72.妹のかわいがり方
最近ネットで話題になっている魔法がある。
曰く、相手を恋に落とす魔法だ。
実際に使ってみて効果があったという書き込みは多い。
「恋の魔法、か」
誰しもが一度は考えることだろう。
魔法で好意を持ってもらうことは出来ないか。
俺もいろいろ試してみたけど、どうしても[対抗呪文]に阻まれてしまう。
「名前が気取ってるよな、なんだよ[フォーリンラブ]って」
直球で名前がついていて説明文が適当な魔法にろくなものはない。
大体は試しに使ってもらうためにそういう名前にしてるからだ。
「説明文見ても目が合うしかなくて原理は書かれてないし」
魔法の説明文には『目が合ったら恋に落ちる』としかない。
そんな簡単な条件で恋に落ちるなら苦労しない。
「そもそも目が合うということが限定的なんだよ、お兄ちゃん」
「そうですね」
「うん、陽菜はともかく灯里ちゃんはノックぐらいしようか」
二人ともいつの間にか部屋に入ってきて話に混ざってきた。
陽菜はいつものことだけど、灯里ちゃんにそういう行儀の悪いことを覚えてもらっては困る。
「そうだよ、灯里、ノックしないと自家発電してる所に乱入することになるかも」
「下ネタはやめなさい」
「自家発電って?」
「下ネタって言ってるのにあえて聞くの!?」
「知識は大事ですから」
キリッとした顔で答える灯里ちゃん。
こういう所が個性的だよな。
「オナニーだよ」
「あっさり言いおった!?」
「ああ、たしかにそういう場面に乱入するのは嫌ですね」
しみじみと答える灯里ちゃん。
多分家でそういうことになったのを想像してるんだろう。
「まあそういう時のお兄ちゃんの場合、ノックしても気づかないけどね」
「ノックして返事がなければNGだろ!?」
「鍵が空いていればOKだよ?」
「このドアのどこに鍵があるのか言ってみろ」
鍵が存在しないドアを見て鍵が空いているとはこれいかに。
あれか、鍵がないからいつでも空いている理論か?
「お兄ちゃんの心の扉の鍵が空いていたんだよ?」
「うん、たしかに心の扉に鍵はあるけど、それは鍵が空いてるんじゃなくて陽菜が鍵を使って開けてるんだからな?」
「陽菜さんが鍵持ってるんだ」
感心した様子で話す灯里ちゃん。
まあ陽菜だけじゃなくて家族全員なんだけどな。
家族を拒絶するような心の扉は存在しない。
「私もお兄ちゃんに鍵渡してるからね」
「そうなんだ」
「貞操帯の」
「もらった覚えがないんだが!?」
「あははー」
「そもそもそんなものをつけなきゃいけなくなった時点でブチ切れだぞ」
そんなことになったら持てる全ての力を使って問題を排除しにいく。
犯罪だろうと魔法だろうといくらでも使ってやる。
「お兄ちゃんは妹が好きすぎるね」
「大好きだから仕方ない」
「私を愛していると言ってみろ」
「愛してるよ」
「えへへー」
「自分で言って自分で照れるやつがいるか」
ほんとに言われたら恥ずかしくなって照れ隠しに抱きついてくるのがかわいい。
頭を撫でると嬉しそうにしている。
「兄から見て妹ってそんなにかわいいものですか?」
「かわいいに決まってる」
灯里ちゃんが不思議そうに聞いてきたけど、翔もかなりかわいがってるはずなんだけどな。
「兄貴はあたしの言う事なんにも聞いてくれないのに」
「うーん、多分何か目指す所が違うことだったんじゃないかな」
灯里ちゃんが普段から言ってる『筋トレやめてほしい』とかの願いだと聞かないと思う。
そういうのは目的を持ってやってるはずだから単純にやめてと言っても効果がない。
「一度、何かをおねだりしてみるといいよー」
「おねだりって、もう子どもじゃないですし」
「子どもみたいなお願いを聞いてくれるのがかわいがってる証拠じゃないかな」
「なるほど」
軽く頷いたので納得したようだ。
灯里ちゃんは興味がないとリアクションしないので分かりやすくて良い。
「でもどのタイミングでおねだりするんですか?」
「それこそ恋の魔法の出番だよ」
「どこからひとりごとを聞いていたのか問い詰めたいが、それはそれとしてなぜに恋の魔法?」
おねだりとまったく関係がないように思うけど何かあるんだろうか?
