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27.ヒントを貰いました

「載らないね。」


「無理ですって、普通載りませんよ。」


 五代ダンススクールでアキエちゃんの指導を受けているところなのだが大丈夫なのだろうか。いきなり頭に本を載せることになったのである。


 良く漫画ではモデルウォーキングのレッスンのシーンで頭に本を載せて歩く姿があるが、あれは無理だ。そもそも止まっていても本が載らないのである。


「トモヒロ君の頭が小さすぎるのよ。それにサラサラな綺麗な髪。羨ましすぎるよ。」


「アキエちゃんの8頭身の身長に付いていないように見えて付いている筋肉こそ羨ましいわよ。アタシなんてチビでただ細いだけだもの。」


「チーくん。それは私に対する当てつけなの? どうせ頭がデカイわよ。」


「えー陽子さんは子供を2人も産んで、そのメリハリボディーでしょ。特にお腹の筋肉なんて割れているし。」


「これは鍛えすぎなのよ。でもお客様に食べに連れて行って貰ったあと、ポっこリお腹じゃしまらないでしょ。しかし優子も果報者ね。わざわざウォーキングレッスンを受けてまで、モデルを引き受けて貰えるなんて。」


 陽子さんがここに居るのは、直前のスタジオレッスンが彼女の個人レッスンだったからだ。毎週2時間の個人レッスンを受けているらしい。


「絶対内緒ですよ。これはオネエの嗜みとしてやっているだけなんですから。」


「解っているわよ。タツヤとクスクス笑いながら楽しむことにするわ。そうだわ本が載らないのなら、350ミリリットルのペットボトルを載せてはどうかしら。水を3分の1くらい入れればいいはずよ。」


 自分の子供相手に遊ぶ気らしい。本当に大丈夫かな。


 陽子さんは若い頃にショーモデルの経験があるそうでイロイロとアドバイスしてくれる。


「私、持ってくるわ。待っててね。」


「チーくん。女性になる気は無いのに随分と女を鍛えているのね。何故なの?」


 アキエちゃんが出て行くと陽子さんが近寄ってくる。


「アタシ。普通のなんの変哲もない男の子だったんですよね。それが突然、学校でも人気者のグループの友人にして貰ったんですけど、滑稽なほど釣り合わないないんですよ。でもこの姿だったら皆受け入れてくれるじゃないですか、だから頑張っているんです。彼らの隣にずっと居るために。」


「タツヤも?」


「そうですね。その一員です。」


「やっぱり負けているわ。悔しいけどタツヤに負けている。半ば脅迫して隣に居てもらっているんじゃ仕方が無いか。でも本当に好き。好きなのよ。」


 陽子さんが俺の手に手を重ねてくる。


「解ってます。でも旦那さんに似ているアタシがでしょ。」


「それが無かったとしても惚れているわよ。あの人にこんな男気は無かったもの。」


「そういうのは止めましょう。自分を貶めるだけですよ。」


「そうね。本当に女の子のような男の子ね。どちらの心も持っている。」


「えー。オネエの褒め言葉として受け取っておきますけど、酷いこと言ってますよ陽子さん。」


「話は終わりましたか陽子さん。メロドラマを始める気ならレッスンの邪魔です。出て行ってください。」


 いつの間にかアキエちゃんが戻って来ていた。心なしか怒っているようだ。


「ごめんなさい。隅で見学しているだけにします。」


 俺の手を離した陽子さんはそれだけ言うと逃げるように部屋の隅に行く。ここではアキエちゃんが先生なのだ。怒ったとしても悪くは無い。悪くはないが、そこまで注意しなきゃいけないことだろうか。


「トモヒロ君も少しはあの子のことを気にしてやってください。」


「はあ。」


 いつかは言われる気はしていたが生返事しかできない。できれば一切考えたくないのが本音だ。やっぱり、アキエちゃんにレッスンをお願いしたのは間違いだったか。いやあの時点では最善だったはずだ。


「あの子はすっごく一途ないい子なの。可憐で可愛くて一途だなんて、男の子にとって最高じゃない。なんで離れようとするの?」


「別に離れていないですよ。」


 それどころか近付こうとした。拒絶されたけど。


「あの子は昔から貴方が・・・まず・・・今のことは聞かなかったことにして、お願い。」


 アキエちゃんは突然話を切り上げようとする。


「アタシは構わないわよ。ここはレッスンの場ですもの、ウォーキングのレッスンの指導なら幾らでも承りますわ。」


 昔?


 同じ学校には居たが出会ったのはここ最近のはずだ。俺が忘れているだけなのか。まあいいや。考えたくもない。


「そう。じゃあビシバシいくからね。」











「おつかれさまでした。今日、注意したところは練習しておいてね。」


 本当にビシバシ指導があった。個人的感情が渦巻いているだろう中としては理性的に指導してくれたようだ。


「ありがとうございました。」


 深呼吸をしながら頭をあげる。


「何、何か言いたいことがあるの?」


「何もありません。」


 俺の心の中の逡巡を読み取ったかのようにアキエちゃんが指摘してくる。だが言ってはだめだ。彼女なら必ず上条さんの傍を離れないだろう。どんなことがあったとしても。


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