77.陽菜と平川さん
カードゲームではまれに今まで見向きもされなかったカードが脚光を浴びることがある。
MTGではイリュージョンズ・ドネイトが有名だろう。
ライフの一時的な借用が出来る〘Illusions of Grandeur〙と自分の所有物を相手に渡す〘Donate〙。
どちらも単品ではほぼ使い道がない。
自分のカードを相手にあげるメリットがないし、数ターンだけライフが増えても一時しのぎだ。
しかしこのふたつを合わせるとライフを借りて借用書を相手に押し付けることが出来る。
自分のライフは回復するし相手は支払いで即死するというえげつないコンボとなる。
そんな珍しい事態がカオスフィールドでも起きた。
ただしこちらは三枚構成で〘最後の賭け〙と〘悪魔との取引〙と〘アラミス〙が必要となる。
〘最後の賭け〙は、このターンの戦闘が全て判定無しで使用者の確定先行になるがターン終了時に敗北する儀式呪文。
カオスフィールドは基本殴り合いのゲームなので確定で先に殴れるのは非常に強い。
ただターン終了時に敗北するデメリットが大きすぎて使われることはない。
とどめにしか使えないカードを普段から手札で腐らせるよりいつでも有用なカードを使ったほうが総合的に優秀だからだ。
〘悪魔との取引〙は、次の自分のターンまで自軍のモンスターが死ななくなるというすさまじい効果を持つ儀式呪文だ。
通常のカードゲームならモンスターが死ななくてもそこまで影響がないけどカオスフィールドにおいては最強格だ。
モンスターが死なないということは陣地を奪えないということであり、それは敗北しないと言ってるに等しい。
ただし次の自分のターンが来た時にコントロールを相手に渡すという強烈なデメリットを持っている。
コントロールを渡すということはありとあらゆることをされるということだ。
負ける戦闘を仕掛けるのも可能だし呪文を無駄撃ちすることも出来る。
なにより本陣からモンスターを動かしてしまえば、次のターンでガラ空きの本陣を後で制圧して終わりだ。
つまりカオスフィールドにとってコントロールを奪われるというのは実質次のターンに敗北するカードと言っていい。
モンスターが死なないだけでは一時しのぎにしかならないのでこのカードも使われることはない。
どちらも効果は強いけどデメリットがきつすぎてカスレアと呼ばれていた。
そんな時、先日の新エクスパンションで変わったカードが出た。
〘アラミス〙と言うカードは儀式呪文の発動を次の自分のターンに遅延させる特殊能力がある。
一ターンに一回しか使えない呪文を重ねたり手札を全部捨てるデメリット持ちの呪文と合わせたりという玄人好みのカードだと思われていた。
しかしその変わった特性を有効に使うデッキが現れる。
その名を強制取引デッキと言う。
デッキの動きとしてはこうだ。
まず〘悪魔との取引〙を使う。
次の自分のターンまでモンスターは死なず、次のターンのコントロールが奪われるわけだ。
次に〘最後の賭け〙を〘アラミス〙の効果で遅延させる。
するとどうなるだろうか?
次の自分のターンに〘最後の賭け〙が発動するがコントロールは相手プレイヤーに奪われている。
そして《〘最後の賭け〙の効果は呪文のコントローラーに作用するので相手プレイヤーに効果が出る》。
つまり相手プレイヤーはこのターンで決着をつけないと負けるということだ。
「芸術性の高いコンボだよな」
このコンボの素晴らしい所はカオスフィールドというゲーム性に噛み合ってる点だ。
HPやLPを削るタイプのカードゲームなら対戦相手のターンで勝利するのは難しくない。
でもカオスフィールドは陣取りゲームだ。
基本的に自軍モンスターを対戦相手のターンで動かせないので、対戦相手のターンで相手プレイヤーのコントロールをもらおうが確定先行をもらおうが勝利するのは難しい。
メリットをあまり活かせないのだ。
「こういうのを自分で見つけたいものだけど」
それぞれのカードの効果は知っていてもその三つを結びつけることが出来なかった。
発想さえあれば簡単に気づけただろうけど、発想が出来ない。
「デッキのネーミングセンスも良いよな、悪魔と強制取引をさせるって」
ん? 強制?
もし魔法でそんなことが出来るとしたら……?
