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世界書で恋の魔法は作れない  作者: rpmカンパニー


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78.銀行強盗

 今日は陽菜と二人で出かけている。

 目的は買い物と言うことになっているが大半がウィンドウショッピングなのでろくに荷物はない。

 きっと陽菜は出歩くのが好きなんだろうな。


「疲れたー」


 荷物はなくてもいろいろ回っていたら疲労は溜まってくる。

 ダルそうな顔で俺の腕を引っ張ってきた。


「座りたいー」

「そんなお金はない」


 休憩のために喫茶店やファミレスに入るにしてもお金がかかる。

 ショピングセンターなら休める所があるけどだいぶ遠いし帰ったほうが早い。


「ここで休めばいいよ」


 陽菜が指さしたのは銀行だった。

 たしかに座れる場所はあるしお金もかからないけど……。


「ねー、いいでしょー?」


 腕に抱きついて上目遣いで見てくる。

 こちらにかなり体重をかけてきているので立ってるのも辛いのだろう。

 まあ店側だってそういう客が来ることぐらい想定済みか。


「受付の順番が近くなったら出るからな」

「うん♪」


 銀行の中に入ると冷房が効いていて涼しい。

 受付番号から考えて20分ぐらいは休めそうかな。


 陽菜は一目散に椅子に向かい二席確保していた。

 そこまで頑張らなくても人は多くないぞ。


「ふうぅぅ」


 席に座るとつい声が出てしまった。


「お兄ちゃん、おじさんっぽいよ」

「意外と疲れてたんだと思ってな」

「でしょー?」


 俺の疲れも気にしてくれていたようで、ドヤ顔で答える陽菜。

 さすがに外でアゴをタプれないので代わりに頭を撫でておく。


 たしかに町中で無料で休憩するなら銀行は有りだな。

 エアコンが効いた室内で席に座れるし一応水くらいは飲める。

 難点は受付の順番が来ると面倒ってことかな。


「なんか変わった格好の人いるね」


 陽菜が目線を向けている先には一人の男がいた。

 暑いのにしっかり服を着込み大きな鞄を持っている。


「番号札16番のお客様ー」


 俺の番号は20番だからそろそろ出たほうが……いや、もう少しいけるか? 

 つい快適な空間に居続けようとしてしまったこの決断をすぐに後悔することになる。


 しばらくして 窓口で会話していたさっきの男が大きな声で話し始めた。


「そーかい、そーかい、あんたたちのやり口はよく分かった」


 静かな銀行内に響く声だったのでついそちらを見てしまう。

 ただ怒っていると言うより呆れている感じに聞こえたけど何があったんだろうか。


「なら奪うしかねーよな?」


 そう言って懐からなにかを取り出して窓口に見せている。

 え、奪うって何を?


「こっちに顔を近づけろ、いますぐ」


 その言葉がヤバいものだったというのが分かったのは、奥の方にいる銀行員が血相を変えて叫んだからだ。


「や、やめたまえ!!」 

「おっと、変に刺激すれば引き金引いちまうかもなぁ、なにせ手がかかっているからな」


 男がニヤつきながら周りを見ている。

 かろうじて見える感じだと窓口の女性の口に黒い金属のような物体を咥えさせているような……。

 ってもしかして拳銃か!?


「な、何が目的だ!!」

「まずはシャッターを閉めてもらおうか、変な動きをしたら赤色の花火を見ることになるぞ」


 声しか聞こえていない窓口待ちの人たちが一体何事かとささやき始める。

 すると男が空いている手で懐からもう一丁拳銃を取り出した。


「お前ら、動いたらどうなるか分かってるな?」


 そう言って周りに銃口を向けてきた。

 これは銀行強盗?

 え、いったい何の冗談? もしかして映画の撮影?

 現実の状況に思考が追いつかない。


「ひいいいいいい」


 突然銃を向けられたことに驚いたのか老齢の女性が叫びながら入口の方に走っていく。

 すると強盗はその女性に銃口を向けて引き金を引いた。


「ぎゃあああ!!」


 叫び声と共に倒れ込む女性。

 嘘だろ、何の音も聞こえなかったぞ……。

 銃にサイレンサーがあるのは知ってるけどここまで音を消せるものなのか?

 それとも何らかの魔法?

