75.持ち物検査
一限目が終了した後の休憩時間。
時間が短いせいか基本的にみんな教室から出ることはないのに桐谷が飛び出していった。
「あの慌てようはまさか女子からの呼び出しだったりするのか?」
「あの桐谷にそんなことがあると思うか」
「でも以前女子に『けっこう良いと思ってたのに』とかいったよな」
「さて委員会の招集準備をしておくか」
友達だと言うのに容赦ないな。
査問委員会が開かれたらせめて俺ぐらいは弁護役に回ってやろう。
そんなことを思っていたら桐谷が急いで戻ってきた。
「校長室にある金庫が破られたらしいぞ」
どうやら女性関係ではなかったようだ。
桐谷は意外と情報通で、他の人が知らない情報を仕入れてくる。
ただあんまり役に立つ情報がないのが欠点だけど。
「今回は役に立つ情報だろうが!?」
「校長室の金庫とかどうでもいい」
「金庫破りってどうせ大した物入ってないだろ」
鳥海と翔がどうでもよさそうに答えてるけど俺も同感だ。
校長室にある金庫なんかせいぜいかつらが入ってる程度だろう。
必死に隠してるけど周りはみんな知っているんだよな。
「どうやら現金200万入っていたらしい」
「まじかよ」
みんなが一気に活気づく。
さすがにそんな大金が入っていたとは想像できなかった。
「裏金か」
「いや、かつら代では?」
「パパ活のお金かもしれないな、校長って平均すると女性一人以上買春してるらしいし」
「それは伝説の校長のせいで平均がおかしくなってるだけだろ」
あの校長、相手した女性の数一万人以上とか意味わからないよな。
しかも相手の女性は好印象だったというのもすごい。
やったことはともかく、女性から信頼を得られる男性という点では見習いたい部分はある。
「どうも旅行費とかの一時保管場所にしていたらしい」
「旅行費なんていまどき振込じゃないのかよ」
「集金時に現金で集めてるから現金で支払ってるらしい」
なるほど、たしかに現金で集めてるし一時保管場所は必要か。
しかし思ったより事情に詳しいな。
お金の話なんてあんまり表沙汰にならないものだけど。
「いつ分かったんだ?」
「聞いて驚け、一時間前だ」
「え、まじ?」
「まじまじ、だから急いで情報を仕入れにいったんだよ」
翔が聞くと、桐谷が得意げに答えた。
本当についさっきのことじゃないか。
「今一階の教室から順番に持ち物検査されてるらし「お前ら席につけー」
その言葉とほぼ同時に教室に入ってきたの体育教師の半沢だ。
無駄に鍛えた筋肉と似合わないメガネが特徴的で、頑固で独善的な性格から嫌ってる人も多い。
手には教室においてあるのと同じ大きなかごを持っている。
「えー、まだ休憩時間ですけど?」
「休憩はキャンセルだ」
半沢は理由を説明することなくいきなり休憩キャンセルとかいい始めた。
こういう所が嫌われる理由だと分かっていないのだろうか。
そして押しに弱い栗林先生ではなく半沢が来るあたり、やはり持ち物検査をするのだろう。
「今日は授業内容を変更して、持ち物検査を行う」
「えー、聞いてない」
「教えたら検査にならんだろ」
「つーか見せたくないんですけどー?」
「学校には不審物を持ち込んでいないか確認する権利がある」
まあたしかにそれはそうなんだけど高圧的すぎる。
不満の声が上がってるのにガン無視で棚やロッカーを開け始めた。
どうやら現金を隠していないか探しているようで、手当たり次第引き出して中を確認していく。
「おいおい、後片付けは誰がするんだよ」
「それ以前に壊されてないか心配」
荒っぽく取り出される荷物を見て心配そうな声をあげる鳥海。
多分いろいろ持ってきてるんだろうな。
「おいなんだこれは?」
「万能ツールですけど……」
一人の男子が答える。
どうやら彼のロッカーだったらしい。
「これで何が出来るんだ?」
「ペンチ・ドライバー・はさみ・ナイフ・栓抜き等々いろいろ使えますね」
それを聞いた半沢がスマホを取り出して何か操作している。
「よし没収」
「え、どうしてですか!?」
「学校に不要なものだ」
「ちょっとしたときに役立つのに!?」
抗議をしてもまったく聞く耳を持たず、どんどん没収してかごに放り込んでいく。
それは男子だけでなく女子の所有物に対しても同じだ。
「これはなんだ?」
「まつげカーラー」
「不要だな、没収」
「はぁ?」
「なんだこれ口紅か? 不要だから没収」
「はぁ、何様だよ!?」
「学校に必要か?」
「必要に決まってんでしょ!!」
「おれはいらないと思う、だから没収だ」
こちらの意見にまったく聞く耳を持たず半沢の判断で決めていく。
いやいや、これはさすがにひどい。
これって現金盗難事件の捜査の一環で持ち物検査やってるんだよな?
