第28話 レベル999の清掃員に、世界中から依頼が殺到しました
LV999到達の翌朝。
世界最強になったレンを待っていたのは――大量の清掃依頼でした。
第28話 レベル999の清掃員に、世界中から依頼が殺到しました
翌朝。
魔王城清掃部。
俺はいつも通り扉を開けた。
「おはようございます」
そして、そのまま止まった。
「……何ですかこれ」
部屋の中が紙で埋まっていた。
机の上。
棚の上。
床の上。
書類の山で、まともに歩けない。
その向こうからガルドの顔だけが出ている。
「おう」
「これ、全部なんです?」
「依頼だ」
「全部?」
「全部だ」
嫌な予感しかしない。
「何件あります?」
「朝数えた時点で8472件」
「…………」
多すぎる。
俺は近くにあった1枚を拾った。
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《清掃依頼》
王国北部
呪われた古城の清掃
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次。
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《清掃依頼》
南方帝国
100年間消えない瘴気の除去
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さらに次。
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《清掃依頼》
竜王国
古代竜の鱗に付着した呪詛の除去
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「重いのばっかりだな」
もう1枚。
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《清掃依頼》
海底王国
王宮が藻だらけなので掃除してほしい
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「これは普通だ」
ちょっと安心する。
むしろ、こういうのでいい。
さらに。
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《清掃依頼》
勇者レオン
聖剣の定期清掃をお願いします
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「自分で拭いてください」
ガルドが笑う。
「伝説の勇者に対して雑だな」
「前に綺麗にしましたよ?」
次。
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《清掃依頼》
魔王ヴァルグレン
玉座の右肘掛け付近に汚れあり
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「これも自分で拭けるでしょ!」
「陛下に言ってやれ」
「ガルドさんから言ってくださいよ」
「嫌だよ」
俺は書類の山を見る。
これ全部を回っていたら、何年かかるか分からない。
「断っていいですか?」
「好きにしろ」
「じゃあ、かなり断ります」
その時。
ピロン。
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《世界清掃員》
《依頼管理機能を解放》
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「依頼管理?」
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《緊急度》
《危険度》
《汚染度》
による自動分類が可能
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「便利だな」
すぐ使う。
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《依頼8472件を分類》
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書類の山が光った。
次の瞬間。
紙が勝手に動き出す。
ガサガサガサガサ!
「うおっ!」
ガルドが慌てて避ける。
大量の依頼書が4つの山に分かれた。
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緊急:3件
高:18件
中:420件
低:8031件
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「低が多い」
ガルドがその山から1枚取る。
「魔王城食堂の油汚れ」
「それ低なんですか?」
「世界基準なら低いだろ」
確かに。
清掃員としては気になるけど。
俺は緊急の3件を見る。
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《緊急依頼1》
大陸東部
大規模空間亀裂発生
周辺都市消滅危険
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《緊急依頼2》
北海
古代汚染獣覚醒
海域汚染進行中
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《緊急依頼3》
西方大聖堂
聖域反転
大規模呪詛発生
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「3件か」
ガルドが横から覗き込む。
「どうする?」
「行ってきます」
「全部?」
「緊急なんで」
ガルドは呆れたように笑った。
「世界最強になって忙しくなったな」
「本当ですよ」
できれば普通に魔王城を掃除していたい。
でも、緊急と表示されている以上は放っておけない。
俺がアブソリュートモップを持った時だった。
外から大きなざわめきが聞こえてきた。
「何です?」
窓から正門を見る。
人。
すごい数だ。
王国騎士。
冒険者。
魔族。
商人。
神官。
見たことのない国の兵士までいる。
空には飛竜も何十体と飛んでいた。
「……何ですか、あれ」
「お前に会いに来た連中」
「なんで?」
「昨日、世界中に名前が出ただろ」
忘れたい。
その時、正門の方から声が飛んできた。
「レン様ー!」
「世界最強殿!」
「一目だけでも!」
「弟子にしてください!」
「我が国へお越しください!」
「サインを!」
「サイン?」
何に使うんだ。
嫌だな。
掃除どころじゃない。
「ガルドさん」
「何だ」
「帰ってもらえません?」
「無理だろ」
ですよね。
俺は裏口へ向かう。
「どこ行く?」
「出張清掃です」
「正門から行けばいいだろ」
「無理です」
裏口の扉を開ける。
「レン様!」
「いたぞ!」
バタン!