 現実感がなさすぎてそんなことを考えていた。


 だけど倒れた女性からドロリと赤い液体が広がってきたことで、これが現実だと認識してしまった。


 嘘……だろ……、ここは日本で銃の所持は禁止されていて、でも目の前の人は血を流していて……。


「痛い痛い痛い、誰か救急車を」

「うるせえ、黙れ」


 もう一回撃たれて女性は静かになった。

 店内にはシャッターが閉まる音だけが響いていた。 


「この鞄に金を詰めてもらおうか」


 シャッターが閉まりきった所で強盗が左手の銃を下ろし足元に置いていた鞄を窓口に置いた。


 それを呆然と眺めていた俺の背中に何か当たる感触。


「お、お兄ちゃん……」


 陽菜が俺の背中にしがみついた。

 強く押し付けられた体から震えているのが伝わってくる。

 そうだ、俺だけじゃなく陽菜がいる。

 思考を放棄したら何も対応できない。 


 強盗の視界に入らないように世界書を出して魔法を検索する。

 たしか消費MPが死ぬほど高いしリボルバーにしか使えないし一丁にしか効果ないけど銃を無力化させる魔法があったはず。

 防御魔法じゃかばいきれないからそれで対処するしかない。


「静かにしてりゃあ何もしねーよ」


 俺たちの方を見回してそう発言する強盗。

 怖い。

 今世界書を触っていたことに気づかれてたら撃たれていたかもしれない。

 そう考えて手が動かなくなりそうなのを気合で動かす。

 他人が撃たれるのは諦められる。

 しょせん他人だからだ。

 でも陽菜が撃たれたら……もしそれで死ぬようなことがあったら悔やんでも悔やみきれない。


 強盗が窓口の方を向き直った隙にまた世界書で魔法を探す。

 ……あった、この魔法だ。

 無力化する魔法自体はいくつかあるけど、魔法を使ったとばれるのは避けたい。

 この魔法名なら叫んでしまってもごまかしが効くし緊急回避も出来るだろう。

 ただ強盗は銃を二丁持っているのがネックだ。

 両方を無力化は出来ないからまだ何か手を……。 


「お兄ちゃん……」

「大丈夫だ、俺がいるからな」


 震える声で俺に話しかけてきた。

 変に姿勢を変えると目立つので抱きしめるのは無理。

 だから少しでも声をかけて安心させる。


「おっと、内緒話しているそこの男、ちょっと来い」


 強盗の言葉に慌てて顔を上げたが、強盗はこちらを向いていない。

 どうやら俺のことを言ってるわけではなかったみたいだ。


「え、いや、そんなことh


 銀行員の男性が何か言い返そうとした所に何かが突き刺さるような音がした。

 どうやら強盗が銃を撃ったらしいけどなぜか窓口のアクリル板に突き刺さっていた。


「命令は聞こーぜ、サラリーマンだろ?」 

「は、はい」


 銀行員の男性が慌てて駆け寄ってくる。

 強盗が何かを囁くと血相を変えて鞄を持って何処かに向かっていった。


 しばらくしてパンパンになった鞄を持って先程の銀行員の男性が現れる。

 強盗はそれを受け取ると世界書を出現させた。


「さてさて効果はいかほどのものか」


 強盗が何かを唱えるとお金の入った鞄が目の前で消えた。


「お、すげーな」


 嘘だろ……、あれはテレポートに違いない。

 銀行強盗は大量のお金を持ち運ぶのが一番大変なので瞬間移動出来るならかなり楽になる。

 でもテレポートは消費MPが膨大すぎて実用レベルになってなかったはず。

 あんな男がホイホイ使えると思えない。


「さて目的は達成したわけだが……」


 強盗が周囲を見回してこちらで動きを止めて気持ち悪い笑みを浮かべた。

 それを見て背筋が寒くなる。


「せっかくだし少しぐらい良い思いもしてーよな」


 強盗の目はこちらをロックオンしているように見える。

 まさか……。


「おい、そこの男に隠れてる女、そう、両おさげの女だ」

「ひ!?」

「そこで立ち上がって直立しておけ、手はまっすぐ下ろしてな」


 馬鹿な、なんで陽菜を!?