「どーん!!」
「うわっ!?」
考え事をしていたせいで接近に気づかず、後ろからけっこう強い体当たりを受けてしまった。
きっと俺が静かになったから襲撃に来たんだろう。
「なぜ背中に体当たりしてきたのか教えなさい」
「ノリ?」
声だけで陽菜がどんな反応しているか分かる。
やはり本家はかわいらしさが別格だな。
「はい、次は久美ちゃんね」
「は?」
「えっと、ドーン!!」
陽菜と比べ物にならない衝撃が来た。
ただ陽菜と比べてクッションが大きいせいかあんまり痛くない。
というかむしろ気持ちいいくらいだ。
「こうしてみると真琴って小さいわね」
「心をえぐりに来るのはNG」
たしかに標準より下だけど改めて女子に言われると悲しい。
平川さんが身長高いってのもあるけど。
「そうだよ、お兄ちゃんは小さいけど息子は大きいんだよ」
「見たことないだろ!?」
「ふっふっふ、甘いねお兄ちゃん、寝てる時は無防備なんだよ?」
「まさか」
「お母さんが定期的に成長記録つけてるよ」
「嘘だろ!?」
「嘘です」
「よかった」
「つけてるのは私」
「よくない!?」
「仕方ないなあ、じゃあ私のおっぱいの成長記録つけていいよ」
「どこに『仕方ない』と『じゃあ』につながる言葉があったんだよ!?」
「顔?」
「そんなエロい顔してねぇ!?」
ネタに困ったら下ネタに持っていくのが最近の傾向だな。
まあ本人が楽しいならいいか。
「相変わらず仲良いわね」
「ドヤァ」
「真琴はシスコンすぎてキモい」
「直球の悪口!?」
「もうそろそろ妹離れしたほうがいいと思うわよ?」
たしかにそれはそうかもしれない。
陽菜も思春期真っ只中だし、実際はうざいと思っていて付き合ってくれてるのかも……。
そう思って陽菜の方を見るとウインクを返してきた。
うん、大丈夫かも。
「久美ちゃんこそ透子さん離れしたの?」
「お姉ちゃんは実際のお姉ちゃんじゃないのでシスコンじゃないかな」
「魂が姉妹だと言ってるならシスコンでは?」
「そうだよ、家族は血の繋がりではなく魂で繋がっている一族を指すんだよ」
「零崎一族みたいなことを言うわね」
意外と小説にも詳しいのか。
いやまあ西尾維新だしアニメ・漫画から派生しやすいか。
「零崎一族は流血で繋がる、つまり竿姉妹?」
「下ネタはやめなさい」
しかもそれだと女性しか増えないぞ。
せめて男女問わずに増やせないと絶対行き詰まる。
「なにそれ?」
「知らなくていいよ」
平川さんは知らなかったみたいだけどそんなことは覚えなくていいと思う。
「久美ちゃんはどういう縁で透子さんをお姉ちゃんって呼ぶようになったの?」
「……そうね、教えても良いかな」
平川さんが姿勢を正したので俺と陽菜も姿勢を正して聞く体勢になる。
「アタシ、小さいころから身長が高いから男の子みたいって言われてたのよね」
「ほうほう」
「髪を伸ばしたりスカートはいたりしたら男女って言われてからかわれてた」
それはつらい……。
言う側はそこまで悪意を持って言ったわけじゃないと思うけど、言われた側はトラウマ級だろう。
「そんな時にお姉ちゃんがうちに遊びに来たの」
「ほう」
「お姉ちゃんはお人形さんみたいに可愛かったし周りの男子も一目でお姉ちゃんを好きになった」
「よし、今から時間遡ってくる」
「お兄ちゃん、ステイ」
小さいころのお人形さんみたいな透子とかめっちゃ見てみたい。
写真とか残ってるなら見たいけど怒られるかな?
「でもお姉ちゃんが言ったの『久美のほうがかわいい』って」
「さすが透子さん」
「お前に透子の何が分かるんだよ」
「ふっふっふー、お兄ちゃんより詳しいかもよ」
「まじで!?」
「話続けるわよ?」
「あ、はい」
「男子たちは『嘘だー』って言ってた、でもお姉ちゃんは『なら証明するからまた明日』と言ってアタシをブティックに連れて行ってくれたの」
「行動力がありすぎる」
透子って大人しそうな見た目に反して行動力あるよな。
俺だったら絶対何も出来ないと思う。
「そういうお店行ったことなかったから緊張したんだけどお姉ちゃんが全部コーディネートしてくれて」
「透子さん、さっすがー」
「次の日、それを男子に見せたら言葉を失ってたのよね」
元がいいんだから、ちゃんとした格好すれば綺麗になるに決まってる。
つまり平川さんはファッションセンスが……。
「はい、ファッションセンスの問題と思った真琴はアウト」
「また口に出してた!?」
「表情で分かるよ、お兄ちゃん」
それだと言葉に出なくても駄目じゃないか。
どうしよう、対策は難しそうだし魔法でなんとかするしかないか?
