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世界書で恋の魔法は作れない  作者: rpmカンパニー


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70.幹人の家

 いつものようにワンパックに来て対戦が終了したときのこと。


「真琴さん、僕たちそろそろ帰るんですけど」

「おう、またな」


 尊と幹人が挨拶に来た。

 普段より帰る時間が早いので何か用事でもあるんだろうなと思いつつ、デッキ整理をし始める。


「それで、前に幹人の家に行ってみたいって話してたじゃないですか、今日行ってみませんか?」

「え?」


 挨拶で終わりかと思ったら、まさかのお誘いだった。

 そうか、前に大きい家って聞いて興味あるって言ったからか。

 たしかに大きい家は興味あるけど、最近平川さんの家を見てしまったからそこまで驚けないかもしれない。


「今日なら人も少ないから……」


 人も少ない? あ、たしかに今日はデュエルスペースが満席になってないか。

 人が少ない時なら対戦相手も少ないってことだし良い機会と言われれば理解できる。

 まあせっかく誘ってくれてるんだし行ってみるか。


「構わないって言うなら行ってみるか」

「やったね、幹人」


 ただ尊が誘ってきていて、幹人がやけにオドオドしているのが気になるな。

 もっと『俺の家すげーんだぜ』とか言いそうな気がしてたんだけど。


「……大丈夫かな?」

「真琴さんなら大丈夫だよ」


 俺が了承すると二人は何かを相談し始めた。

 相談するようなことがあるんだろうか?


「じゃあさっそく行きましょう」

「おう」


 まあ行ってみれば分かるか。

 手早くデッキを片付けて店を出ると、外は一瞬で汗をかきそうな暑さだ。

 もう少し涼しくなる時間まで待ったほうがよかったかな?


「暑すぎる」

「そうだね」

「場所はどの辺りなんだ?」


 住所を聞くとけっこう遠い。

 尊の家より更に先なのでけっこう時間かかりそうだ。


・・・


「そろそろですよー」


 暑すぎて無心でペダルを漕いでいたけど、尊の声でようやく目的地付近だと理解した。

 辺りを見回すと、けっこう綺麗で広い家が並んでいる。

 外から眺めるとテラスがあったり庭園があったりする家が多いので裕福な人が多く住んでいるエリアっぽい。 


「真琴さん、見えてきましたよ」

「お、どれだろ?」

「正面にある家ですー」

「は?」


 二階建ての住宅が立ち並ぶ中に平屋建ての家。

 平川さんの家と同じように塀で囲まれているけど遠目で見てもかなり広い。

 ただ平川さんの家のように高い塀って訳ではないので威圧感は少ない。


「到着です」


 平川さんの家ほどではないものの、玄関の門構えは立派だ。

 扉を両開きすると外車が余裕で通れるぐらいの幅がある。

 そして玄関の隣には受付室みたいな部屋があり初老の男性が座っていた。


「帰ったぞ」

「有坂さんこんにちは」

「こんにちは、お二人ともお早いお帰りで……そちらの方は?」


 優しそうな笑顔で二人に挨拶を返していた男性がこちらの方を見て怪訝な顔をする。

 幹人の友達と言うには年の差あるもんな。


「……前話してたにーちゃんだよ」

「一度来てみたいって行ってたので連れてきたんです」

「そうですかそうですか」


 言葉遣いこそ優しいけど、こちらから目を離していないので警戒されているのは間違いない。

 目つきが鋭い訳でもないのになんかプレッシャーがある。


「……どう?」


 幹人が様子を伺うような顔でこちらに問いかけてきた。

 これだけの豪邸なら自慢げに問いかけるのかと思ったけど控えめだな。


「思ったより大きかった」


 あれ? てっきり喜ぶかと思ったのになぜか余計に暗くなったぞ。 


「家でサッカーできそうだな」

「……そうかも」


 緊張してるみたいだったから軽いジョークのつもりだったけど大外ししてしまった。

 でもなんで自分の家なのにこんなに緊張してるんだ?

 実はしつけがめっちゃ厳しいとかなんだろうか?


「わたくしは有坂と申します、お名前を伺ってもよいでしょうか?」


 あ、しまった、まだ名前名乗ってなかった。

 こっちが訪ねてきたのに名乗らないとか失礼だったな。


「自己紹介が遅れました、能見真琴と言います」

「能見様ですね、【訪問記録登録】」

「なんですか、それ!!」


 つい聞いたことがない魔法だったので思わず質問してしまう。


「暗記する魔法ですよ、この年になると覚えるのが大変でしてな」

「暗記するって使うだけで記憶に焼き付くんですか?」

「いえいえ、[訪問記録照会]という魔法で該当日時と名前を入れれば顔を思い出せるだけですよ」

「え、つまりいくつでも覚えられるんですか?」

「そうですね」


 すごい、つまり外部記憶装置みたいな使い方が出来るのか。

 今まで見たことある暗記魔法だと魔法一つで一種類覚えられるタイプしか見たことがない。

 てっきり複数記憶するのは無理なんだと思っていたけど作り方が悪かったんだ。


「魔法、お好きなんですか?」

「はい!!」


 そう答えると有坂さんの口元がすこしゆるんだ。

 もしかして有坂さんも魔法好きなんだろうか?


