表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】異世界男の娘【連載版】  作者: 物部K
後日談、番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/132

掴み取るその実の味は:中編

Side とある従者


その後の調べを、旦那様や奥様に報告を受ける。

ジーニア伯爵家。

あのお茶会で、俺を欲しがったおばさんの家らしい。

どうやら、違法な毒の取り扱いの疑いがあるようだ。

俺は周囲には気をつけろと注意を受けて、退室する。

退室する前に、ジュディにはこのことは内密にと言われた。

彼女は不満に思うだろうなと思った。

だが、口にはせず、了承した。




今日は奥様の『監視』付きで音楽の授業を行う。

その中で奥様が、協奏祭に出てみないかと言う。

協奏祭は必ず二人以上で出場する音楽の大会らしい。

だが、俺は苦い顔をして事実を伝える。

その手の審査員は『獣人』というだけで評価を下げるということを。


奥様は舞台で観客を取り込め、ということを俺に伝える。

ジュディは、俺の現在の評価に不満のようだ。

そして、応援してくれる。

俺は心が満たされ、温かくなる気分を味わう。

いつだってそうだ。ジュディは俺の尊厳を守ってくれる。

俺はそれに応えるために、出場することにした。

実際に決めたのはジュディだったが…




大会まで三か月。正直、準備期間が短い。

俺はジュディと相談して、新しく楽譜を歌詞を急いで書き下ろす。

急がなければ、練習時間が確保できないのだ。

俺は必死に今できることをした。

ジュディの無理難題にも応えたつもりだ。


出来上がった曲を練習する。

合間には衣装の用意を奥様がしてくれるというので、丈を測った。

自分の瞳の色の紫をジュディの衣装に使ってくれるようだ、少し照れる。

ジュディの髪の赤色を代わりに入れるとまで言われ、

もはや婚約ではと浮かれそうになる。

楽曲は三曲あるんだ。服は置いて、今は集中して練習しなきゃ。

でも、服の完成が楽しみだなー。




協奏祭本番を迎えた。

衣装はお互い自分の色を使い、互いの色が差し色として使われている。

控室には人が多い。この数も徐々に減るのだろう。

お嬢様は緊張しているようだ。

緊張を解そうと声をかけようとしたが、蔑みの声が先に俺に向けられる。

『獣臭い』『犬』『放し飼い』等と言われるが、相手は小物だ。

俺はまったく気にしなかったのだが、お嬢様がムキになってしまう。

ああ、もう。

お嬢様を落ちつかせようと思っていたのに、余計なことをする二人だ。

場所を移動して、ハーブティーでも淹れよう。

家名を振りかざす子供は、貴族として教育が足りていない、

とピュレットさんから聞いている。

実物を見たら、たしかにと言わざるを得なかった。

小物から離れて、お嬢様の機嫌を戻そうとと努力する。

お嬢様は感情が音に乗りやすい。

だが、お嬢様の様子がおかしい。俺を見てぽーっとしているのだ。

熱でもあるのかとおでこで計ろうとするも避けられる。

なんだ?どうしたんだ?

よくわからないまま、そのままジュディと鍵盤の下に向かうことになった。


ジュディが弾く鍵盤の音色を聞いても、怒りの感情は見受けられない。

だが、別の感情が乗っているように思う。

まあ、いいか。

怒りの感情でなければいいのだ。

そう思い、俺は自身の弦楽器の調子を見る。

『こいつ』、今日は随分と高ぶっているな?

俺と同じ気持ちか…

気をつけないと弦を切るな。

と言う会話をジュディとする。

物を人のように扱うのはおかしいだろうか?

ジュディも自分の鍵盤に触れている。

ちょっと落ち込んでいるようにも見えるが、気分は落ちついたようだ。


お嬢様には観客を楽しませることを意識してもらうことにした。

俺の作戦がうまくいけば、俺の『獣人』という悪い部分を払拭できるからだ。

さあ、舞台に向かおう。

相手の演奏が終わる。

上手いとは思う。だが、今の俺たちには及ばないとハッキリ言える。

『お嬢様』、いきますよ?

『私たち』の初舞台です。




初舞台は大成功と言っていいだろう。

ジュディはしっかりと俺についてきた。

観客の心も掴めて、会場の雰囲気が俺たちにのまれている。

審査員の札も満場一致だった。作戦も大成功のようだ。


二曲目も観客の視線を一身に受けるほど、俺たちは目立ち、勝ち上がった。

俺の作戦に気付いた審査員が、

苦々しい顔で札を上げたが、満場一致で俺たちの勝ちだ。

このまま三曲目を披露するか迷う程だ。

一曲目をもう一度演奏する方が、会場ウケはいいかと思った。

だが、事態は思わぬ方向へと動く。




控室にはもう人がいない。

あれだけいたのに、一対一の状況になったのだ。

随分広い空間が寂しく思える。

そんな中、俺のファンになったという女の子たちが訪ねてくる。

握手をせがまれ、俺がちょっと浮かれていたのが悪かったのだろうか。

ジュディに睨まれながらも、女の子たちに対応していた。

その内の一人が差し入れですと言って、お茶を差し出してくる。

一瞬、悪い予感がよぎったが、まさかなと流してしまった。


俺がお茶を口に含んだ瞬間、女の子の口角が上がった。

俺は吐き出そうとしたが、すでにお茶はある程度飲み込んでいた。

喉が、焼ける…!

