表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界書で恋の魔法は作れない  作者: rpmカンパニー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/146

76.本題の盗難事件

 みんなで打ち合わせをした後。


「ちっ、どうでもいいことで呼びやがって、おい、続き始めるぞ」


 不機嫌そうな顔で戻ってきた。

 なんとか間に合ったな。


「ん? なんだ、お前ら、ほうきやら雑巾やらを持って何をしてんだ?」


 俺達の姿を見て怪訝な顔をしている。

 まあ待っていただけのはずなのにごそごそと何かをしていれば気になるか。


「その段ボールごみの山もなんだ?」

「いやー、待ち時間に掃除してたんですよ、なあ、みんな?」

「その通りー」

「たまには本腰入れて掃除しないと」

「空いた時間の有効活用」


 半沢は《《俺たちが頑張って作った段ボールごみの山を見ている》》。

 そんな質問が出るあたり、どうやら現状を処理しきれていないらしい。

 今がチャンスだ。


「おおっと、足がすべったーー」


 狙いを定めてチョークの粉が詰まった箱の中身を半沢にぶちまける。


「ぶはっ、なんだこれは!?」

「すみません、チョークの粉が」

「なんでそんなもんがあるんだ!!」

「黒板消しのクリーナーを掃除しようと思いまして」


 メガネも含めて白い粉まみれになっているので何も見えていない。

 まるでコントみたいだけどそれを笑っている時間はない。


「メガネが汚れてしまいましたね、ちょうどここに眼鏡拭きがあるので拭いてあげますよ」

「せんせー、タオル使ってー」

「お、おう」


 手早くメガネを取り上げ、すぐに取り返されないように女子からタオルを渡して両手を塞ぐ。

 全身粉まみれなのでまずは体を拭くのを優先するだろう。

 今のうちに世界書を手元に出す。


「【段ボールこそ宝】【気にしたら負け】」

「どうした?」

「いえ高価そうなメガネだなって思って」

「壊れてたら弁償してもらうからな」


 粉がかかった程度でそんなこと言うなんて、どれだけ気量が小さいんだよ。

 さっきかごに放り込んでいた俺たちの持ち物が壊れていたら弁償しろよな。


「ん? なんか一気に少なくなったな」


 体を拭き終わって眼鏡が戻ってきた半沢が鞄やロッカーを漁っていくが何も出てこない。

 余計なものは全て抜き取ったから当然だ。


「お前ら、掃除にかこつけて持ち物隠しただろうが」


 どれだけ見ても何も出てこないので半沢が怒り出した。

 まあそれぐらいはさすがに気づくよな。


「先生、どこに隠すんですか?」

「それぐらいどこにでも隠せるだろうが」

「全員のロッカーの中身が取り出されて空っぽになってるのに?」

「……ロッカーは空でも他の場所に」

「どこですか? 掃除道具入れの中ですか? 教卓の中ですか?」

「……」


 大森さんが半沢の一言一言にツッコんでいく。

 こういうのは男子より女子にやられる方が効くものだ。

 半沢は一応大森さんが言った場所を調べているけど何も出てこない。


「それともまさかごみ箱ですか?」

「そうだな、ごみを隠すならごみ箱だろうな」


 視界の端で数人の男子が他の人に抑えられていた。

 なんとか我慢してくれよ。


 半沢はごみ箱や《《没収したものが入っているかご》》を嫌そうに漁っていたが何も見つからなかったようだ。


 結局その後の持ち物検査で没収されたものはなかった。

 イラついた様子でこちらを見ているが、本来の目的はなんだったのかと問いたい。


「ともかく、没収したものは預かっておくからな」

「先生、こっちの山はどうします?」

「そんなもんいらんからお前らが捨てておけ」


 半沢は《《段ボールごみが大量に入ったかごを持つ》》を抱えて、《没収したものが入っているかごを指さしながら》ごみ捨ての指示をする。

 よし、言質を取ったぞ。

 江川の方を見ると◯のサイン、記録はOKだな。


「わかりました、こっちの山は処分しておきますね」

「ったく、少しぐらい自分で捨てろや」


 イライラした様子で《段ボールごみが大量に入ったかご》を持っている。


「検査は終わりだ、後の時間は片付けしとけ」


 横暴なことを言い残して去って行った。

 扉から覗いて完全に立ち去ったことを確認するとみんな一斉に喋り出す。


「うける、何も見えてねーでやんの」

「あのロッカーが見えないのかって話だよね」

「魔法なめすぎ」


 《物で溢れかえっているロッカーを見ながら》大森さんとその友達が会話している。


「しかもごみの山回収おつー」

「あれは笑うよな、後生大事に抱えていったぞ」

「ふざけたことをした報いだな」

「どんな感じで報告するのか見てみてー」


 《没収されたものが入ったかご》を見ながら男子が反応する。

 そう、半沢が見た空のロッカーは幻覚。

 チェック済みのロッカーに没収されそうなものを全部詰め込んだ。


 どうやったかって?