 憤る俺を他所に、言われるままに立ち上がる陽菜。

 強盗は陽菜の体をじっくり眺めて何か頷いている。

 その目を見たら次の言葉も予想できてしまう。


「ちょっとこっちに来てストリップショーをしてもらおうか」


 やっぱりふざけたことを言ってきやがった。

 でも落ち着け、ここで闇雲に行動を起こしても撃たれて終わり。

 何か良い案を考え……。


「おれはこういう育ちかけの体が大好物でな」


 強盗の言葉と下卑た笑顔を見て、自制しようとした心のタガが外れる。

 思わず立ち上がろうとしたその時。


「ちょっといいかな?」


 一人の男性が声をかけた。

 日本人っぽい顔つきだけど日本語に外国人らしいイントネーションが混ざっているので日系人だろうか?

 ダボッとしたシャツにチノパンの組み合わせはラフなのにおしゃれさを感じる。


「そろそろ用事がある時間なので帰りたいんだ」

「はぁ?」


 ポケットに手を突っ込んだまま、まるで飲み会かのような気安さで帰りたいという男性。

 鉄臭い匂いが漂っている空間に似つかわしくない態度で、その場の全員が呆気にとられている。


「もう目的は果たしたんだろう?」


 その言葉を聞いて強盗は怒り出した。


「せっかくの機会なんだ、良い思いして何が悪い!!」

「欲をかくのはいけないな、さっきのお金で女を買えばいい」

「うるせえ、黙ってろ!!」


 男性に銃を向けて来たのでとっさに魔法名を叫ぶ。


「【危ない、逃げて!!】」

「あ?」


 男が引き金を引いても何も出ない。

 何度やってもシリンダーが回っているだけ。

 よし、成功だ。


 この魔法は撃鉄の衝撃をなくす魔法だ。

 基本的に銃は撃鉄で雷管に衝撃を与えて爆発させることで火薬に引火させて弾を飛ばしている。

 つまり雷管に衝撃が加わらなければ弾は出ない。

 しかも見た目に変化がないので原因に気付きづらいのも大きい。


「ほう」


 男性が落ち着いた様子で眺めている。

 そしてなにより優秀なのは魔法名だ。

 ただの叫び声にしか聞こえない名前なので魔法を使ったと気づかれにくい。


「ちっ、弾が出ないなら」


 強盗がもう片方の銃の引き金を引こうとする。

 さっきはとっさに使ってしまったけど、あの魔法は一丁しか無力化出来ないのでどうしようもない。

 凄惨な光景を想像して思わず目を逸らす。 


「なっ、どうして動かない!?」


 強盗の驚く声で視線を戻す。

 そこには強盗の銃を掴む男性の姿があった。


「リボルバーの構造上、回転部を固定されたら弾は出ないんだ」


 諭すような口調で話す男性。

 まるで学校の先生のようだ。


「ふむ、鍛えてる様子はないね、もう少しトレーニングしたほうが良い」


 空いている手で強盗の体をまさぐる男性。


「ふ、ふ、ふざけやがって!!」


 怒りに任せて殴ろうと強盗が銃から手を離した瞬間。


「おいおい、銃が最後の頼み綱じゃないのか?」


 その銃を素早く構えて口の中に突っ込む。


「見目麗しい女性と間接キスできたじゃないか、良い思い出になってよかったな」

「あ、あ、あ」


 強盗は動けない。

 いくら引き金に指はかかっていなくても銃が口の中に入っているというのは恐ろしい。

 静かになったのを見て男性が世界書を出現させる。


「【灰は灰に、塵は塵に】」

「は? えっ、俺……ひっ!?」


 強盗の顔が百面相の如く変化し、最後に現状を理解して泡を吹いて気絶した。


「どの魔法か知らないが、もう少し暴力性を抑えるようにすべきだな」 


 男性は強盗の口から銃を抜きそのまま寝かせる。

 そして銃をハンカチで拭いた後、床に置く。


「次回からはオートマチックにしておくと良い」


 ものの5分とかからないあっという間の出来事だった。

 あっけに取られていた人たちもすぐに状況を理解して大慌てで動き出した。


「け、警察に!!」

「救急車も呼ばないと!?」


 シャッターが上がっていく。

 それを見てスマホで連絡を取ろうとする人や出ていこうとする人たち。


「た、助かったの?」

「みたいだ」 


 陽菜からの言葉に頷く。

 とりあえず助かったことを喜ぼう。

 下手すれば陽菜が襲われていたんだから本当によかった。


「あー、キミだったかな、ちょっといいかな?」


