3話 想定通りと想定外
迷宮都市の最奥へ向かう最中、
「街中に入るとより一層、賑やかだなあ」
「本当に。皆さん、楽しそう、ですね」
「うん。わたしは数回目だけど、何度見ても、このお祭りは雰囲気がいい」
俺はソフィアやユキノと、通りの出店で軽く買い食いをしながら喋っていた。
「雰囲気ですが。確かに、ここまでの規模のを見たのは初めてですが、うん。なんとも都会的ですね。ウチの村祭りとは大違いです」
「や、これが都会的かどうかは微妙なところだけども。クロノの故郷では……また、何か、異常なお祭りとかやっていたの?」
「スタートから異常扱いはひどいと思うんですが!?」
そう言ったら二人に顔を見合された。
というか、近くにいるクラスメイトとか、リザとも顔合わせしはじめた。
おかしいな。こんなスタートダッシュな反応をされる話をしたつもりはないんだけど。
「いや、本当に今回は普通ですって。村祭りって感じで、普通に騒いで踊ったりしただけなんで。あと、せいぜい、牛追いしようとしたら、牛に飛び掛かられたから相撲したり、牛に強化魔法をかけていた近所のおっさんとドツキあったりとかしか、やった事ないんで!」
「ああ、うん。なんというか、前半は確かに普通かもしれませんが、血の気は多かったんですねえ……」
あれ、なんか微妙な笑顔を浮かべられたぞ。
「あと、クロノのことだから、どうせ牛じゃないので牛追いしてそうだよね……」
「あ、よく分かりましたねユキノさん。その時は村に牛がいなかったんで、モンスターのシルバーミノタウロスで代用してたんですよ。牛っぽいのだったんで一緒判定で」
「うん、そんなことだろうと思った!」
ユキノからはめちゃくちゃいつもの反応をされた。
なんだ。何を話せば正解だったんだ。
ちょっとだけ普通と認められたのに、なんか反応がおかしくて分からなくなってきたぞ。
「普通の祭りというのは、この迷宮都市の祭りを基準にした方がいいんですかねえ」
「あはは、まあ、このお祭りもちょっと特殊だけど、その認識でいいんじゃないかな」
なるほど。
では今後はこれを基準にするために、色々と見ておこう。
そう思って気づいたことがある。
「なんというか、迷宮都市も魔王城下町と同じく物騒な気配はあんまりしないのは当然ですが、街を歩く人が装備をしっかりしているというか、出店でも装備を売っているんですね」
「まあ、ダンジョンに潜ろうっていう人が結構来るからねえ。その人たち向けの商売は多くなるんだよ」
「あと、そこら辺の露店の食事に、薬草が混ぜられている匂いがしてますし。飲み食いするだけで、肉体回復しやすいようになってる感じがしますね」
言うと、リザは楽しそうにほほ笑んだ。
「おお、さすが薬師の家系だね。そういうところ、わかるんだ」
「ええ、魔王城下町とは出店の雰囲気も違いますからね。安くて美味しいのは、どっちもですが」
歩く最中に買った串焼きなどは、微妙に薬草のパウダーが掛かっていた。
食べただけで体が全回復――となるようなものではないが、それでもかすり傷くらいなら簡単に治ってしまうくらいの効能はあるだろう、と食べてみて思ったのだ。
……それも、俺が食べた店舗だけじゃなくて、みんなが食っているほかのたべものからも、薬草系の香りがしているしな。
そう思って言うと、リザはそうだねえ、と首を縦に振った後、
「さっきのダンジョンの難易度表記の話だけじゃなくてね、迷宮都市はダンジョンを観光地にするために、ダンジョン周り以外も、色々と心配りをしているんだよ。街ぐるみで、食べ物に肉体回復の効果を付与するというのも、その一環だね」
「町ぐるみでやってるって、完全に政策なんですね」
「うん。で、そんな政策を通した人は、あそこにいる筈なんだよね」
リザが指さした先には、楕円形の広場があった。
「ここが最奥部ですか?」
「そう。ダンジョンの入り口と迷宮都市を繋ぐ大広場だね」
巨大なエンターマインを目と鼻の先に置いた石畳の広場には、大通りと同じく、たくさんの人が歩いていた。