 種は単純で幻覚魔法を使って詰め込んだロッカーの中身が見えないようにしたんだ。

 もちろん[真実の目]の対策もばっちりだ。


 [真実の目]は幻覚を無効にするけど、あくまで直接見たものに限るんだよな。

 例えば、スマホのカメラごしでは幻覚は無効に出来ない。

 ただしメガネは目の延長線上として扱われるので幻覚を無効に出来る。


 ただここでポイントなのは目と違ってメガネは独立した物体であることだ。

 つまりもし《《幻覚を見せる魔法をメガネにかけたらどうなるのか?》》。

 答えは『幻覚が見える』。

 なぜなら自分で幻覚を見ようとするのは[真実の目]の対象外だからだ。

 つまり疑似的ではあるけど相手に幻覚魔法をかけられるということになる。


 そのおかげで半沢は没収したものをごみだと勘違いし、逆に段ボールごみの山を没収品だと思って持っていったんだ。


「みんな、とりあえず没収されたものはさっさと回収してね」

「本当に来るかな?」 

「半沢なら顔真っ赤にして怒鳴り込んでくるっしょ」


 一通り回収し終えたころ。


「ふざけるな!!」


 本当に顔を真赤にした半沢が教室に飛び込んできた。

 勢いがすごすぎて女子の一部がびびっている。


「どうしたんですか、先生?」

「お前ら、俺にごみを渡しやがったな!!」

「はて、先生がごみを持っていくと言ったような」


 とぼけた様子で翔が答える。

 翔の答えを聞いてヒートアップする。


「誤魔化すんじゃねぇ!! お前らが学校に持ってきたごみのことだ!!」

「ああ、あれは僕たちで片付けておきましたよ」


 いたって冷静に阿久津が答える。

 阿久津の至極優等生っぽい発言にイライラを募らせているようだ。


「没収されたごみを勝手に盗んだのか!!」

「勝手に盗んだと言われましても先生からの指示でしたよ」 


 ニヤニヤしながら桐谷が答える。

 その発言でどうやら怒りが頂点に達したようだ。


「バカ野郎!! そんな指示出してるわけねーだろ!!」

「確かに出してました」


 少し怒り気味に和泉さんが答える。


「なんで没収したもんをわざわざお前らに渡すんだ、言ってみろ!!」

「先生の考えは高尚すぎて凡人の我らにはさっぱり」


 煽るのが得意な沼川が答える。

 それを聞いてさらに顔を真赤にする半沢。


「まあとりあえず証拠はこれです」


 江川がスマホの映像を再生する。

 さっきまでのやり取りが全て録画されており半沢が指示を出してる所もばっちりだった。


「馬鹿な、馬鹿な、そんなこと……」

「ごみ捨てご苦労さまです」

「ふざっ!! 「暴力は厳禁だろ」


 感謝の意を示した俺に殴りかかろうとしてきたのを翔が止める。

 そしてそのまま半沢を連れて教室を出ていったので、おそらく職員室に向かうのだろう。


「最後の最後にキレるなんて困ったものだよな」

「煽っておいてよく言うな」