「目をあわせてお願いすればおねだり聞いてもらえるんだよ」
「まあそれはたしかに」
「恋にも落ちるんだよ」
「いやそれはおかしい」
欲しいものを買ってあげるぐらいならともかく目が合った程度で恋に落ちるなら苦労しない。
でも陽菜は胸をそらして楽しそうに答える。
「目を合わせて逸らされないって時点で実質成功なんだよ」
「え、そんなに簡単なものじゃないだろ?」
「なら試しにやってみる?」
それぐらいなら構わないので試しに陽菜と目を合わせる。
いつも通りの綺麗な黒目にまつ毛がすこしかかっている。
じっと見てると目に吸い込まれそうだ。
ちょっとドキドキしてきた。
「しょうがないにゃあ……いいよ」
「何がだよ!?」
よく分からないリアクションでとりあえず終了。
たしかに少しはドキドキするかな?
「あたしもやりたいです」
「む」
「いいけど」
灯里ちゃんもやりたいらしいので俺が付き合う。
さすがに陽菜じゃ参考にならないだろうしな。
「じゃあいくよ」
面と向き合うのは久しぶりだけど大分幼さが抜けてきたなぁ。
綺麗系で細目なのでちょっと怖い感じだけど実際は優しくて楽しい子だ。
勘違いされて男性に避けられないか心配だな。
「何か感じます?」
「全然」
うーん、見つめ合ってもまったく何も感じないな。
灯里ちゃんも同じっぽい。
一時期翔がらみでけっこうな頻度でアイコンタクトしていたから大体目で伝えられるんだよな。
「むー、長い」
「何も感じないから仕方ないだろ!?」
「長くなっても効果ないんですかね?」
陽菜がちょっと怒ってるのに相変わらずマイペースだな。
よく翔は『そういう所がかわいいんだろ』と言ってるけど、さすがにマイペースすぎる気がするぞ。
「もしかして距離ですかね?」
すっと距離を縮めてきた。
身長が小さいので俺を見上げる形になるのがかわいい。
一生懸命に目を合わせてくるのを見ると少しはドキドキしないことも……。
「灯里はもうおしまい!!」
無理やり間に割ってこられた。
もうちょっとで何か変わりそうだったのに残念だ。
「あたしだけじゃなく真琴さんも何も感じませんでしたよね?」
「ま、まあきっと他人だからだよ、妹からされたらきっと効果あるよ」
「ならさっき陽菜さんにされてた時は効果ありました?」
「ありすぎたね、恋に落ちそうだった」
「わかりました、なら試してみます」
なんとか試してくれる気になったらしい。
あのシスコンなら間違いなくおねだり聞くだろうし、これで灯里ちゃんの不安も解消されるだろう。
「で、結局何の話してたんだっけ?」
「さあ?」
興味なさげに答える灯里ちゃん。
俺も陽菜も灯里ちゃんも話が横道に逸れても気にしないタイプなのでよく本題を忘れる。
まあとりあえず一つ解決したからいいか。
「あれ、そういえば」
陽菜が静かなのでどうしたかと思ったら、さっきまで軽く怒っていたのに今は満面の笑みでほっぺたに両手を当てている。
本人曰く、あれはほっぺたの熱を取っているらしくよほどご機嫌な時にしかしない仕草だ。
「どうした?」
「なーんでもない」
「……楽しそうですね」
まあ陽菜の機嫌がころころ変わるのはいつものことだしいいか。
その後も暗くなるまで三人で雑談をして翔の家まで送り届けた。
次の日の朝。
「灯里が珍しく本が欲しいって言ってきたんだぜ!!」
「へぇ」
登校したらさっそく翔に絡まれた。
どうやら灯里ちゃんは帰ってすぐ翔におねだりしたらしい。
嬉しそうな顔で俺に状況を伝えてくる。
「ダッシュで本屋行って買ってきたらすごく喜んでたぞ」
「そこまで急ぐのは求めてないのでは?」
「何を言う、灯里の頼みなら最優先に決まってるだろ」
何を当たり前なことを?という態度で俺を見る翔。
予想通りの溺愛っぷりだな。
それから後もひたすら灯里ちゃんのかわいさについて解説された。
うーん、クリティカルヒットすぎたかもしれない。
なおあまりの妹溺愛っぷりを披露したことから和泉さんにシスコンビと命名されてしまった。
もう一人増えたらどうなるか、私気になります!!
ちなみに後で灯里ちゃんに確認したらやっぱりドン引きしていた。
せいぜい翔のお金でネット注文してくれればいいかと言う程度の気持ちだったのに、全力ダッシュで買ってきたから驚いたそうだ。
ただ一応可愛がられているということは理解したようで少し嬉しそうだった。




