26.オネエだけど弱くないようです
「とりあえず『キャラメ・ルージュ』へ週末に出勤すること。同伴出勤制度も作って貰うから覚悟しててね。それとも下校時間に攫って欲しい? 私はそれでもいいけど。」
陽子さんは本気で攫うつもりのようだ。こんなプレイが好きなんじゃないだろうな。今度こそ何されるか解ったもんじゃない。
いや楽しいプレイには違いない。なにごとも経験・・・なのかなあ。
「いえ。出来る限り出るようにします。」
ここは素直に従っておくのが得策だ。
「いい子ね。私は沢山の店に顔が利くから、未成年が入れないような店でも連れて行ってあげる。女装すれば年齢なんて解らないからね。」
無茶な理論だ。厚化粧ならまだしも俺のような薄化粧だと瑞々しさが違うだろう。まあ俺の母親の年齢の女性に言う話題じゃないけど。
それに膝小僧や肘の色の変わり具合で年齢を図る術を知っているからか、女装ルームでも大抵の人間の年齢を当てられた。嫌がられたけど。
「何処かに連れ出すなら順子先生も同伴で、お願いします。」
ここは予防線を張っておこう。順子さんが一緒なら変なところへ連れ込まれることは少ないはず。
「ええいいわ。優子はお留守番ね。」
「ええっ。私だけ仲間外れ?」
「当たり前でしょ。そんなところへ未成年の子供を連れ出す親じゃなくてよ。知っているでしょ。」
「はぁい。」
意外にまともな親をやっているらしい。
☆
「私、怒っているのよ。」
笑顔でそんなことを言われても・・・。翌朝、電車に乗り込むと順子さんが待ち受けていた。
「アタシを抱き締めて頂戴。・・・良かった。別れなくてすんだね。」
順子さんの胸に顔を埋めながら呟く。彼女は軽く考えていたようだが、かなりリスクの高い恋だ。もっと慎重にいくべきなのだ。
「慰謝料を要求しようと思ったけど、そんな顔を見せられたら何も言えなくなったじゃない。」
そう言いながらも笑顔のままだ。順子さんも自覚したのだろうか。
「アタシったら他人目のあるところで、こんなことをしてちゃダメよね。」
俺は身体を離そうとするが順子さんが離してくれない。
「これが最後だから。」
駅前に到着するとまた1人欠けていた。
「タツヤは?」
恐る恐る俺の手を握ってくる優子さんに聞く。反対の手は順子さんが握っている。
「山品家が懇意にしている剣術家に入門してくるって。」
「重いわね。アタシにそんな資格があるのかしら。」
タツヤの人生を左右してしまうようなことを言ってしまった。
『人殺し』と言われたことを一番気に病んでいたのは他ならぬ本人だったのだ。だから他人をキズ付けてしまうような修行をするのを嫌がっていたのだ。
それを無理矢理、俺が捻じ曲げてしまったのである。
「チー君。後悔しているの?」
後悔はしていないと思う。あの場ではああするしか無かったし、何度遭遇しても俺は同じ選択をするに違いない。
「そうね。アタシさえ傍に居なければ、陽子さんのようにボディーガード付きの人生を選べたと思うとね。」
誰かに守って貰う一生でも問題は無かったはずなのだ。それを俺のエゴで無理矢理選択させてしまった。
「それじゃあ、格好悪いよ。チー君に簡単に転がされて、お兄様。目が覚めたのでしょうね。」
あれは亡き父親に連れられて通った合気道が身に付いていたからこそだ。ある意味、タツヤと同じだ。今思えば将来を見越して通わせてくれたのだろう。
「だけど、あのタツヤを教えられる人間が居るのかな。殺気を向けられて硬直してしまう師匠じゃ意味がないよね。」
「そこまで心配すること無いわよ。それともチー君が教えてみる? チー君が黄色い声をあげた途端、お兄様が硬直して投げられる図が見えるようだわ。」
「アタシは他人に教えられる技量は無いわ。でもそんなことで硬直するようじゃボディーガード失格よ。」
俺がタツヤに押さえ込まれている図を想像するのも嫌だが、確かに俺ならやりそうな手段でもある。
いや、その手段ならどれだけ鍛え上げても無駄では無いだろうか。
「優子さん。想像するのは楽しそうね。それよりも貴女は大丈夫なの? 見たところボディーガードは付いていないようだけど。」
「さっきまで居ましたよ。ここからはチー君に守って貰うので大丈夫です。」
「アタシ。そんなに強くないわよ。か弱いオネエになんてことを言うのよ。」
そこに思いがけない人から声を掛かられる。
「おはよー。トモヒロ君。・・・今度は三つ股なの。ああん。私の繋ぐ手が無いじゃない!」
うっそー!
何事も無かったかのように上条さんが笑顔で現われた。
この人の思考回路はそんなにも簡単にリセットできるのか?
順子さんや優子さんや陽子さんの思考回路も解らないが、この人の思考回路はもっと解らない。
「あっほら、先着順だから。」
順子さんと繋いだ手をあげてから、優子さんと繋いだ手をあげて見せる。
良かった。言い訳ができた。上条さんちは学校と同じ駅にあって途中から合流するのだ。
「そうなの?」
「そうよ。だから私が手を繋いであげる。」
順子さんが助け舟を出してくれる。
誘拐されたときにも感じたが、それ以上の恐怖を感じた。