「あんなの煽りに入らないと思うけど」


 阿久津に突っ込まれたけどあの程度で煽りとか片腹痛い。

 陽菜はもっと的確に急所をえぐってくるぞ。


「まあこれで解決だろうしロッカーの中のものも戻すか」

「これ片付けるのかよ……」

「みんなでやればそこまでかからない」


 そう言って端のロッカーに詰め込んだみんなの物を取り出して渡し始める。


「面倒くせー」

「誰かやっといてよ」

「誰のものか分かんねー」


 共通の敵が去ったことで一気に団結が崩れた。

 とはいえ自身の荷物が放り出されているのは困るからか、みんなぶつくさ文句を言いつつ片づける。


「しかし意外と魔法って使えるのな」

「能見が役に立つとはな」

「ほんと、うるさいだけかと思ってたのに」


 なかなかにひどいことを言われているけど変に反論して揉めるのも嫌だし聞き流しておこう。

 結局なんとか片付け終わったのは3時限目が始まる直前だった。


・・・


 あの後、半沢は厳重注意を受けたらしい。

 それでこの件は一件落着……と思われたのだが。


 2日後の休憩時間。


「まだ解決していない?」

「ああ」


 阿久津が口を開く。

 みんな息をひそめて次の言葉を待つ。


「持ち物検査でお金は発見されなかったそうだ」

「誰かが既に隠したからでは?」


 至極真っ当なツッコミを江川がする。

 実際問題、札束二つならどこにだって隠せるだろう。


「それにしては判断が早すぎる」


 だが阿久津は首を振って否定する。

 あの様子だと想定していた質問だったぽいな。


「判断? お金を取ったら隠すのが普通じゃないのか?」


 翔が興味なさげにツッコむ。

 たしかに手元にあったら現行犯だけど、隠しておけば言い逃れできそうだ。


「隠すってどこに隠す?」

「そりゃあ誰も見ないような場所に隠すだろ」

「例えば?」

「ごみ箱の中とか」


 その言葉を聞いて頷く阿久津。

 どうやらこれも想定内だったらしい。


「なるほど良い案だ、でもな、大金を持った人間は疑うんだ『ごみ捨てのときに見つけられてしまうんじゃないか?』と」

「ごみ捨てはタイミングがだいたい決まってるだろ」

「それでもだ、もしかしたらを考えてしまうのが人間だ」


 たしかにこんな所見ないだろうという場所でも隠す側になったら気にしてしまう。

 推理物のトリックが複雑になっていく理由だ。


「計画的な犯行だったんじゃ? それなら隠し場所も決めてるだろ?」

「その可能性は高い」


 江川のツッコミに阿久津も同意する。

 わざわざ話を誘導する辺り相変わらず遠回しなやつだ。

 33分探偵とか好きそう。


「ただそれだとわざわざ朝始まる直前に盗む理由が分からない」

「みんないる時間帯にしたからじゃないの?」


 平川さんがツッコミを入れだした。

 意外とこういうのが好きなんだろうか?


