掴み取る初恋:終編
Side とある貴族の娘
私は優勝が決まった瞬間、まだ夢現な状態だった。
鍵盤がまだ弾いてくれと言っている気がしたのだ。
だが、これ以上の演奏はここでは迷惑になる。
それに、レイトを傷つけた犯人もまだ捕まっていないのだ。
だから、鍵盤を一撫でして、
「今日はおしまい」
と、いうように鍵盤の蓋を閉じた。
私はまだ冷静でいられた。
レイトを害した犯人を捕まえるまでは、本当の意味で落ちつけない。
レイトはやりきった顔をしていた。
そして、『彼』を一撫でして、
「お疲れ様」
と、呟いたのが確認できた。
その姿を会場中の女の子が見つめているのがわかる。
ぽーっとしている視線が、舞台上からいくつも伺えるのだ。
私はサービスはおしまい、
と言うかのようにレイトの手を引いて舞台袖に消える。
レイトはそんな私に不思議そうにしていた。
レイトは私のなんだから!誰にも渡さないんだから!
と、叫べればどんなによかっただろうか。と、思う私は狭量だろうか。
控室に戻ると父と母と護衛に囲まれた女の子とジーニア伯爵家の二人。
私はやっぱりと思う。
実行犯の女の子の方は、
先ほどファンだと言っていた子たちにも睨まれている。
それはそうだ、あんないい舞台を部屋に閉じ込められて見逃したんだ。
恨まれていても仕方がない。
実行犯の女の子は
「脅されたんです!あたしは本当にあなたのファンなんです!」
と、弁明を述べている。
だが、囲んでいる女の子たちは、
「本当にファンなら、脅されても断りなさい!」
「どの程度の脅しを受けたのですか?」
「あの方なら、許してもらえると思っているのではないの?」
「あなたはただの害悪です」
と、強く非難している。
それに対して、彼女は、
「あたしは家族を人質に取られて…」
と言って、視線を逸らしながら俯く。
私はすぐに嘘だなと思った。
この言葉に反応したのは、ジーニア伯爵家の二人だ。
「何が人質よ!ちょっと銀貨を数枚チラつかせただけで、
ホイホイ話に乗ってきたのはあなたじゃない!」
「そうだぞ!『毒』を飲ませた成功報酬には金貨を払うと言ったとき、
あんなに喜んでいたではないか!!」
お互いに非難しあう中で、事実が暴露されていく。
毒の薬瓶も確保しました!
使われていたのは、危険指定されているものでした!
と、レイトのお師匠様の護衛騎士が父に報告する。
「証拠もつかめた。実行犯も唆した犯人も捕まえた。
これでジーニア家は終わりだな…」
「このような幼子が危険指定されている毒を使うとはね。
どういう教育をしているのかしら」
「現在、邸宅を包囲しつつ、王城にも報告しています」
「私たち、どうなるの…?」
「僕たちは、母上に言われたものを使っただけなのに…」
「言われた『もの』と言いますが、
あなた方は先ほど自身で『毒』だと言っていました」
「そうだ。危険である『毒』だとわかっていての犯行だ。
ただではすまない。子供といえどな」
「あたしはどうなるの!?」
「君も同じく同罪だ。
若い身とはいえ、毒だと知っていての犯行なのだ。それも貴族の従者相手にな」
「従者なんて、いくらでも代わりはいるじゃない!
たかが『獣人一匹』に過敏になりすぎよ!!」
私はその言葉にカッとなった。気が付いたら平手打ちをお見舞いしていた。
「たかが『獣人』?『一匹』?従者に代わりはいくらでもいるですって?
レイトはこの世にたった『一人』の存在よ!
あなた程度のものさしで彼を侮辱しないで!!」
「お嬢様…」
「あなたは最初にファンだと言っていたけど…
お金に釣られて犯罪を犯した、ただの罪人よ!
その罪を命で支払ってきなさい!!」
「ひ、ひぃ」
「そっちの二人もよ!