そして、体内にも焼ける痛みがあり、俺は血を吐く。

即座に女の子のニオイを覚えようとするも、この子たち全員が香水をつけている。

複数のニオイが混ざってわからない。

くそっ、しっかり対策済みってわけか…

俺が血を吐いて、視線を集めている間に、あの女は控室からそそくさと出ていく。

追いかけたいが、今の俺では無理だ。

ジュディも人数が合わないことに気付き、女の子たちに事情聴取をしている。

犯人に逃げられ、俺の喉も潰された。

最後の舞台で負けてしまうのか…




女の子たちは別室で監視されることになった。

俺のことを心配しているのが一目でわかる。

彼女たちはたぶん『白』だ。

幸い、舞台の開始までまだ時間はある。

この時間で、舞台に立つことはできると思う。

だが、歌うことはできそうにない。

喉を抑え、焼けた喉をどうにか落ちつけようと呼吸を繰り返す。

こうなったらジュディに歌ってもらうしかないと思い、口を開く。

うまく言葉にならないが伝わったようだ。

ジュディは無理というが、君しかいないんだと手を握り訴える。

そして、救いの手は差し伸べられる。




この状況で控室の部屋をノックする者が現れる。

なんと『黄金商会』のメイドが薬を持ってきたというのだ。

さらに、犯人捕縛にも協力するとも言ってくれる。

ジュディは疑っているが、俺は一縷の望みに賭けたかった。

話している二人に薬をと、訴える。


ジュディはあの商会を信じるのなら、飲みなさいという。

今はこれしかないんだと、俺は信じて薬を飲む。

すごい!喉の不快な感覚から、体内の焼ける感覚まで一気に治ったのか?

全身快調だ。なんて高価な薬なんだ…

これを気に入ったからというだけで、軽々しく提供してくれる『黄金商会』。

声は、出るな。普段通りにしゃべることも出来る。

これならと思うも、俺はまだ足りないと思った。

そこで、ジュディに相談して、三曲目の楽譜を修正することにした。


時間はそこまでない。急げ、これは二人の舞台。

『二人』で犯人にやり返すんだ。俺たちなりのやり方で!

ジュディは落ちつくために鍵盤の下に向かった。俺には師匠がついている。

今は集中して楽譜を書き起こすんだ。


ほぼ本番直前と言っていい時間に楽譜は書き上げた。

ジュディに確認してもらう。

彼女も覚悟が決まったようだ。楽譜を見て頷いてくれる。

俺は『相棒』を掴み上げ、音の最終確認をする。

彼女と二人で舞台に向かう。様々な感情を抱いたまま。




舞台袖で対戦相手の演奏を聴く。

『黄金商会』が動いているのか?

どこか焦りを感じさせる演奏をする対戦相手。

演奏が終わり、俺たちの出番だ。

舞台袖で対戦相手とすれ違う時、ジュディを動揺させるためか。

「ざまあみろ」と小声で呟いているのを、獣人である俺の耳が拾う。

だが、ジュディは深呼吸一つで気持ちを落ちつかせたようだ。

私たちなりの『復讐』をしてやりましょう、お嬢様!




舞台に上がる。緊張はない。凪いだ気持ちだ。

俺はゆっくりと歌いだす。

そして、ジュディが鍵盤をかき鳴らす。

随分と激しいな?

感情を抑制するように、誘導するように俺も演奏を開始する。

息が合ってきた。いよいよだ。

ここからが俺がこのときのために修正した部分だ。

『二人』で歌うのだ。

俺を支えてくれるように、寄り添うジュディの歌声。

観客が手拍子を叩き出す。

そんなもんじゃないだろ、お前ら?

もっとだ、もっと乗ってこい!

俺は足で舞台を叩き、観客を乗せる。

苦々しい顔をしていた審査員も巻き込んでいる。

演奏が終わりに近づく。

弦に違和感を感じる。これは弦が切れるなと思った。

だが、もう少しだけもってくれと念じ、最後の一掻きを鳴らす。

弦が切れる。

ぴぃぃぃぃんという余韻を会場に残す。

先ほどまで一緒になって騒いでいたのが、一瞬にして驚くほど静かになる。

そして、観客が全員立ち上がり、俺たちに向かって拍手をする。

審査員も興奮しているのか、審査をする様子もなく、俺たちに札を上げる。




俺たちは優勝した。

2話目です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