第3話 ただのモップでレベル18の魔物を倒してしまった
地下牢でレベル18のヘルハウンドを倒してしまったレン。
当然、清掃班長のガルドが黙っているはずもなく……?
「……これ、どうしよう」
俺は床に倒れているヘルハウンドを見下ろしていた。
でかい。
改めて見ると、本当にでかい。
しかも頭が3つある。
どう見ても強そうだ。
いや。
実際、強かったはずだ。
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《ヘルハウンド》
LV18
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対して俺は。
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名前:レン
種族:人間
レベル:4
職業:清掃員
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「どう考えてもおかしいよな……」
レベル差14。
なのに。
モップで一発。
俺は手にしているモップを見る。
どこにでもありそうな木製のモップだ。
特別な武器には見えない。
「もしかして、このモップがすごいとか?」
試しにステータスを確認してみる。
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《清掃用モップ》
品質:普通
攻撃力:1
魔王城清掃部で支給される一般的な清掃道具。
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「普通じゃねえか」
攻撃力1。
じゃあ。
さっきの威力は――
ドドドドドドッ!
突然、階段の方から大きな足音が聞こえてきた。
「レン!」
ガルドだ。
ものすごい勢いで走ってくる。
「無事か!?」
「はい」
「今の音はなんだ!? 壁が崩れるような音が――」
ガルドが止まった。
視線の先。
床に倒れているヘルハウンド。
「…………」
沈黙。
「レン」
「はい」
「これはなんだ?」
「ヘルハウンドみたいです」
「それは見れば分かる!」
怒られた。
ガルドが慌ててヘルハウンドへ近づく。
身体を調べる。
牙を見る。
脚を見る。
最後に3つの頭を見る。
「間違いねえ……」
顔色が変わった。
「地下獄犬だ」
「地下獄犬?」
「ヘルハウンドの中でも地下魔力に適応した個体だ。普通のヘルハウンドよりずっと強い」
「へえ」
「へえ、じゃねえ!」
また怒られた。
「こんなのが残ってたのか……」
ガルドは額の汗を拭った。
「下手すりゃ清掃部が全滅してたぞ」
「そんなに?」
「魔王軍の一般兵でも、1人じゃまず相手にしねえ」
「……マジですか?」
「マジだ」
ガルドが俺を見る。
「で」
嫌な予感がした。
「誰が倒した?」
「…………」
「お前以外、誰かいたのか?」
「いません」
「じゃあ誰が倒した?」
逃げられない。
俺はモップを少し持ち上げた。
「俺です」
「…………」
ガルドが固まった。
「もう一度言え」
「俺が倒しました」
「どうやって?」
「モップで」
「…………」
ガルドはヘルハウンドを見る。
俺を見る。
モップを見る。
もう一度ヘルハウンドを見る。
「……モップ?」
「はい」
「それで?」
「叩きました」
「どこを?」
「鼻あたりを」
ガルドはしばらく黙った。
そして。
「そんなわけあるかあああああ!」
地下牢に叫び声が響いた。
「俺もそう思います!」
「なんでお前まで否定してんだ!」
「だって俺、清掃員ですよ!?」
「知ってるわ!」
ガルドが頭を抱える。
「ヘルハウンドだぞ!? しかも地下獄犬だぞ!? モップで倒せる魔物じゃねえ!」
「でも倒れました」
「見れば分かる!」
どうしろというんだ。
事実を言っているだけなのに。
ガルドはヘルハウンドの身体をもう一度調べた。
やがて、壁を見る。
ヘルハウンドが叩きつけられた場所だ。
石壁が大きく陥没している。
「……これも、お前が?」
「俺というか、ヘルハウンドが飛んでいって」
「どれだけの力で殴ったんだよ……」
「普通に」
「普通の意味を辞書で調べてこい」
異世界にも辞書あるんだ。
その時。
ガルドの視線が止まった。
「……ん?」
崩れた壁。
その奥。
黒い扉。
「なんだ、あれ?」
やっぱりガルドも知らないらしい。
「さっき壁が壊れて出てきました」
「こんな扉……俺も知らねえぞ」
ガルドが近づく。
そして途中で足を止めた。
「うっ……!」
顔をしかめる。
「どうしました?」
「魔力だ」
「魔力?」
「濃すぎる」
ガルドが一歩下がる。
「レン。近づくな」
「え?」
「この濃度はまずい。普通の魔族でも長時間浴びれば身体を壊す」
そんなに?
