第30話 レベル999になっても、今日もモップ片手に掃除します
最終話です。
LV1の清掃員として始まったレンは、ついにLV999へ。
世界を救っても、世界最強になっても――
最後にやることは、やっぱり掃除です。
翌日。
魔王城地下。
第7廊下。
俺はモップを持って立っていた。
「ここから始まったんだよな」
薄暗い地下。
石造りの壁。
長い廊下。
初めて来た時は、30年近くまともに掃除されていなかった。
埃。
泥。
魔力汚れ。
ひどかった。
そして俺は、ここで初めて知った。
掃除をすると魔力が増える。
最初は何が起きているのか分からなかった。
==========
レン
LV:999
職業:世界清掃員
==========
今ではこんなことになっている。
「変わったな」
ずいぶん。
レベル1だった。
HP30。
MP10。
ただの清掃員。
それが今はLV999。
世界最強。
邪神を掃除した。
王都を掃除した。
世界そのものまで掃除した。
でも。
第7廊下は変わらない。
少し埃がある。
壁にも汚れが付いている。
掃除しないと、ちゃんと汚れる。
それが妙に安心した。
「レン」
後ろから声がした。
ガルドだった。
「ここにいたのか」
「今日の担当なので」
「知ってる」
ガルドは廊下を見渡す。
「最初にここへ連れてきた時は、こんなことになると思わなかったな」
「俺もです」
「お前、最初は普通の新人に見えたんだぞ」
「今も普通ですよ」
「LV999のどこが普通なんだよ」
それもそうか。
ガルドが壁を指す。
「そこ、汚れてるぞ」
見る。
小さな黒い跡。
「本当だ」
俺はモップを動かす。
シュッ。
==========
《魔王城地下第7廊下》
汚染除去
==========
レベルは上がらない。
もう上限だから。
MPが増えても、正直よく分からないくらい多い。
でも。
床が綺麗になる。
それでいい。
「そういえば」
ガルドが言った。
「陛下から話が来てるぞ」
「また玉座ですか?」
「違う」
「じゃあ何です?」
「お前を魔王軍最高顧問にしたいらしい」
「嫌です」
即答。
「せめて最後まで聞け!」
「掃除できなくなりそうなので」
「まあ、そう言うと思ったけどな」
次。
「王国からも来てる」
「何です?」
「英雄として爵位を授けたいって」
「いりません」
「勇者からは?」
「聖剣の定期清掃なら月1回で」
「話が早えな」
いろいろ来る。
でも。
俺にはあまり関係ない。
魔王軍最高顧問。
英雄。
世界最強。
どれも大げさだ。
俺の仕事は。
汚れている場所を綺麗にすること。
それだけ。
廊下の奥から足音が聞こえた。
ゼルガ。
その後ろに魔王ヴァルグレン。
さらに勇者レオンまでいる。
「なんで全員いるんです?」
レオンが笑う。
「お前に会いに来た」
「掃除中なんですけど」
「相変わらずだな」
ヴァルグレンが廊下を見る。
「レン」
「はい」
「世界を救った功績について、正式に――」
「あ」
俺はヴァルグレンの肩を見る。
「動かないでください」
「何だ?」
「埃付いてます」
モップの先で軽く払う。
シュッ。
「取れました」
「……そうか」
ヴァルグレンが何とも言えない顔をする。
ゼルガが横を向いた。
笑っている。
レオンも笑い始めた。
「何です?」
「いや」
レオンが首を振る。
「やっぱりお前、最後までそれなんだな」
「何がです?」
誰も答えない。
変なの。
その時。
ピロン。
久しぶりに音がした。
==========
《新規清掃依頼》
==========
「また?」
==========
《魔王城厨房》
油汚れ発生
==========
「普通だ」
なんだか嬉しい。
ガルドが笑う。
「行くのか?」
「もちろん」
俺はアブソリュートモップを肩に担いだ。
レオンが聞く。
「世界最強が厨房掃除?」
「汚れてるんですよね?」
「まあ」
「じゃあ掃除します」
最初から。
ずっと同じ。
俺は強くなりたくて掃除したわけじゃない。
誰かに認められたくて掃除したわけでもない。
ただ。
汚れていたから。
掃除した。
それを繰り返していたら。
気づけば。
==========
LV:999
==========
世界最強になっていた。
「レン」
ガルドが呼ぶ。
「何です?」
「厨房終わったら、東塔も頼む」
「どれくらい汚れてます?」
「半年やってない」
「それ先に言ってくださいよ」
俺は歩き出す。
魔王城の廊下を。
いつものように。
モップを持って。
今日も仕事がある。
明日もきっとある。
世界がどれだけ綺麗になっても。
どこかはまた汚れる。
だったら。
その時はまた掃除すればいい。
俺は清掃員だから。
そして今日も。
モップ片手に。
世界最強の清掃員は、魔王城を掃除する。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
魔王城の清掃員だったレンは、
邪神を掃除し、王都を掃除し、世界を掃除し、
気づけばLV999の世界最強になりました。
それでも最後まで、
「汚れているから掃除する」
だけでした。
これにて完結です。
ブックマーク・評価・感想などいただけると、とても嬉しいです。
そしてレンは今日も――
モップ片手に掃除しています。




