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【本編完結】異世界男の娘【連載版】  作者: 物部K
後日談、番外編

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掴み取るその実の味は:後編

Side とある従者


あの日から十年が経つ。

俺もジュディも立派に成人した。

ジュディは驚くことに王太子の妃の近衛隊に入隊した。

以前から近衛隊の隊員とは交流があったそうだ。

主に祝いの催しごとで、空に光の花を咲かす役割を担っているようだ。

それ以外でも仕事はしているようだが、守秘義務らしく俺には教えてもらえない。


俺は王太子の妃からの依頼で声優の仕事をたまに受けている。


お妃様からは、

「あなた、いい声しているわね。ちょっと録音してみない?」

と軽く誘われた。

それからが大変だった。

声に聞き覚えがあったのだろう、俺にファンが群がってきたのだ。

外を出歩くと、握手をせがまれ、サインを書いて、

とたくさんの女の子が要求してくる。

これにキレたのが、ジュディだ。

旦那様と奥様、先輩のピュレットさんにまで直談判して、

俺を極力外に出さないようにしたのだ。

よっぽど俺がほかの女に関わるのが嫌らしい。

俺とジュディの仲は屋敷公認だ。

だが、旦那様は苦々しい顔を今でもしている。それを取りなすのが奥様だ。

いつもお世話になっています。

今度、黄金商会で珍しいお茶菓子をもらってきますね。


ここで『黄金商会』の話になるのだが…

ジュディと二人での演奏を『録音』しているのだ。

これはあの日から毎年の行事となっている。


事の始まりは『黄金商会』からの依頼だった。

「あなたたちの演奏を録音させて」

と、頼まれたのだ。


あの上映会のこともあり、最初は警戒した俺たち。

だが、依頼された現場に向かうとまともな施設での録音だった。

機器も不思議なものが多く、あれこれと身につけたりもした。

そして、収録の合間にお茶菓子をもらえるので、

屋敷にも持ち帰れないかと相談した。

屋敷内で消費するのであればと譲ってもらえることになった。

これで奥様の機嫌は確保できるな、と一人ほくそ笑んだのは内緒だ。




ここで問題なのだが、俺とジュディの仲だが、まだ婚約には至っていない。

旦那様が許可してくれないのだ。奥様は割と乗り気だ。

割と、というのはまだ俺が、何も成果を出していないからだ。

なので、俺は旦那様と奥様に宣言した。

今年で百年目を迎える協奏祭。

それに俺たちは九年参加して、九年連続優勝を果たしている。


そこで、それを利用することにした。

「今年の協奏祭で優勝したら、十年連続になります。

それでお嬢様との婚約をお許しください」

と、直談判した。


奥様はニッコリと笑い、それならばと許可してくれた。

旦那様はやれるものならやってみろと言う。

これは旦那様からの刺客が来るかもしれないな、とその時俺は思った。


この話をファンにすると、我が事のように喜んでくれた。

ファンの数も増え、俺との仲を狙うものもいた。

だが、俺は公然とジュディのことを愛していると宣言した。

それでいくらかファンは減ったが、

俺のことを最初から知っているファンは、俺を応援してくれた。

彼女たちも、俺とジュディの仲を応援してくれていたのだ。

それも九年もだ。

じれったい、じれったいと会うたびに、

彼女たちに言われ、俺は毎度たじたじものだった。

それがいよいよ、念願が叶うのだ。

だから、サプライズのプレゼントも用意しましょうという。

彼女たちは、もう俺たちが優勝すると疑っていない。

気が早いなと思う俺だが、サプライズのプレゼントは用意したい。

何かいい案はないかなと話していると、

ファンの一人が『指輪』はどうかと言ってくる。

たしかに、貴族ではアクセサリを婚約者に贈る習慣がある。

彼女はその指輪に俺の色である『紫』を使えという。

誰の女なのかを主張するように、と。

それはいい!と俺も同意した。

さっそく店に行き、指輪のための宝石を探す。


あれから何店舗も宝石店を巡ったが、

俺の瞳に該当する色の宝石は見つからなかった。

すでにジュディの指のサイズは把握している。

だから、あとは宝石だけなのだ。

ここはあの店に頼ることにしよう。

向かった先は『黄金商会』。

ここなら期待した商品が見つかるだろう、とメイドさんに相談する。


俺の相談を受けて、少し考えるそぶりをして、

『少々お時間がかかりますが、お待ちください』

