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世界書で恋の魔法は作れない  作者: rpmカンパニー


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71.私怨

 休み明けの月曜日。

 昼休みになってご飯を食べようと思った所で桐谷と鳥海にいきなり両腕を掴まれた。


「連行だ」

「はぁ?」


 桐谷が訳の分からないことをほざきながら俺を教室端に連れていく。

 そして俺を囲むように男子達が集まってきた。


「これより裁判を始める、被告人、前へ」

「何の裁判だよ!?」


 いきなり裁判とか言われても透子と付き合ってるのは以前ばれてるし、いまさら何か言われることはないはず。

 それに彼女が出来た件だとしたら査問委員会を通り越して裁判はおかしい。


「この者は彼女がいながら平川と一緒に帰った不届き者である」


 まさかの平川さんネタだった。

 たしかに先週一緒に帰ってるけど透子や翔がいたんだから二人きりじゃないのに。


「でも透子も一緒だったよ」

「透子?」

「透子ですって」

「もう呼び捨てか」


 透子がいたから二人きりじゃないと言ったら別方向に反応されてしまった……。

 男子のボルテージが上がってるのが見て分かる。


「親密度上がりすぎでは?」

「へたれだから許したのに」

「変態は手が早い」

「童貞も捨てたのかもしれない」


 男子たちが顔を見合わせてアイコンタクトしたあと、俺の方に振り向いた。


「判決、死刑」

「過程をすっ飛ばすな!?」


 裁判内容と違うことで、しかもなぜいきなり判決なんだよ!?

 そもそもエロいことなんて何もしてないと言うのに。


「まあ待て、藤田の件は次回としよう」

「たしかに」

「今日の裁判は平川さんと一緒に帰ったことだったよな」

「あんな美人と一緒に帰るなんて羨ましい」


 強い怨念が渦巻いていて、もし嫉妬で人を殺せたら確実に殺せそうな雰囲気だ。

 ただ一緒に帰ったのは偶然だし複数人だったんだけど……。


「発言求むだろ」

「いいだろう、弁護人、前へ」


 翔が前に出てきた。

 そうだ、翔も一緒にいたんだから証言してくれればいい。


「あれはダブルデートだ」

「違うよ!?」

「ち、違うでしょ!!」


 堂々と捏造発言しやがった、翔はただついてきただけだろ!?

 翔が意味不明なことを言ったからか遠くから平川さんもツッコんできた。

 流石に自分の事となると反応せざるを得なかったみたいだ。


「なんだ久美いたのか」

「教室だから居るに決まってるでしょ!!」 


 平川さんが怒っているけど当たり前だ。

 狭い教室で騒いでいるので嫌でも聞こえる。


「春日井も呼び捨てだぞ」

「つまり付き合ってる?」

「付き合ってないわよ!?」


 顔を赤くして否定してるのが微笑ましい。

 こういう素直な所はすごく好感が持てる。


「意外と行動が早かったですねぇ」

「危機感があったのかもな」


 何の危機感だろう?

 相変わらず名雪さんと阿久津は二人しか分からない会話をしている。

 異性の幼馴染っていいなぁ。


「真琴にちょっと頼み事があって家に来てもらっただけよ!!」

「あ!?」

「「「家!?」」」


 不用意なその一言で男子が過熱した。

 そりゃあ思春期の男子に対して女子の家に行ったと聞かせたらこうなる。

 だからそこは触れないようにしてたんだけど……。


「これは処刑方法を変えないとな」

「まずは爪を一枚ずつ剥いでから決めないか?」

「賛成」


 やばい、過激な話がどんどん出てくるぞ。

 少しでも話を逸らさないとやばい。


「おい、裁判はどうした!?」

「裁判ナド不要ラ」


 私怨が強すぎて私刑に走る気らしい。

 何のための裁判だよ。


「平川さんの部屋きっといい匂いするんだろうな」

「空気を持って帰りたい」

「俺なら肺いっぱいに貯めて帰るな」

「おっぱい大きいのが残念」


 ここは変態の巣窟か?

