エピローグ
「おや、戻って来たねー」
俺達が覇竜のダンジョンから、魔王城の宝物庫に戻るなり、リザの明るい声が響いた。
どうやら彼女は待っていてくれたようだが、
「怪我人は直ぐに医務室に行って頂戴ー。フェニックスキメラの力で回復しても、念のため検査も必要だからー。その後で私の診断も受けてね」
そんな事を言い始めた。
「フェニックスキメラの事を知っているって……やっぱりリザさんもこのダンジョンについて良く知っていたんですね」
「まあね。ここが天竜の子が友人や仲間を作る為の場所だっていうことは、先代魔王から引き継ぐ情報だから知っているよー。皆が自分で知るまでは秘密にしろという条件も含めてね」
「なるほど……」
つまりフェニックスキメラが言っていたことは間違いではないのだろう。
「何で天竜に教えないんですかね?」
「ああ、それは始祖の天竜の言葉が記録に残っているんだけどね。『天竜は頑固で意地っ張りだから、自発的に友人を求めなければその後が続かない。教えてしまうと業務的に人を呼び出すだろうから内密に』っていう事らしいよ? それが今でも本当かどうかは分からないんだけどさ」
分からないからこそ、昔のまま、教えないという方向でやっているのだろう。種族ごとに性格や性質が違うから、その辺りは難しいよなあ、と思っていると、
「しかしクロノがいるとはいえ、もっと時間が掛かるとは思っていたけれど、速かったね。皆、覇竜のダンジョン攻略、お疲れ様! 今回、全然助けになれなかったのと、事情を黙っていた罪滅ぼしも含めて、向こうに超特進クラスの部屋と食堂にたっくさん料理を用意したから勘弁してね!」
リザはそう言って、宝物庫の扉を指さした。
見れば、開け放たれた扉の先には、沢山の料理が置かれたテーブルが幾つも並べられていた。
「勿論、今回の費用は私持ちだから。お酒も食べ物もガンガン食べて行ってよ! 祝勝会ってことでね」
「おお、流石は魔王様」
「太っ腹だぜ、リザ様――!」
リザの容易に超特進クラスの面々は歓喜するとともに、祝勝会場に走っていく。
賑やか過ぎる気もするが、折角ダンジョンを一つクリアしたのだ。これ位うるさくても良いだろう、とそう思いながら、
「じゃ、行くか、皆。ミスラとアリアも、一緒にパーッと楽しく騒ごうぜ」
「……うん! 楽しませて貰うよ!」
「分かったわ! 全力で騒ぐわね!」
そんな感じで、俺は仲間達と一緒に、覇竜のダンジョン攻略祝いの会を楽しむのだった。
●
食堂での祝勝会は深夜まで続いた。
大体が酒によってダウンしているのだが、その中で俺は静かに、椅子に座ってゆっくりと水を飲んでいたのだが、
「クロノ君。ちょっといいかな」
そこにミスラが来た。
「どうしたミスラ」
「いや、改めてお礼を言わせてほしいと思ってね」
「うん? 別にいいが、最近はミスラ達からお礼を言われてばかりだな」
「それ位の事をして貰えたから仕方がないね。特にボクは、さ。魔王城に来てからというもの、ずーっと迷惑をかけてしまったし。だから――本当にありがとう、クロノ」
「どういたしまして。まあ、何だかんだあったけれど、大体これで一件落着だろ」
そういうと、ミスラは照れたような笑みを浮かべた。
「あはは、そうだね。もう、殆どボクたちが抱えている問題らしい問題は、無くなったかな。クロノと、超特進クラスの皆が解決してくれたおかげでね」
「そりゃあ良かった。これで心置きなく魔王城での生活を楽しめるな」
魔王城に彼女たちが来ることになって、超特進クラスが騒ぎ出したり、ミスラの正体を皆に明かしたり、ダンジョンを攻略するために動き回ったりと多忙だったけれども。
もはや彼女たちを縛るものは無くなっているわけだし。
「うん。もう完全に自由だよ。あとで父様に覇竜のダンジョンの件を問い詰めるっていう仕事は残ってるけど、それはあとで出来るからね。今はそれよりも大事な事を……魔王城でいっぱい学んで、楽しんで、第二の目的を果たすために動きたいからさ」
「うん? 第二の目的? なんだそりゃ?」
「あれ、言ってなかったっけ? 天竜はこういう他種族が集まる時に嫁探しや婿探し、伴侶探しをするっていう風習のこと」
言われて思い出した。
確かに、リザ辺りから聞いた気がする。ただ、ミスラやアリアも何かと婿だ嫁だと言っていた記憶が無いから、あまり印象に残っていないのだろう。
「というか、本当にそういう風習があるんだな」
「そうだよ。今回、ダンジョンの事を除けば、そういう目的で来たのは事実だからね。強い人を探して伴侶にするために、ね」
「……ダンジョンを攻略しても、意外とやる事が多くて大変だな」
「まあ、この伴侶探しに関してはオマケみたいなものだからね。ボクは元々男として入って来て、気楽にやろうかなって思っていたくらいだから」