と、言ってくれた。


やった手がかりが手に入りそうだ!と喜んだ俺。

少しした後にメイドさんが来て、

「失礼します」

と言って魔道具?らしきものを向けて来た。

パシャリと軽い音が鳴り、何か薄い紙が出てくる。

それを持ってまたどこかへいくメイドさん。


しばらく待つと、メイドさんが俺の瞳の色そっくりな石を持ってくる。

俺はこれだ!と思ったのだが、

心のどこかでただの石で喜んでくれるかなと不安にも思った。


メイドさんが石を置き、商品の説明をしてくれる。

『こちらはただの石ではございません。

力のある石と呼ばれる『パワーストーン』でございます。

本領発揮、信頼感、精神や感情の安定を願われ、その力を宿しています』

説明を受け、これこそが欲しかったものだと思えた。


俺は石に願われた意味をもう一度聞き、しっかりと覚える。

これで指輪を作ってもらえればなと思う俺。


そんな考えを見透かすように、メイドさんが口を開く。

『指輪のサイズが分かっていれば、こちらで指輪も承ります。

ただし、これは相談を受けて、あなただからこそ受けた依頼ですので、

ほかの方が同じように依頼しても、

当商会では依頼は受けませんことをご了承ください』

と、言う。


つまり、自慢などで吹聴しても、

『黄金商会』は今回のような依頼は受けないとのことだ。

それはそれでありがたい。特別感が出る。

だが、商会に迷惑をかけてもいけないので、自慢は程々にしておこう。

それと、自慢する際には、ちゃんとこのことも話さないとな。




商会に指輪の依頼が終わって、気分がいい俺。

このまま曲を作れば、いいものが書けそうだと馬車で急いで屋敷に戻ってもらう。

それから、曲を書き、歌詞を書きと繰り返し…

今年の三曲が出来上がる。

ジュディは協奏祭前になると、まとまったお休みをとる。

仕事のこともあり、参加は今年で最後にするとのこと。

十年目でキリもいいしと、機嫌がいい。

出来上がった曲を見せ、お互いに確認する。

修正する箇所もあったが、それもいつものことだ。

『二人』で作ることに意味があるのだ。これは毎年の恒例行事である。

そして、練習しながら違和感を感じるところも修正する。

もう十年も続けているのだ。

すでに練習でも一体感を出せるようになっている。

旦那様がどんな刺客を刺し向けてきても、俺たちは負けない。




まずい。負けるかも。

なんでピュレット先輩がいるんだよおおおお!

なんでも卒なくこなす先輩。

まだ俺がジュディの楽器の教本を作っているときに協力してもらったのだが…

あの人はまずい。

あの時点で、俺よりも遥か高みにいるというのが思い知らされたものだ。

ジュディは俺の不安を感じ取ったのか、大丈夫?と聞いてくる。

俺はなんとか、大丈夫ですと返すが内心どうしようと焦っていた。

落ちつけ、俺。先輩と当たるとしても最後。

それまでに、自分の最高の状態に持っていけばいいのだ。

ジュディが不安そうに俺を見ている。


一曲目と二曲目は無難に乗り越えた。

最後の舞台まで時間がある。

落ちつけ、とひたすらに自分に言い聞かせる。

そんなとき、先輩が近づいてくる。


ピュレット先輩は落ち着いた声で、

「私は旦那様より差し向けられた、あなたへの刺客です。

婚約を阻止しろとの命令を受けています。

ですが、正々堂々と戦うつもりです。あなたの成長を私に見せてくださいね?」

と、笑顔で言って、その場を離れる。


俺は勘違いしていたのかもしれない。

ピュレット先輩は刺客なんかじゃない。

自身の成長を見せるべき、最後の壁だ。

必ず乗り越えてみせる!


俺の雰囲気が変わったのを悟ったジュディが、

「やっといい顔になった。これで負けはないわね!

相手は私の乳母とあなたの先輩よ!

成長を見せて、絶対に泣かしてやるんだから!」

と、強気に、自信満々に言う。


ああ、これでこそジュディだ。

俺は十年一緒に戦ってきた『相棒』を一撫でしてから鳴らす。

相棒も今日は調子がいいらしい。

ここ最近はガタが来ていたが、これが最後だとわかっているのだろう。

ああ、最後の舞台だ。

精一杯、観客を楽しませてやる。

『お前』の力を貸してくれ!

そして、俺たちは舞台に向かう。




先輩たちの演奏が終わる。無駄のない、一切隙のない演奏だった。

だが、それが逆に仇となる。

俺たちは自身を高める演奏をするんじゃない。

観客を楽しませる演奏をするんだ。

さあ、お嬢様。いいえ、ジュディ、いきますよ!

『私たち』の、最後の舞台です!