 鳥海すら残念とか言ってるけど神道はどうした。

 ただ家といっても応接室にしか入ってないので、他人の家の匂いだったなという感じだったぞ。

 そんな時のことだった。


「うるさいんだけど」


 その一言で波を打ったように教室が静まる。

 声の主は大森さんだ。

 明らかに不愉快そうな顔で俺たちを見ている。

 茶髪セミロングでキツネ顔の美人だけど性格はかなりきつい。


「平川さんの家に行ったとかどうでもよくない?」


 誰も返事をしない。

 変に言い返せば怒涛のごとく罵声が飛んできかねないからだ。

 まあただ一人を除いて、だけど。

 男子の視線が阿久津に集中すると、やれやれと言った様子で大森さんに話しかけた。


「男子なら気になるものだよ」


 さらりと答えたけどあいつでも一応女子の家は気になるらしい。


「阿久津くんが言うならそうなんだろうけど……」 


 大森さんの声のトーンが露骨に落ちた。

 その理由は阿久津が擁護したからに他ならない。


 大森さんが阿久津を意識しているのは男子ならたいてい知っている。

 どれだけ鈍感な人間でもあれだけ態度が違えばさすがに分かるってものだ。


「もう少し静かにするように僕から言っておくから」

「……ならいいけど」


 その言葉を聞いて男子たちが胸をなでおろす。

 阿久津の言葉には素直にしたがってくれるので今回の件はなんとか許してもらえたようだ。


 ただ気になるのは、大森さんは基本的に阿久津絡みのことに口を出さない。 

 だからこそ普段なにか言われたことはないんだけど、今日は我慢出来ないぐらいうるさかったのだろうか?


「ということでお前ら、もう少し静かにな」

「はい……」

「ごめんなさい……」

「調子乗った……」


 阿久津に言われていつもの三人が大森さんに謝っている。

 ただお前も謝れと目で促されてるけど俺は被害者なんだけど……?


「迷惑をかけたら謝る、対人関係の基本だぞ?」


 俺の心情を察したようで理由を説明してくる。

 いまいち納得いかないけど仕方ない。


「うるさくしてごめんなさい」

「あんたは藤田の時といい騒ぎすぎ」


 まだ怒りが収まった訳ではないようで目を吊り上げている。

 どうやら以前からうるさかったらしい。

 今まではなんとか許してくれていたけど今日で限界だったのか。


「まあそんなあんたには藤田がお似合いか」


 大森さんと透子は仲が悪い。

 と言っても大森さんが一方的に嫌っているだけなんだけど。

 だからお似合いと言って褒めてくれるとは思わなかった。


「その通りだな、真琴には透子ちゃんがお似合いだろ」


 感謝を述べようとしたら、翔が俺の肩に手を置きつつ話に割って入ってきた。

 なんだ、いきなり触ってくるとか気色悪いぞ。


「藤田から話を聞いたことがなかったがどうなんだ?」


 阿久津も俺の肩に手を置きつつ透子に話を振る。

 なんだこいつら、揃いも揃って体触ってきて……。

 透子は顔を少し上げたあと少し笑顔になってまた本に戻った。

 あの反応は嬉しい時の反応だな。


「興味なしか」

「どう見ても嬉しそうだっただろ!?」

「すまんがまったくわからん」


 阿久津が肩をすくませている。

 女性の扱いが上手い癖に透子の考えは読めないのかよ。


「同類同士通じるものがあるんでしょ」


 大森さんがそう言うと翔と阿久津の手に力が入った。

 俺の肩を手すり代わりにしないでほしいんだけどな。


「さあ真琴、用事は済んだし自分の席に戻ろうか」

「あ、うん」

「すまなかったな、大森」

「阿久津くんが悪いわけじゃ……」

「今度、お昼奢るよ、何でも好きなの頼んでくれ」

「いいの!?」

「あ、でも主菜を二品以上はなしな」

「そんなに食べるように見えるー?」


 大森さんが楽しそうに話してる。

 せっかく好きな人と話せているのに邪魔しちゃ悪いしさっさと戻ろう。


「よく頑張ったな」

「え、なにが?」

「……いや、いい、オレの勘違いだった」


 俺の返事を聞いて疲れたように去っていった。

 なんだったんだ?

 魔法に興味持ったり積極的に女子に絡みにいったりと最近の翔はよく分からない。

 思春期だけにいろいろあるのかな?

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