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2話 いざ迷宮都市へ


 迷宮都市へ出発当日。

 俺はソフィアやユキノなど超特進クラスの面々と共に中庭にいた。

 旅行予定書に集合場所と記載されていたからだ。


「旅行、楽しみだなあ、クロノ」 

 

 コーディーがワクワクしている様な口調で言ってきた。

 僅かに興奮というか、心が弾んでいるのが伝わって来る。それが分かるのは、俺も同じような気持ちだからか。

 

「ああ。こうして皆で外部の街に繰り出して遊んだり出来ると思うと、テンションが上がってくるよ。迷宮都市なんて場所も、何だか面白そうな物がいっぱいあるって話だしな」

「旅行の予定書に書いてあったな。遊べる場所やら食い物やまで。……完全にガイドブックだったたけど」


 そう、先日渡された旅行ガイドの内容は、完全に遊びまくるといい、と言わんばかりのものだった。

 

 一応課外学習の機会と謳っているのに良いんだろうかとは思ったものの、お陰でわくわくが増強されたので、何も問題は無いと思う事にした。このガイドブックを配るときに近くにいた教授の顔は微妙に青ざめていたけれど。うん、気にしないことにしよう。


「ユキノさん、ユキノさん、あとで一緒にこのお店に行きませんか。皆さんも誘って迷宮ケーキとか、迷宮酒とかあるそうですし、美味しそうですよ」

「おお、いいね。わたしも行きたかったトコ。クロノも誘って、飲み勝負を仕掛けたいと思っていた」


 何やら向こうでも女性陣が盛り上がっているし。まあ、飲み勝負云々については気にしないで、聞き流しておくが。なんて思っていると、

 

「うん。皆ー。揃ったねー」


 リザが手を振りながら中庭に来た。

 そしてこちらを見て、うんうん、と頷き、


「オッケー。みんな元気はよさそうだね。体調不良な人はさすがに休んでもらうつもりだったけれど、いないのなら問題なし! --ってことで、こっちも転送魔法の準備の方は完了しているから。こっちに来てー」


 リザはそう言いながら手招きして俺たちを、中庭の一角に誘導する。

 そこには屋根が設けられた休憩所があるのだが、その地面に微かに光を放つ文様が刻まれていた。 何となく、この前言った覇竜のダンジョンで似たようなものを見たことがあるが、

 

「これが、転送魔法の陣ですか。迷宮都市に、一発で行けるんです?」

「うん。勿論だよ、クロノ。これまでにも何度か課外講習の場所として訪れさせてもらって、友好関係を築いている街だからね。登録してあるんだ」


 なるほど。リザがやけに迷宮都市に詳しいのは、何度も行った経験があったからか。


「まあ、だからね。ガイドにも書いたけれど、街の楽しそうな場所が知りたいときは、私に頼るといいよ! 遊ぶ場所とかいっぱい知ってるから」

「……リザさんが一番、課外講習の建前を忘れている気がするな」

「た、楽しい分には良いじゃないか、クロノ!」


 思わずつぶやいてしまったが、コーディのいう事も最もだ。この辺りは柔軟に考えていくのが良いだろう。せっかくの仲間との旅なんだから、楽しくないよりは楽しい方がいいのだから。


 そんなこちらの思考を読んだかのように、リザは朗らかに笑う。


「そうそう。中々外の町にみんなで行く事はないんだから、思う存分遊んで、様々な経験を積むのが一番だからね。――じゃ、行くよ!」


 そして俺たちの課外講習兼、旅行は賑やかに始まっていく。



「さあ、着いたよ皆」


 俺が目を開けると同時、リザのそんな声が響いた。

 そして、視線の先にある光景は、既に魔王城の中庭の一角ではなくなっており、 


「――ようこそ、迷宮都市へ!」


 広大な街並みが広がっていた。

 魔王城下町とは違った匂いや雰囲気がする。

  

 何より目立つのは、街の奥にある巨大な山だ。

 ただ、山といっても普通の草木が生えるような山ではなく、


「岩山と機械がまじったような姿だな……」


 そう。街の奥にある山はゴツゴツした岩山なのだが、表層の所々に金属のような色合いが混じっていた。

 更には表面の幾か所にも回路のようなものが走り、時折光を放っている。


「本当ですね。あれが三代目の魔王様が作り上げた、迷宮都市のシンボル――『始まりの鉱山エンターマイン』だとガイドブックには書いてありましたが……実物を見ると、圧倒されますね」

 いつの間にか隣にいたソフィアも、目を見開きながらそんな感想を述べていた。

 離れた地点にいるのだが、それでも巨大だと一目で分かる人工物なのだから、当然だ。俺も驚いているし。


「……ガイドブックに『野良ダンジョンが発生する時は、エンターマインの名の通り、山に入り口を集中させる力を持つ』と書かれてて、いったいどんな感じなんだろうと思いましたが……」