明らかに関係ないものが没収されるのは違うんじゃ?
「うん? ロッカーにスマホ?」
「僕のですけど何か?」
「お前、ポケットの中のもの出せ」
「……はい」
彼のポケットから財布・鍵・ティッシュ・ハンカチ、そしてスマホが出てきた。
「おい、どうしてスマホが二台あるんだ?」
「用途によって使い分けてるからです」
「なら緊急連絡用以外のスマホは没収な」
「はぁ!? 意味分かんないんですが!?」
「緊急連絡用にスマホ所持を許可してやってるんだから二台もいらないだろうが」
「そんな話聞いたことない!!」
「お前が知らんのを人のせいにするな、次」
没収したものでもう既にかごの中は半分以上埋まっていて、下の方にあるものは潰れていないか心配になるレベルだ。
俺もけっこういろいろ持っているので没収されたくないぞ。
「半沢先生、至急職員室まで来てください」
「ん? お前ら少し待っとけ、戻ったら持ち物検査の続きやるからな」
足早に教室を出ていく。
完全に姿が見えなくなると、大森さんとその友達が怒りをあらわにした。
「あの態度何よ!!」
「ふざけてるね」
「つか学校に不要なもんってなによ、授業中に使ったわけでもないのに!!」
大森さんの友達はかなりブチ切れているけど気持ちは分かる。
持ってきたものほぼ全て没収されているのはやりすぎだと思う。
「このままだと没収されたもの帰ってこなさそうだよね」
大森さんの言葉を聞いて没収された人たちが口々に喋りだした。
「あたしメイク道具の予備取られた」
「おれなんか借りてた漫画を返すために持ってきただけなのに没収だぞ、どうすんだよ」
「リップ持ってくとか変態かっつーの」
没収された人の恨みの言葉を聞いて、これから持ち物検査を受ける人も不安を募らせる。
「さすがに痛み止めの薬は大丈夫よね?」
「さっき没収されてたわよ」
「嘘でしょ……」
和泉さんが顔を真っ青にしている。
痛み止めが必要って何かあるのかな?
「そういう余計な詮索はしないほうがいいぞ」
「また口に出てた!?」
「そんなことより真琴は余計なものいっぱい持ってるが大丈夫か?」
「やばい」
翔からツッコミがあったけど、俺の場合はまじでやばい。
漫画やゲーム機やおもちゃがいっぱい入っているので間違いなく没収される。
でも休憩時間に使ってるだけなんだから何の問題があるんだと思う。
「名雪んの小説は没収されないよね?」
「アウトね」
橘さんの口から何か不穏当な言葉が聞こえたぞ。
それだけは没収してもらったほうが健全になりそうだ。
「スマホを没収されるとまずいですねぇ」
「いつ返ってくるのかわからないのもまずいな」
名雪さんと阿久津も困っているようだ。
さすがにスマホ二台持ってるから片方没収って意味わからないもんな。
「さっき桐谷がいってたけどさー、これって持ち物検査は建前で実質は現金盗難事件の犯人探しなんだろ?」
「らしいな」
「なら真剣に持ち物検査する意味ねーじゃん」
そうだそうだとみんなが叫びだす。
その中には普段ならこういう騒ぎに加わらない人も混じっていた。
それぐらいみんな腹を立てているらしい。
よし、みんなにやる気があるなら方法はあるぞ。
「俺にいい案がある」
そう言うと一気に注目が集まった。
内容を詳しく説明するとにわかに盛り上がり始める。
「やろうぜ」
「やりましょう」
「生徒を舐めてる教師は一度フルボッコだし」
「道理が通らないのはちょっとな」
普段はあまり団結しないうちのクラスだけど、今だけは全員が団結した。




