プロローグ 迷宮都市への準備進行中
ながらくお待たせしました! 連載再開します!
また、自称!平凡魔族のコミカライズがニコニコ静画様でスタートしています!
「迷宮都市への旅行までもう少しですね、クロノさん!」
その日の朝、俺は魔王城の食堂でソフィアからそんな言葉を貰った。彼女はニコニコと笑みを浮かべており、どことなく興奮して、楽しそうにしている。
俺としてもその気持ちは、分からなくはない。
「そうだな。この魔王城に来て初めての旅行だから、楽しみだなあ」
先日、魔王であるリザから告げられた行事が、かなりワクワクするようなものだったからだ。
三代目魔王が作り出した迷宮都市への課外講習――という名での観光旅行。
それも、同年代の仲間と一緒の旅だ。
この学園で同年代の友人と一緒に過ごそうと思っている俺としては、この旅行は中々大きなイベントだと思う。そして、そんな興奮を抱いているのは俺だけではなく、
「クロノと一緒の旅行は面白い事になりそう……」
俺の隣で食事をしていた銀狼のユキノも、嬉しそうな目で俺達を見ていた。
また、彼女たちだけではなく、食堂に見える超特進クラスの仲間達も、やけにそわそわしている。
皆、それだけ今回の迷宮都市への旅行に期待感があるのだろう。当然、俺もそわそわしていた。
「迷宮都市……リザさんが言うには大都市なんだよなあ。都会を魔王城と城下町しか知らない俺からすると、そこに行けるだけでもドキドキするな」
そう。この魔王城に来て大分経ち、城下町の賑わいなどには少しだけ慣れてきたとはいえ、これから行くのは大都市だ。
田舎では見られなかった色々な物が見られて、友人たちと話題を共有できるともなれば、行く前から感情が高ぶって来る。
「ですねえ。迷宮都市は城下町と同じくらいには大きい上に、娯楽施設も多いらしいですね。観光にも力を入れていますって、リザさんから貰ったパンフレットに書いてありました」
「ああ。ソフィアも、リザさんから、『旅行のしおり』を貰ったんだな」
俺は懐から折りたたまれた紙を取り出す。
数日前、旅行の準備を整えていた俺達にリザが渡してきたものだ。
そこには迷宮都市の見どころや、観光地が詳しく書いてあった。
……あの人は、イベントごとになると本当に丁寧にサポートしてくるよなあ。
有り難いと思いながら俺は紙に目を通す。そこには細かく解説の付いた地図まで描かれている。だが、しかし観光案内だけが書いてあるわけではなく、下の方には今回の課外講習としてやるべき事が掛かれていた。それは、街の郊外まで描かれた地図に描かれた赤点と線で結ばれた説明で、
「これが『季節ダンジョン』群生ポイントで、指示の後攻略する事、か
そう。今回の課外講習には、雨後の筍のように現れまくったダンジョンを破壊する、という名目があるのだ。まあ、その目的は良いとしても、
「ダンジョンが湧き出まくる季節って、本当に何なんだろうな……」
「あ、あはは……。一応、そういう季節がある土地に作られたから、迷宮都市って呼ばれているらしいですけどね」
「そうだね。あと、ダンジョンは自然発生もするから、そういう物だと思うしかない。講義でも、習ったでしょ?」
「それはまあ。最近、特進クラスの教授から教わりましたけども」
強力な魔力を秘めた物質が、周囲の欲望や願望を何らかの理由で吸い込むことで、世界をゆがめ異空間を作り出す。
それがダンジョンが発生する根本的な仕組みだ。
……その仕組みを利用して、人工的かつ指向的にダンジョンを作れるようにした道具がコアと呼ばれるものなんだよな。
ただ、自然発生したダンジョンはそのままにしておくと、モンスターや魔道具をノーコントロールで生み出してしまう事があるので、出来るだけ早めに潰す必要があるとも解説を受けた。
「自然発生の宝物付きの害獣の巣と考えればいい……んでしたよね」
「うん。それであってる。まあ、ダンジョンを作るほど強力な物体は、特定の周期でしか出てこないから、沢山発生することは稀。年に一回くらいはどこにでも出ているものではあるけども。私が世界を少しだけ回った時も、時折見かけたし。ワタシの国でも、何回か出た」
「あ、私のトコでも出ましたね。吸血鬼の部隊で潰しに行ってました。魔石と魔法具の稼ぎ場所だーって皆さんが仰ってた記憶がありますよ」
ソフィアとユキノは昔を思い出すように告げてくる。
「なるほど……そうなのか。俺の故郷ではあんまり見たことがないから、俺としては新鮮なものになるなあ」
「あれ? クロノさんの故郷ではダンジョンはできなかったんですか?」
「そうだけど」
「……おかしいですね」
「ね」
俺の言葉に何故かソフィアとユキノが神妙な顔をし始めた。
「おかしいって何が?」
「いえ、今までクロノさんから地元のお話を何度も聞いて来たんですが、明らかにおかしい生態系や魔力濃度をしていそうなので、出来てもおかしくはないはずなんですが」
「これまでの話を聞いたら、出来ていないほうが異常。いや、ある意味異常なところで、異常なことが起きているから、正常かもしれないけれど」
なんだかすごく変な言い回しで故郷を表現されている気がする。でもどう突っ込んでいいのか、分からないなコレ。
「……ええと、まあ、なんにせよ、本当にダンジョンの発生は見たことがないのは確かなんだよ。ダンジョンを作る経験をしたのも、この魔王城に来て、初めてだったんだし」
「そういえば……そんな事を以前も仰ってましたね。初めてで四百層を作るのはちょっとおかしいですけど」
「うん。聞いた時は冗談かと思ったし。……まさか、本当に何も知らない状態とは思わなくて、今もちょっとびっくりしているけど」
「しょうがないでしょう。ウチは田舎で、ダンジョンの事を調べる本も資料もあんまりなかったんですから」
魔王城に来てからは図書館で調べ物をしまくれて、ある程度は知識が付いたけれども。
「ともあれ、迷宮都市に行くのはそういう意味でも楽しみですね。色々なダンジョンを見られそうですし。ルームメイクの参考にも出来ますし」
自然発生したダンジョンは周辺にいる人たちの欲望や願いを取り込んだときに、その人たちが使いやすい構造に構築される。
また、その人たちが求める家具が置かれているダンジョンもあると聞いた。
……それを見れば、自宅(俺のダンジョン)の改良がもっと出来るかもしれない。
ダンジョンを攻略しながら、そういう部分を勉強していけそうだし、勉強出来ないような変な構造になっていても友人との笑い話には出来るし。とにかく沢山のダンジョンを見られるというのは、良い経験になりそうだとそう思っているのだ。
「ああ、そうですねえ。クロノさんは自宅の家具とかでも困っていましたし、私も探索して、何かクロノさんに向いているものが見つかったら連絡しますね」
「ワタシも、協力するー」
「はは。ありがとうございます。……本当に迷宮都市、楽しみですねえ」
俺はそんな風に、ソフィアやユキノとほほ笑み合い、今後来るイベントに胸を躍らせながら朝食を食べていくのだった。。
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