だが一部、人通りが少ない場所があった。
そこには、綺麗に装飾された、巨大なドーム状の天幕が張られていた。
天幕の上部には迷宮祭り実行委員会、現場集会所と書かれた看板もつられており、入り口の薄布の中には複数の人影も見える。
「で、私たちが行くのはそこの、集会所ね」
そしてリザは俺たちを引き連れたまま、集会所の前まで進んでいき、
「おーい、市長さんー」
集会所の中にいる人たちに声をかけながら、薄布を分けつつ、天幕へと入った。
俺たちも続いて入っていると、集会場の中からすぐに一人の、ひげ面の男性が抜けだしてきた
「おお、魔王様。こんにちは。打合せした通りの時間に来てくれたのですな」
市長と呼ばれた髭の男性は朗らかに笑いながらリザに言う。
対し、リザも笑みと言葉を返す。
「そりゃまあ、事前に打合せをしたんだから当然でしょ。忙しい所にお邪魔するんだから、時間は守るよ」
「ははは、有り難いですね。で、そちらが魔王城の超特進クラスのご一行様ですね?」
いくらかリザと喋った後、ひげの男性は俺たちの方を向いた。
「初めまして。迷宮都市の市長のラブローです。ようこそ皆さん、迷宮都市へ」
市長はそんな自己紹介と共に会釈をしてくる。
「見てのとおり、当市が力を入れているお祭りですので。魔王城の賑わいにも負けないくらい、様々なイベントを企画していますので、ぜひ、楽しんで行って下さいませ」
「うっす。ありがとうございます」
学生相手にも、こんな対応をしてくれるとは、丁寧なヒトだなあ、と思いながら俺たちも会釈を返す。
そのあとで、改めて市長は目線をリザの方に向けた。
「というわけで、魔王様。しばし、よろしくお願いします」
「了解了解ー。いつもありがとうね市長さん――って、あれ?」
喋る最中、リザが怪訝な表情になった。
「んー……市長さん……?」
「は、はい? どうか、なさいましたか?」
「いや、顔色が悪いと思ってさ。鼓動も早くなっているし、疲労も凄く溜まっているみたいだけど、体調の方は大丈夫なの? 寝不足とかのレベルじゃない位、調子悪そうだけど」
そんな台詞に、市長の表情が苦笑に変わった。
「はは……何というか、まさか一目で見抜かれてしまうとは……魔王様は流石ですね」
「まあ、体調管理系は私の得意分野だから。でもどうして――」
と、リザが言葉を吐こうとしたのと同時。
「――医療班、急いでくれ……!」
天幕の奥の方から、そんな声が響いた。
●
リザの視線の先、そこには焦り顔を浮かべる、剣を持った青年の姿があった。
どこかダンジョンに潜ってきたばかりなのか、体には汚れが見られるが、そんなこと気にならんとばかりに、彼の近くにいる白衣の姿に対し声を発していて。
「アイツ、肩をざっくりやられちまって、血が止まらねえんだ! 不意打ちだったから、防御も出来なくて、短距離転移で逃げるのが精一杯でよ……!」
「わ、分かってます! やりますから、どうか落ち着いて……!」
大きくはないが、切迫した声と様子だというのは外から聞いていて分かった。
そして、入り口付近にいる自分たちにしっかり聞こえるだけの声だったということは、目の前にいる市長の耳にも入っているということで。
声を背後にした市長は、苦笑を続行した上で、
「その……お騒がせして申し訳ない」
「別に騒がしいのは良いと思うんだけど……何か良くない事が起きているみたいだね」
リザの言葉に、市長はふう、と深く吐息した。
「ええ、何とも間の悪い事に……魔王様たちが来るタイミングで、難易度が高すぎるダンジョンが発生してしまいまして……」
平和に見える祭りの中でも。
どうにも、困っている人はいたようである。
お陰様で、ニコニコ静画様の方で、コミカライズがスタートしております。
そちらも面白いので是非、お読みいただければ嬉しいです。
そして、いつも応援ありがとうございます!
面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価など、よろしくお願いします!