「校長室には鍵がかかっているんだ」

「ほう……」


 翔の目が細くなったので少し興味が出てきたようだ。

 意外と密室ものとか好きなんだよな、脳筋なのに。


「鍵が空いていて中に誰もいないタイミングももちろんある、だがいつそうなるかは分からない」


 そこで阿久津は一度言葉を切る。


「計画を立てて犯行に及ぶのにそんな偶然に頼るのか?」

「ちょっとおかしいわね……」


 俺も平川さんと同意見だ。

 これじゃ結局鍵を持っている人が疑われるだけなのでわざわざ人の多い時間帯にしなくてもいい。


「鍵を入手出来なかっただけだろ」

「可能性はある」

「中に誰もいないタイミングがわかってたんじゃ?」

「その可能性もある」

「なんだよ、可能性ありすぎじゃないか」


 江川がツッコんでるけどもっともだ。

 たしかに可能性がありすぎる。


「さてここに面白い魔法がある」


 阿久津が世界書を取り出して何かを唱えた。

 初めて阿久津が魔法を使った所を見たかもしれない。


「[サイ・コメット]という魔法なんだが、端的に言うと犯人の残留思念が読める」

「詳しく」

「興味があるなら自分で調べてくれ」


 なんだよ、その面白そうな魔法。

 絶対後で調べてやる。


「その残留思念には明確な決意が残っていた」

「決意?」

「お金を取るという決意だ」

「そりゃあ盗みに来てるんだから当然だろ」

「取るだけなら簡単なんだ、なにせ金庫の鍵は開けられる前提なんだからな」


 そうか、扉の鍵ぐらいは簡単に壊せる。

 バレるのを覚悟するなら校長室の鍵なんて持っていなくても構わないんだ。


「他の人間に容疑をかけたかったからでは?」

「たまたま入ってきた人が偶然金庫の鍵を開けるのか?」


 たしかに何か辻褄が合わない。

 何か重要なことが抜けているように感じる。


「金庫の鍵は誰が持っていたんだ?」

「ダイヤルロック式なので鍵はないな」


 なんだ、鍵式じゃないのか。

 それなら開け方を知ってる人が一番怪しいよな。

 ミステリーならともかく現実は一番怪しい人が順当に犯人であることが多いし。


「ただ開け方を知っている人には全員アリバイがあるそうだ」


 言われてみれば開け方を知っているのは先生たちだろうし普通は授業の準備をしているか。

 ってそれならなんでわざわざそんな時間に犯行に出たんだ?


「面白いだろう?」


 阿久津が悪い顔をしながら笑っている。


「阿久津君って地味に趣味悪い?」

「悪乗りするタイプなのかも?」

「そういう所も良い」


 あんな状態なのに地味にモテてるのがむかつく。

 どうやれば俺たちと同ランクまで落ちてくるのか、それが問題だ。


「ということなのでしばらくは厳重体勢が続くだろう、没収されそうなものは持ってこない方がいいな」

「面倒くせー」

「まあ仕方ない」


 落ちがついた所でみんな解散となった。

 結局のところ言いたかったのはそれらしいけど一言で済むのになんでそんなに引っ張ったのか。

 これだから長話好きは困る。


「能見は放課後居残りな」

「聞こえてた!?」

「ん? 何か言ってたのか?」


 よかった、どうやら口に出していた訳ではなさそうだ。

 でもそれなら何の用だろうか。


 放課後の屋上。


「誰もいないな」

「やめて…私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!!」

「やはり暴力……!! 暴力は全てを解決する……!!」

「金田一の犯人!?」

「まあそれはともかく能見に聞きたいことがあってな」


 わざわざこんな所まで来たのは聞かれたくない話があったらしい。

 まさかの恋バナとか?


「解錠魔法というのはあるのか?」

「解錠……鍵開け?」

「ああ」

「アバカム的な?」

「そうだな」


 なるほど、あんまり大っぴらに聞くことじゃないよな。

 変に興味を持たれてしまったらクラスメイトから犯罪者が出かねない。


「まずアバカムみたいな万能鍵開け魔法は現実的ではないかな」

「そうか」


 少し安心した様子の阿久津。

 調べても消費MPが高すぎて作れないと出るはずだけどやっぱり疑っていたのか。

 まあ普通、自分の調べ方が正しいのかって思うもんな。


「ただ個人的な見解だけど、特定の鍵に限定すれば存在するんじゃないかと思う」

「そうなのか?」

「鍵開け魔法の登録がまったくないのが気になるんだよな」


 消費MPの少ない鍵開け魔法は見つかっていないけどそれが逆に疑問だ。

 透視魔法ですらいくつも登録されているのになぜか鍵開け魔法は一つも登録されていない。

 《《まるで誰かが隠しているかのように》》。


「なんとなくだけど最近危険だったり悪用できそうだったりする魔法が減っている気がするんだ」

「……それはまずい傾向だな」

「だろ?」


 魔法なんて手にしたら誰もが悪用を考えるはず。

 なのに真っ当な使い方しか登録されていないってあり得ないだろう。

 間違いなく偽装されている。


「何かが変わって来てるのかもしれないな」

「そう思う」


 阿久津の言葉に同意する。

 何かは分からないけど、変わってきている気はする。

 ……そしてこれが転換期だったと分かるのはもうしばらく後のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