でも、とミスラは自分の胸元を押さえながら言う。
「気楽にアリアを応援して過ごそうとしていたのに。……いつの間にか、自分も同じ感情を抱いているんだから、予定は変更するかなあって」
「つまり、伴侶探しがオマケじゃなくなったって事か?」
聞くと、ミスラは頷きながら俺の顔をじっと見てきた。
「そうだね。少しだけ、妹には負けない位には、力を入れようかなって思ったんだ。先を越されちゃわないようにね」
少しだけとは言いつつも、ミスラの目にはやけに力が入っていた。
若干熱がこもっているようにも見える。
さっきもミスラにしては珍しく、同級生たちと酒を入れながら熱く語り合っていたし、何かしら心境の変化があったみたいだ。
「そうか。そういった伴侶探しについては詳しくないから、応援位しか出来ないんだけど、頑張ってくれ」
「うん。ただ、クロノが出来るのは応援だけじゃないよ? ボクは女性だけど、性的趣向としては男女両方とも範囲内だからさ。男友達としても、色々と協力してくれると嬉しいから」
「いきなり性癖を公開して来るとは大胆だが、まあ、そうだな。俺に協力できることがあったら言ってくれ」
その言葉にミスラは目を輝かせた。
「じゃあ、手始めに、この街のデートスポットに行く練習とか頼んでいいかな」
「あー……構わないけど、俺、あんまりこの街に詳しくないから練習にならんと思うぞ」
「良いの良いの! ボクとしてはちゃんと練習になるから。というかほぼ本番だから。今度時間合わせて、街に行こうよ」
「お、おう? まあ、そう言ってくれるんだったら、付き合うけどさ」
そういうとミスラは小さくガッツポーズをしていた。
ミスラは感情を表に出さず、冷静にしている時の方が多いと思っていたのだが、大分イメージが変わったなあ、と彼女を見ながら考えていると、
「おーい、なんかいい雰囲気を出している所悪いけど、問診と体調検診のために、お邪魔しに来たよー」
リザが向こうから手を振ってやってきた。
「あ、リザさん。お疲れ様です。祝勝会の最中、ずっと回診してたみたいですけど、大丈夫ですか?」
「問題ないよー。ダンジョンから帰ってきた子たちのサポートはもとより私の仕事だしね。……というわけで、ミスラルト君、腕出してー」
「あ、はい。了解です魔王様」
そうして突き出された手や腕の肌をリザはまじまじと見る。それからミスラの目と顔を見て、
「うん、特に健康状態に問題は無いかな。ちょっと心拍数が上がってドキドキしている事以外は、全く問題ないね」
「ま、魔王様!? 何を言い出してるんですか! 頑張って抑えていたのに!」
リザの言葉にミスラは真っ赤になって胸元を押さえ始めた。
「あはは、ゴメンゴメン。まあ、ともあれ、これでミスラルト君もアリアちゃんも診断完了。二人とも健康体だね」
食堂の中央で方で酒を飲みまくった挙句、ぶっ倒れる様に眠ったアリアを見ながらリザを言う。
「あー……妹が本当にご迷惑を」
「良いっていいって。祝勝会何だし、楽しいのが一番だよ。それに、皆健康体だから、これからも楽しい事ができるしね。アリアちゃんもミスラルト君も含めて、超特進クラスの皆であそこに行く事が出来るし」
「あそこ……? どこかに行くんですか?」
聞くと、リザはうん、と力強く、楽しそうに頷いた。
「再来週辺り、別の街に……三代目魔王が作り上げた迷宮都市に行こうと思ってさ。ちょうど、ダンジョンが湧き出始めた季節だからね」
「え? ダンジョンが出来る季節とかあるんですか!?」
キノコとかなら分かるけれども、ダンジョンがそんなにポコポコ生まれるんだろうか。そう思って聞いたら、リザは微笑みながら肯定してきた。
「魔王城や迷宮都市の近くでは、そういうタイミングがあるんだよねえ。……まあ、それで、野良ダンジョンはそのままにしておくのもアレだから、皆で、その湧いたダンジョンを潰しに行くのもいいかもって考えてね。色々な素材も手に入るし、メリットも多いし。
――そんな訳で、初めての旅行というか課外講習ってことでさ。ダンジョン狩り旅行の準備、しておいてね!」
そうして楽しそうなリザの声が、祝勝会場に響いていくのだった。
第三章完結です!
ある意味、一番長かった魔王城編でした。
次は城を離れての話になるかな、と。プロットの組み立てに時間が掛かりそうなので、しばしお待ちいただければ幸いです。
また、ここまで読んで頂いて、面白いと思って頂けましたら、ブクマ、評価など、よろしくお願いします!
そして平凡魔族三巻は本日発売日となります。またコミカライズもされることが決定いたしました! 本当にありがとうございます。
↓の画像から公式ページに飛べますので、是非ご覧、頂ければ嬉しいです。