演奏する曲目は、一年目の三曲目をアレンジしたものだ。

十年目にふさわしいわね、とジュディも気に入ってくれたものだ。

あの当時は俺が歌い、ジュディが支えていた曲だった。

だが、今回はジュディが主役だ。俺は寄り添い、支える役目を担う。

ジュディが歌い始める。

清らかな清流のような声。

それを彩るかのように、俺が静かに演奏を始める。

徐々にジュディに歌声に力が入る。

大地の揺るがなさを、森の豊かさを表現するように歌うジュディ。

俺の演奏も激しくなる。

そして、俺も歌い始める。

大地に住まう人々のごとく、森にすむ動物たちのように。

場を彩っていく歌声。

観客は俺たちの演奏に魅了されたかのように、ぽーっとしている。

もう演奏も終盤。

『相棒』が限界だと訴えてくる。

もう少しだけ、もう少しだけ頼む!最後までもってくれ!

最後まで弾ききった。

そのとき、ピシと音が鳴り、調律部分が折れて弦が外れる。

ありがとう、『相棒』。

今まで一緒に戦ってくれて。俺は相棒を抱えて、一筋の涙を流した。




満場一致で俺たちの優勝が決まった。




涙を拭って、会場を見渡す。

たくさんの観客が惜しみない拍手を俺たちに送ってくれる。

ジュディが俺のそばまでくる。


そして、舞台の上でジュディが一礼する。

「今年で私たちは協奏祭に出るのを辞めます。今までありがとうございました」

と、宣言する。


突然の宣言に観客はどよめく。中にはやめないで!と声を上げる人もいた。

だが、ジュディはこう続ける。

「記念すべき百回目の協奏祭。

そして、私たちがデビューしてから十年です。

そろそろ『この子たち』を休ませてあげなければなりません」

そう言って、俺の弦楽器に触れるジュディ。視線は鍵盤にも向けられている。


そうなのだ。

俺たちの激しい演奏に十年も付き合ってきた楽器たちも限界が来ていたのだ。

もう休ませてあげよう。

ジュディはさらに続ける。

「ですが、魂は引き継がれます。彼に『あれ』を」

ん?『あれ』ってなんだ?


舞台袖からやってきたジュディの乳母さん。

その手には新しい弦楽器が。まさか…

「彼にはこれからも音楽を続けてもらいます。

この十年間の曲、すべては彼が書き起こしたものです。

きっと、これからもみなさんの耳に入ると思います。

今後の彼の活躍をご期待ください」

俺は乳母さんから真新しい弦楽器を受け取る。

なんだか赤みが強いな?ジュディ自身の色を意識したのかな?


俺はせっかくなんだとこの機会に言うことにした。

「ありがとう、『ジュディ』。()からもプレゼントがあるんだ。

この日のためにと用意したものがな」

俺は言葉も崩して、ジュディに向き直る。

部下に持ってきてもらう重厚な布が張った箱。


それを跪いてから開ける。

「ジュディ、俺と結婚してくれ。

まずは婚約からになるが、そのための指輪だ」

俺のその動きに、予想もしていなかったジュディが涙ぐむ。


綺麗な赤髪を揺らして、輝く笑顔で、

「はい、よろしくお願いします。旦那様!」

と言ってくれた。




この一連の流れを黙って見ていた観客だったが、

ついに我慢の限界が来たようだ。

歓喜と悲鳴とが混ざった歓声が聞こえる。

俺はジュディの指に指輪をはめる。

そのままジュディは俺の胸元に抱きついてくる。

俺はジュディを抱きしめた。




今年も広場での演奏をした。

ジュディは歌いながら、祝い事の時にしか使わない光の花の魔法を打ち上げる。

たぶん、後日怒られるだろうなと思うが、

今は幸せな気分に浸っていていいだろう。

旦那様はまだ婚約の許可を出していないのに、

婚約したかのような空気を出しおってとブツブツ呟いていたが…

奥様が冷えた笑顔で「あ、な、た?」と言えば、旦那様は震えて黙ってしまった。

俺は苦笑いしながらも、きちんと婚約の許可を二人から頂いた。

後日にはなるが、婚約式も待っている。楽しみだな。


そして、帰りの馬車の中、二人で花を飛ばす。

ジュディが呟く。

「初恋は実らないっていうけど、私は掴み取ったわ。

大きく実ってしまったけど…」

その言葉に、俺はとある部位を見ないようにして、

「なら、その実の味を確認しないとね?」

と言い、唇を重ねた。


二人の距離が空く。

「どうですか、()()()?実った初恋の味は?」

そう言うと、真っ赤になってしまったジュディ。




その色は、まるで俺の弦楽器のカバーについていた、

飾りひもを彩る宝石のような色だった。

3話目となります!

しばらく、新作のネタを練ろうと思います!


でも、うまくいかなくて結局、後日談と番外編を書くかもです。

よろしくお願いします!!

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