「その魔法は有坂さんがご自分で作られたんですか?」

「いえ、これは作っていただきました」

「お姉ちゃんが作ったんだよ」


 尊が嬉しそうに割り込んできた。

 お姉ちゃんというとあのデッキ構築が上手な人か。


「有坂さんが悩んでいるって聞くと、数日で作ってたんだよ」

「尊様のお姉様はお優しい方ですから」

「すごいな」

「そうだぞ、ねーちゃんはすごいんだからな」


 幹人が途端に元気になったけど本当に尊のお姉ちゃんが好きなんだな。

 それにしても数日か。

 人の悩みを解決する魔法を作るのはかなり難しい。

 それなのに数日であっさり作るなんてよっぽど発想力と応用力に長けているに違いない。

 デッキだけじゃなく魔法構築も上手いとかすごいな。

 しかも美人でおっぱいが大きいって最強すぎる。


「真琴さんはお姉ちゃんと相性良さそうですね」

「俄然興味が湧いてきた」

「あ、ねーちゃんはやらないぞ」


 お、少し元気出てきたかな。

 尊のお姉ちゃんを取られると思ってるみたいだけどまあ心配しなくても大丈夫。


「俺は彼女いるし」


 以前と違って今は透子という彼女がいる。

 あんなに美人でかわいい彼女がいるのに浮気なんてする気にならない。

 というか、そもそもそんな美人に好かれるとも思えないし。


「幹人、そろそろ暑くなってきたし中に入らない?」

「あ、うん……」


 大きな門の脇にある通用口みたいな所から中に入ると広い庭が現れた。

 おお、庭に池がある家とか本当に存在するんだ。

 周りをキョロキョロしながら見ているけど、家の玄関はまだ少し先のようだ。


「ご案内いたします」


 どうやら有坂さんがついてきてくれるようだ。

 たしかにちょっと距離あるもんな。


「幹人の家はお金持ちなんだな」


 俺の言葉に幹人がびくっと反応した。

 もしかしてお金持ちって思われるのが嫌なのかな?

 それは家の問題であって幹人の問題じゃないと思うんだけど。

 俺が幹人を見ていたのに気づいたのか有坂さんが歩くスピードを落とす。 


「何かありましたか?」

「いえ、庭がすごいなって思って」

「旦那様ご自慢の庭でございます」


 おう、リアルで旦那様とか聞いたの初めてだ。

 わざわざ受付を雇ってるぐらいだしお金持ちだよな。


 家の玄関についたので中に入ると意外に洋風な内装だった。

 てっきり掛け軸とか花瓶とかあると思ってたのに。


「こちらでしばらくお待ち下さい」


 平川さんの家と同じく応接室っぽい所に通された。

 お金持ちの家にはどこもこういう部屋があるんだな。

 俺は別に幹人の部屋で構わないんだけど、まあいろいろあるんだろう。

 有坂さんが去って改めて見ると幹人が静かだ。


「どうした、やけにテンション低いけど何かあるのか?」

「……にーちゃんはどう?」

「広いとテンション上がるな、大会とか開けそうじゃないか?」


 その言葉を聞くとなぜか幹人が黙ってしまった。


「大広場があるので大会でも合宿でも出来そうですよ」


 それを見かねてか尊が返事をする。


「お、合宿とかいいよね、デッキ構築と対戦して飽きたら雑談とか」

「楽しそうですね」

「まあ合宿の場所を貸してもらうのは大変か」


 そういうことをするならいろいろ面倒事がある。

 人の出入りやゴミとかの問題があるし、それこそご飯やお風呂をどうするかってこともある。


「どのくらいの費用でやってもらえるかな?」

「費用?」


 幹人が眉をひそめて聞き返してくる。


「いや、もし合宿するならどのくらいの費用があればやってもらえるかなって思って」

「え……?」

「……真琴さんは費用払うのが普通だと思うの?」


 幹人が驚き、尊は少し声のトーンを落として聞いてきた。

 あっ、もしかしてお願いすることが失礼?