 さっきの男性が声をかけてきた。

 陽菜が俺の後ろに隠れる。


「さっきの叫び声は魔法かい?」

「あ、はい、そうです、撃たれると思ってとっさに」

「なるほどなるほど」


 男性が笑っている。

 優しそうな感じで印象の良い人だな。


「撃鉄の衝撃軽減、つまり僕はキミに命を救われたということか」


 驚いた、あれだけの情報で完全に理解している。

 撃鉄に仕掛けを施したなんてまず分からないはずなのに。


「けっこう魔法に詳しいんですね」

「ああいうのを考えるのは楽しいからね」

「あ、僕もそうです」

「そうかいそうかい、気が合いそうだね」


 楽しそうに笑っている男性。

 それにしてもよく笑う人だ。


「でも強盗が使っていた魔法が気になります」

「銃の音を消していた魔法かい?」

「え、あれってサプレッサーじゃないんですか?」

「サプレッサーでリボルバーの発射音は消えないね」

「そうなんですか?」

「サプレッサーの原理とリボルバーの構造を考えてみればわかるから一度考えてみると良い」

「わかりました!!」

「うんうん、良い返事だね」


 なんかものすごく話しやすい。

 この人はモテそうだな。


「また機会があったら話したいものだね」

「そうですね、その時は是非」 

「それじゃあ面倒になる前に僕は帰るよ」


 男性が玄関から出ていった。

 さて俺たちも帰ろうと思い、陽菜の手を取ると震えているのが分かる。


「ど、どうした? 血が怖かったか!?」


 視界に入れないようにしてるけど撃たれた女性からの血が床に広がっている。

 強盗は気絶していても怖かったのかもしれない。


「お兄ちゃん、あの人怖かった……」


 どうやら強盗がよほど怖かったんだろう。

 優しく抱きしめると少し震えがましになった。


「もう気絶してるし銃も持ってないから大丈夫だよ」

「ううん、お兄ちゃんが話してた人」

「え、すごくいい人っぽかったけど」

「怖い……」


 陽菜がここまで怯えているのは小学校以来だ。

 あの時はいじめの相手だったから怯えるのも分かるけど、さっきの男性はむしろ良い人っぽかったような。

 まあどちらにしても去っていったし大丈夫か。


 あ、パトカーの音が聞こえる、さすがに到着早いな。

 ……あれ? こういう時って現場検証とかで拘束されるんじゃ?

 急いで出たほうが「警察です、みなさん動かないで!!」 

 ……遅かったみたいだ。


 結局警察でいろいろ事情聴取されることになり、その日は終わった。

 父さんと母さんが揃って迎えに来てくれたけど特に怒られることはなく心配されるだけだった。


*******


 男性が歩きながら電話をかけている。


「うん、うん、偶然見かけたけど転移は上手くいっていた」「うん、ただどの魔法か知らないが暴力性が増していた」「あれじゃあ使い捨てにしかならないので検討の余地ありだな」「うん、うん、それでお願いするよ、若菜」


 電話を切るとスマホをしまいゆっくりと伸びをしている。


「面白い子どもだったな」


 どうやら強盗事件より能見達に興味がいっているようだ。

 立ち止まってしばらく何かを考えていたようだが、思い出したように口を開く。


「ブック」


 男性の言葉と共に世界書が手元に現れた。

 立ち止まってゆっくりページをめくっていく。


「ふむ、彼は日本人っぽかったし作成者じゃない、か」


 もし名前がバレていたらどうなっていたか、それは神のみぞ知る世界。


「まあいいか、縁があればまた出会うだろう」


 世界書を閉じて消し去った瞬間、スマホの着信音が響く。

 その音を聞いて面倒臭そうな表情になる。


「こっちの方は別に会いたくないんだが仕方ない」


 やれやれという様子で電話に出る男性。


「ええ、ええ、存じております、はい、詳細は後程……」


 面倒くさそうにそうそうに電話を切ってしまう。


「ふう、まったくろくに飯も食えやしない」


 首を回しながら愚痴る男性。

 独り言が多いのは彼の特徴なのかもしれない。


「せっかく日本に来てるんだから美味しいものを食べないとな、今日はオムライスとかいうのに挑戦だ」


 先ほどの電話など忘れてすぐにスマホで店を調べ始めた。

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