「ああ、まさかこんなデカブツだとは」


 すごい施設を作ったもんだと思っていると、


「まあ、とりあえず街の中に入ろうか、みんな」


 とリザが歩き出した。

 それについていくように、俺たちは迷宮都市へと入っていく。


 街を歩く中、俺は先ほどまで山を見上げていた視線を下げ、街中を見る。


 今俺たちがいる広い通りには、大勢の人が歩いていた。

 野良ダンジョンが発生しまくっているというのに、みな楽しそうな表情をしている。

 あんまり困っていないのだろうか、と思って更に街を見回すと、広い通りの両端には垂れ幕がかかるワイヤーや、看板が置かれていた。

 その幕や看板にはどれも、『迷宮祭り開催中』との文字がある。


「迷宮、祭り?」


 その単語に首をかしげていると、俺たちの先頭にいるリザが声を飛ばしてきた。


「そう。これが迷宮都市の観光名物の一つ、野良ダンジョンの発生期に合わせて行われる『迷宮祭り』だよ」

「ええっと? 困っている場合は、助けるのも今回の課外学習の目的の一つと聞いていたのですけど……観光名物と、祭りって……困っている要素はあんまり見当たらないんですが」

「そりゃあ、迷宮都市はなんどもこの発生期を乗り越えてきて、観光材料にしちゃったくらいなんだから。ちょっとやそっと、ダンジョンが発生したくらいじゃ全く困らないよ」


 リザは当然のように答えてくる。


「まあ、たまに例外的な強さを持ったボスがいるダンジョンもできるけどね。ほぼ無いからこそ、遊びを中心にガイドを書けるんだしね」

「あー……なるほど」


 課外学習とか言いながら、最初っから遊ぶ気がありまくったのは、迷宮都市の実情を知っていたからか。

 まあ、何度も訪れているのだから、こういう雰囲気であることも知っていただろうしな。でも、

 

「なんでガイドブックにはちょっとだけ、シリアス混ぜて、ダンジョンの攻略時は注意、とか。困っている人がいたら助ける、とか書いてたんですか、リザさん」

「いやまあ、念のためだよ。なんだかんだ、野生のダンジョンにはいろいろなお宝が眠っているから、それを取るために潜ろうとしたとき、多少気を引き締めてもらわないと危ないしさ。必要な注意喚起ってやつ」

「わかるようなわからないような……まあ、ダンジョンに潜るときは真剣にっていうのは了解してますが」


 俺の言葉に、周りにいる幾人かのクラスメイトも頷いているし。


「あはは、まあ、それならいいんだ。迷宮祭りでは、好きなダンジョンに潜っちゃっていい決まりになっているからね。あのエンターマインにある入り口前の看板に、中に何がありそうとか書いてあるから、欲しいものが見つかったときはどんどん、そのダンジョンにチャレンジするといいよ」

 リザの言葉に、俺の隣にいたソフィアが首を傾げた。


「リザさん、野生のダンジョンなのに、中に何がある、とか分かってるんですか?」

「まあね。基本的に、迷宮都市はダンジョンが現れると、速攻で先遣隊や調査班を入れて、どんなモノが眠っているかを攻略度外視で調査するんだよ。――で、どんなものが取れそう、とか。このダンジョンの難易度はこのくらいです、とか、そういう指標を出して、この街に来る人々にデータとして提供してくれるんだ」

「へえ、難易度表記とか、すごい気遣いしてくれるんですね」

「そうしないと、観光産業じゃなくなっちゃうからね。お客さんをケガさせるわけにはいかないってことでさ。難易度が高いところは、腕利きの冒険者はいいお宝が眠るところに行くし、あまりに危険な場所は先んじて街の防衛隊や攻略隊が入って潰したりしているんだよ」


 どうやら、ダンジョンを観光材料にするために、色々と方策は考えられているようだ。

 確かにその方式なら、安全に楽しめそうだし。


「伊達に長年続けてるわけじゃないからねー。……ってことで、まずは街の最奥に行っていいかな」

「えっと、俺達も一緒で良いんですか?」

「勿論、一番賑やかだし、私たちの課外学習を受け入れてくれた祭りの実行委員――街の市長さんたちもいるだろうから。みんなを連れて軽い挨拶させてほしいんだ。今回お世話になる街の代表者だしね」

「ああ、そういうことなら、了解です」

「じゃあ、またついてきてね。あ、途中の出店とかで美味しそうなものがあったら、どんどん買って食べて行っていいからー」


 そうしてリザの先導のもと。

 俺たちは、ワクワクした気持ちを抱きながら、街で最も賑わってそうな区画へと足を踏み入れて行く。



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