理な点だ。
俺の[届いたよその光]だって、説明文がなければ[誰にも届かないかすかな光]と組み合わせるなんて気づけない。
「すごい、なんかいろいろ応用できそう」
「だろ?」
「さすおに」
「ドヤァ」
褒められると嬉しいので調子に乗っておく。
「ますます世に出回っている魔法が信用ならないってことだね」
「一度説明文通りに魔法を作ってみるのが良いな」
「そうする」
「ところでそろそろ服を着てくれないか?」
「これは幻覚魔法と幻覚無効化魔法の組み合わせの結果で服が透けて見える幻覚になってるんだよ、お兄ちゃん」
「服の上からそんな柔らかい弾力を感じてたまるか!?」
「お、どこが柔らかいのか詳しく」
「ヘンタイだー」
いつも通り下ネタで落ちがついた。
でもますます[真実の目]が信用ならなくなってきたな。
ただ気になるのは魔法解禁前のたった数日でここまで考えて[真実の目]を作っているという事実。
時間もなければ検証できたわけでもないのに、どれだけの発想力があればそんな魔法が作れるのか。
そしてそんな人が[真実の目]の後に魔法を一つも作っていないというのも恐ろしい。
一体何をしているのだろうか。




