エピローグ 欠席への、マル
ある日、ジュンコの家に、白い封筒が届いた。
差出人の名前を見て、ジュンコは一瞬だけ手を止めた。
佐伯直人。
三年間、付き合っていた元恋人だった。
封筒を開けると、結婚式の招待状が入っていた。
新郎、佐伯直人。
新婦、西野アカネ。
ジュンコの親友だった。
「……ああ、そうなんだ」
それだけだった。
驚かなかったわけではない。けれど、胸が痛むことも、腹が立つこともなかった。
三年前なら、どうだっただろう。
二年前なら。
いや、一年前でさえ、少しくらいは何か思ったかもしれない。
けれど今は、招待状を眺めながら、冷蔵庫にトマトが残っていたことを思い出していた。
今夜は、トマトと卵でスープを作ろう。
そんなことを考えてから、ジュンコは出欠の返信はがきを手に取った。
出席。
欠席。
欠席に、丸をつけた。
出席できないことを詫びる、短い手紙も添えた。
二人の結婚を祝福する言葉を書き、最後に自分の名前を書いた。
それで終わりだった。
恨み言も、皮肉も、未練もなかった。
ただ、もう自分の暮らしは、あの三年間の続きにはない。
ジュンコは返信用の封筒に手紙を入れた。
明日の朝、ポストに入れよう。
それから台所へ向かった。
トマトを洗い、まな板の上に置く。
包丁を入れると、赤い断面から、みずみずしい汁がにじんだ。
ジュンコは、鍋を火にかけた。