俺は扉を見る。
確かに黒い霧のようなものが漏れている。
でも。
俺には特に何も感じない。
むしろ。
ピロン。
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《高濃度魔力を検知》
《吸収可能》
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やっぱり。
俺にはごちそうらしい。
「ガルドさん」
「なんだ」
「これ、掃除していいですか?」
「は?」
「扉。埃すごいですよ」
「お前、俺の話聞いてたか!?」
「でも汚れてますし」
「そこじゃねえ!」
ガルドが止めようとする。
でも。
もう遅かった。
俺は扉の表面を雑巾でひと拭きした。
ピロロロロロン!
今まで聞いたことのない音が鳴った。
「え?」
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《古代魔王の残留魔力を吸収しました》
MP+1840
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「1840!?」
一発で!?
ピロリン!
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《レベルが上がりました》
LV4 → LV6
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さらに。
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《特殊条件を達成しました》
《古代魔王級の魔力を初めて吸収しました》
《固有スキルを獲得します》
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「固有スキル?」
ガルドには見えていないらしい。
俺だけが表示を見つめる。
そして。
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《固有スキル》
《魔力清掃》
掃除によって吸収した魔力を自由に操作できる。
清掃用具に魔力を付与することも可能。
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「清掃用具に……」
俺はモップを見る。
もしかして。
さっきのヘルハウンドを吹き飛ばしたのも。
無意識に魔力がモップへ流れていた?
なら。
試してみるか。
モップに魔力を流すイメージをする。
すると。
ブワッ!
「うわっ!」
モップが青白い光に包まれた。
ガルドが飛び退く。
「な、なんだそれ!?」
「俺にもよく分かりません」
「またそれか!」
目の前に表示が出る。
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《清掃用モップ》
品質:普通
攻撃力:1
魔力付与中
攻撃力:1847
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「…………」
俺は表示を二度見した。
1847。
元は1。
「千八百……」
「なんだ?」
「いえ、なんでもないです」
これは言わない方がいい。
絶対に。
俺は慌てて魔力を止める。
モップから光が消えた。
ガルドは完全に怪しんでいる。
「レン」
「はい」
「お前、本当に清掃員か?」
「ステータスにはそう書いてあります」
「そういう意味じゃねえ」
でも。
俺自身にも分からない。
掃除すれば魔力が増える。
レベルも上がる。
スキルも覚える。
そして。
その魔力をモップに乗せれば。
レベル18の魔物すら一撃。
これ。
思っていた以上にヤバい能力なんじゃないか?
その時。
ギギギギギ……。
「ん?」
黒い扉が。
勝手に開き始めた。
「レン、下がれ!」
ガルドが叫ぶ。
扉の向こうは真っ暗だった。
だが。
奥に何かある。
巨大な部屋。
中央。
そこに置かれているのは――
黒い玉座。
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《警告》
《魔王級魔力反応》
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さらに。
ピロン。
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《清掃対象を確認しました》
《古代魔王の玉座》
推奨清掃レベル:100
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「…………」
俺は現在レベル6。
推奨レベル100。
普通なら。
逃げるべきなんだろう。
でも。
玉座を見る。
埃だらけ。
黒ずんでいる。
明らかに長い間、誰も掃除していない。
俺はモップを握り直した。
「……汚れてるな」
「レン?」
掃除したら。
どれだけ強くなるんだろう。
お読みいただきありがとうございます!
ついに「ただのモップ」がただのモップではなくなってきました。
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次回――
推奨清掃レベル100《古代魔王の玉座》
レベル6の清掃員が、掃除します。