「他にもなにかあるとすぐお姉ちゃんが助けてくれるの、きっと面倒なはずなのに嫌な顔一つせず」
「分かるよ、味方がいるっていいよね」
「そう、味方がいるってすごい心強いことなんだと初めて分かった」
「うんうん」
「だからアタシはお姉ちゃんの全部が大好き」
高らかに宣言する平川さん。
ほんとに透子のことが好きなんだな。
「ちなみに次の日からは男子が手のひら返したように媚び売ってきてウザかったわ」
「男子も味方しようとしてるんだと思うよ?」
「ああん? アタシが辛い時に近寄ってこなかったのに都合のいい時だけ味方ヅラってふざけんじゃないわよ」
うお、ものすごくガラが悪い。
そうか、平川さんは怒ると怖いタイプだったのか。
「なるほど、久美ちゃんはヤンキーだったと」
「違うの!! 今はちゃんと普通になったから!!」
本人は言ってなかったけどきっと男勝りの性格だったんだろうな。
それこそ男に見えるぐら……はっ!?
「真琴は正座」
「はい……」
やっぱり口に出ていたらしい。
言われた通りに正座すると陽菜が近寄ってきた。
「なになに、新しい遊び?」
「質問しながら躊躇なく膝の上に乗るんじゃない」
あれ、透子と大して変わらない重さだな。
透子は小さめだけど年齢差を考えるとむしろ陽菜が重いのd……。
「お兄ちゃんはデリカシーがない!!」
「膝の上で飛び跳ねるのやめて!?」
口には出してなかったと思うけど顔色だけで察したようで暴れ始めた。
ぴょんぴょんされると重さが何倍にもなるので足が非常に痛い。
「陽菜ちゃんは真琴と仲良いけど、どこが好きなの?」
「好きって言うか兄妹だからね」
陽菜の返事に怪訝そうな顔をする平川さん。
「ふーん、ずっと気になっていたんだけどもしかして「それ以上は駄目」
平川さんの言葉を遮って陽菜が答える。
え、陽菜がこんなマジな顔してるのいつ以来だ?
その表情を見て平川さんは何か考えているっぽい。
「……そういうこと」
「なにが?」
平川さんはあれだけで分かったようけど俺はさっぱりだ。
「真琴はお姉ちゃんのどこが好きなの?」
「なんでいきなりそんな話になるんだよ!?」
「陽菜ちゃんも聞きたいわよね?」
「聞きたい!!」
「はい、多数決」
「こういう時だけ多数決にするのはずるい」
反論しようにも数で負けてるから倍返しになるし、そもそも二人に口で勝てる気がしない。
「事前に想定しておかないからよ」
「そんなの想定するの無理だよ!?」
「お兄ちゃんには難しいかも」
「そうね、真琴って考え方が偏ってるから他人のこと想像できないのよね」
やめて、俺のライフはもう0よ。
でも俺の考え方が偏ってるって言われるとたしかにそんな気はする。
世間一般の意見といまいちかみ合わないんだよな。
「ただお姉ちゃんもけっこう考え方が偏ってるから似た者同士?」
「そこの所、詳しく」
「自分で調べなよ」
「そうだよ、お兄ちゃん」
平川さんが肩をバンバン叩いていると陽菜も真似して叩いてきた。
そうだよな、コンボの探し方と一緒でまずは自分で調べるのが大事だよな。
あれ、そういえばさっきコンボのことを考えていた時に何か浮かんだような……。
「じゃあお姉ちゃんのどこが好きか発表ね」
「私より少なかったら罰ゲーム」
「こっそり罰ゲーム追加するなよ!?」
まあいいか、そんなに重要なことじゃなかっただろう。
それより罰ゲームを避けるために頑張るか。
結局透子の好きな所をたくさん発表させられたけど、二人とも楽しそうに聞いていたのが意外だった。