「ごめん、部屋を貸してもらおうとか虫のいい話だった」


 考えてみれば広い家を持ってるからって他人に貸す理由はない。

 それを『お金でなんとか出来ませんか?』って言うのは失礼だ。


「……だよ」

「……かも」


 二人が何か小さい声で話しているのを見て、ああ失敗したなと思う。

 何度もこういう光景を見てきたから分かる、きっと許せるかどうか話し合ってるんだろうな……。

 昔からある程度仲良くなって調子に乗り余計なことを言ったせいで友達をなくすことが多い。

 自重していたつもりだけどまたやってしまった……。


「真琴さん、また機会があればパックを一緒に開けませんか?」

「ん? まあお金がある時ならね」


 何か言われるかと思ったらまったく別の話を振ってきた。

 それ自体は良いんだけど今はお金がないから厳しい。


「今度は僕たちがパック代出しますから」

「おいおい、それぐらいのお金は貯められるよ」


 今月は無理でも来月ならパック一個ぐらい余裕で買える。

 まあ陽菜がどんな感じかにもよるけど。


「でも幹人のおこずかいは多分真琴さんより多いですよ」

「まじで?」


 金額を聞くと俺の三倍以上あった。

 これが格差社会……。


「だから気にせず一緒に開けましょうよ」

「負けてるからといって子どもにお金出してもらうほどせこくないぞ」


 相手の方がもらっているお金が多いからって奢ってもらうのは違う。

 俺のほうが年上なんだから収入に関係なく奢る側なのが一般的って吉本芸人が言ってた。


「ほらやっぱり」

「ほんとだ……」

「なにがやっぱりなんだ?」


 二人が嬉しそうに顔を見合わせているけどよく分からない。

 すると尊がこちらの方を向いた。


「真琴さんは幹人がお金持ちって知っても何も変わらないって話です」

「いや、幹人がお金持ちならまだしも親の話だろ?」


 たしかに家の広さとかお小遣いの多さとかは羨ましいけどそれだけだ。

 人の家には人の家の事情があるし良い点も悪い点もあるだろう。

 俺の家だって家族が仲良いとか妹がかわいいとか良い点あるし。


「それが違うんですよ、手のひらを返したようにみんな態度が変わって……」


 ああ、なるほど。

 俺も昔陽菜をいじめてた奴らが手の平を返してすり寄ってた時は殴ってやろうかと思った。

 それにしても幹人の話なのに尊が沈んだ顔をしているのを見ると本当に感受性高いと思う。

 良い友達なんだな。


「でも真琴さんはきっと違うって思ったから今日来てもらったんです」

「つまり試験だったと言うことか」

「そうです」


 なるほど、幹人の顔が浮かない表情だったのはそれが原因か。

 一方的に試験したって言うのはかなり負い目を感じるだろうし、何か落としどころがあるといいんだけど。

 あ、なんか尊がアイコンタクトしてきてる。

 ふんふん、面白そうだし付き合おう。


「あーあ、楽しみにしてたのに試験だったなんてな、これはお詫びが必要だなー」

「な!?」

「そうですねー」


 まさかそんなことを言いだすと思ってなかったようで幹人は驚いてる。

 ふふふ、落としどころがないなら作ればいいんだよ。


「カナダドライジンジャーエールとうまい棒コンポタ味で許してやろう」

「え?」

「あ、いいですね、僕もおんなじの欲しいです」

「尊まで!?」


 まあこれぐらいなら小学生に奢ってもらうギリ許容範囲だと思う。

 スーパーなら100円未満で買えるし。


「さあお詫びの品を用意できるかな?」

「!! 用意できるし」


 そう言って幹人が部屋を出ていった。

 多分買い出しに行ったんだろう。


「さてじゃあ待ってる間に」

「にーちゃん、はいこれ」

「早すぎるだろ!?」


 待ってる間に世界書でさっきの魔法を調べようとしたらあっという間に帰ってきた。

 しかもちゃんとジンジャーエールとうまい棒持ってる。


「買い置きがあるんですよ」


 尊はもう既に封を開けて食べ始めている。

 尊は知らない人だと遠慮がちだけど仲良くなると意外と遠慮しないタイプだな。

 これは可愛がられるに違いない。


「にーちゃん、買い置きだとお詫びにならないとかいわねーよな?」


 ニヤニヤしながら問いかけてきた。

 子どもらしい反応で口元が緩んでしまう。


「先読みできて偉いな」

「子どもじゃねーし!?」 


 頭を撫でると全力で拒否られてしまった。

 おかしい、陽菜ならこれでOKなのに。


「真琴さんも食べてくださいよ」

「よく見たらいつのまに食べ終わってるんだ」

「疾きこと風の如くって言いますよね」


 まさかの食いしん坊キャラか?

 あーあ、口元ベタベタになってるし。

 とりあえず手近にあったティッシュで口元を吹いてあげる。


「にーちゃんは本当に変わらないんだな」

「変わる理由がないしな」

「そっか」


 嬉しそうにはにかんでいるのは子どもらしいと思う。


「よし、じゃあ俺の部屋行ってあそぼーぜ!!」

「お、いいぞ」


 その後は幹人の部屋で対戦したりデッキ構築したりして夜まで遊んで帰った。

 幹人の部屋が俺の部屋の三倍以上あってちょっとうらやましかったのは内緒だ。

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