『獣人』なんて括りに囚われているから、こんなことになるのよ。
彼はただの人族!私たちとなんら変わりのない、たった一つの生命よ!!」
私は言いたいことを言い終え、満足した。
彼の尊厳を守るのは、私の役目だ。
彼を傷つける存在から、私が彼を守るんだから!
そして、犯人たちは連行されていった。
後日のことになるが、ジーニア家はお取り潰しが決定した。
犯人捕縛には『黄金商会』が関わっていたらしいので、
これは陛下直々の判断であると思われる。
私は舞台に立っていたため、どう関わっていたのかは知らない。
今日はお祭りだ。
残りの時間を私たちは家族で祭りを楽しむことにした。
父もなんとか部下に事件の引き継ぎを終えたようだ。
控室を出る前、レイトは弦の張替えをしていた。
予備の弦を持っていたようだ。
レイトは『彼』を一撫でして、
「さあ、祭りに行きましょうか。お嬢様」
と、輝く笑顔で手を差し出してくれた。
ここで母が侍従に何か頼んでいるの見る。何だろう?
私たちは街の広場にやってきた。
大会の後だからか、人は少し多い程度。
もう時間帯が夕方に近いせいもあるんだろう。
少しだが、酒が配られている。
酔った客が陽気に歌っているこの空気、私は好きだな。
レイトが私の手を引き、噴水前に移動する。そして『彼』を取り出す。
「さあ、お嬢様。お祭りですので、民に一曲披露しましょうか?」
と、いきなり言い出すのだ。
私は慌てて、
「え?そんな、急には無理だわ!」
と返すも、
「いきますよ!一緒に!!」
と、声を張り上げるレイト。
一緒に、と言われたので、勇気を振り絞って、彼と一緒に歌う。
『~♪』
周囲は美声に驚き、静かになる。
だが、徐々に慣れてきたのか、恋人を誘って踊りだす人が周りに増える。
と、ここで母の侍従が母に何かを渡しているのを確認する。
子供用の弦楽器?
というよりも、私の弦楽器だ。なぜそれを今ここに?
母が私に近づき、楽器を渡す。
「どうせなら、彼と一緒に弾きなさい。周囲を夢中にさせて御覧なさい」
「お母様まで、こんな…」
「お嬢様、一緒に!」
困惑してる私に、嬉しそうに楽器を鳴らすレイトが近づく。
私は自棄になって、楽器を手に取る。
この『子』はどんな子かしら?
そう思いながら、彼と一緒に弾き始める。
音色が二重になり、音に厚みが出る。
レイトは歌詞にない歌を歌いだす。
まるで、この曲を止めたくないというかのように。
私も止めたくない。
いつまでも、いつまでも続けたい。
この瞬間を、この時間がいつまでもと願いながら。
気が付けば、父と母も踊っている。
この幸せな時間を私は忘れないだろう。
そんな幸せな時間も、私たちの体力の限界で終わりを迎える。
長いようで短かったようにも感じる。そんな時間。
レイトと二人で肩で息をしている。
ここは『舞台』。だから、二人で観客に向かって礼をする。
周囲では拍手や指笛を鳴らす大勢の人がいる。
そんな中心に私とレイトがいる。…幸せ、だな。
歓声の中、レイトにあの時のお礼を言う。
「レイト、私を守ってくれてありがとうね」
「お嬢様。こちらこそ、私の尊厳を守っていただき、ありがとうございます」
大きな音が鳴る、夜空に光の花が咲く。
誰だろう?こんな魔法を使うのは。
私たちを祝福しているかのようだ。
父と母が夜も遅い、帰ろうという。
私はレイトの手を握って、帰りましょうと素直に言えた。
光の花は私たちが屋敷についても、夜空に咲いていた。
この日を忘れない。
いつか自分であの光の花を咲かせよう。
この初恋を大きく実らせ、掴み取るために。
私は自分に、そう誓った。
あと二話くらい、この話が続くと思います。