すぐ閉めた。
「裏にもいるんですけど」
「世界最強って大変だな」
他人事。
どうしよう。
その時、視界に表示が出る。
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《アブソリュートモップ》
《空間移動》
使用可能
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「あ」
これがあった。
俺はモップを握る。
「ガルドさん」
「おう」
「行ってきます」
「夕飯までには戻れよ」
「世界3か所ですよ?」
「お前なら戻れるだろ」
無茶を言う。
俺は最初の目的地を選んだ。
大陸東部。
「空間移動」
シュン!
次の瞬間。
景色が変わった。
空が裂けている。
本当に。
巨大な黒い亀裂が街の上空に浮かび、その周囲の建物が少しずつ歪んでいた。
住民は避難中。
騎士たちが必死に誘導している。
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《緊急清掃対象》
《大規模空間亀裂》
汚染度:100%
危険度:国家滅亡級
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「これか」
近くの騎士が俺に気づく。
「誰だ!」
別の騎士が叫ぶ。
「待て!」
俺を見る。
固まる。
「まさか……レン殿!?」
「はい」
周囲がざわつく。
「LV999の!?」
「世界清掃員!?」
「本物だ!」
一気に人が集まり始める。
「すみません」
俺は空を指した。
「先にあれ掃除します」
「掃除!?」
アブソリュートモップを構える。
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《世界清掃員》
《対象補正》
国家滅亡級以下の汚染に対し
清掃効果+999%
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「すごい数字だな」
まあ、やってみよう。
「清浄化」
モップを一振りする。
シュッ!
白い光が一直線に空へ伸びた。
巨大な空間亀裂を包み込む。
次の瞬間。
パキン。
何かが割れるような音がした。
そして。
黒い亀裂が消えた。
「……終わり?」
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《大規模空間亀裂》
汚染度
100%
↓
0%
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《緊急依頼達成》
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「一振りか」
LV999。
かなり強いらしい。
周囲は静まり返っていた。
騎士も。
冒険者も。
避難していた住民も。
全員が俺を見る。
「……消えた」
「国家滅亡級が?」
「一撃で?」
「モップで?」
「はい」
そうだけど。
別にモップが悪いわけじゃない。
俺は次の依頼を表示する。
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《緊急依頼2》
北海
古代汚染獣覚醒
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「じゃあ、次行きます」
騎士が慌てて声をかけてくる。
「お待ちください!」
「はい?」
「国王陛下へ報告を!」
「ああ、お願いします」
「報奨金についても!」
「清掃部に送ってください」
「清掃部!?」
時間がない。
まだ2件ある。
「空間移動」
シュン!
その場から消える。
次に着いたのは北海だった。
荒れた海。
巨大な波。
その向こうから、山みたいな生き物が海面へ姿を現している。
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《古代汚染獣・バルメギア》
LV:840
汚染度:100%
危険度:大陸災害級
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「840か」
少し前なら、かなり強そうに見えた。
でも今は。
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レン
LV:999
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相手がこちらを見る。
『グオオオオオオオオ!』
咆哮だけで海が割れた。
黒い瘴気が周囲へ広がっていく。
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《海域汚染率》
18%
↓
21%
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「増やさないでほしいな」
せっかく世界を0%まで掃除したのに。
俺はモップを構える。
『グオオオオオ!』
古代汚染獣が巨大な口を開いた。
黒い光が集まる。
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《古代殲滅砲》
危険度:大陸消滅級
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「それ撃つと汚れそうだな」
面倒になる前に終わらせよう。
「完全清掃」
シュッ!
白い光が海を走る。
古代汚染獣の巨体を包み込んだ。
『グオ――』
声が途中で止まる。
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《古代汚染獣・バルメギア》
汚染度
100%
↓
0%
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《海域汚染》
完全除去
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黒かった身体が本来の青白い色へ戻った。
巨体が海面で静かになる。
『……我は』
「大丈夫です?」
『何を……』
またか。
「汚れてました」
『そうか……』
「かなり」
『すまぬ』
素直だ。
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《緊急依頼2》
達成
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「あと1件」
西方大聖堂。
空間移動。
シュン!
巨大な聖堂の前へ出る。
真っ白なはずの建物が、真っ黒に染まっていた。
空からも黒い雨が降っている。
神官たちが結界を張っていた。
「もう限界です!」
「結界が崩れます!」
その中心。
巨大な黒い光柱。
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《反転聖域》
汚染度:100%
危険度:国家滅亡級
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俺を見る神官。
目を見開く。
「レン様!?」
「依頼来てたので」
「もう来てくださったのですか!?」
「緊急って出てましたから」
黒い雨がモップに当たる。
ジュッ。
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《呪詛》
無効
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LV999。
便利。
「これ全部でいいですか?」
大神官らしい人が頷く。
「はい! ですが聖域全体が反転しており――」
「分かりました」
「え?」
モップを構える。
「広域でやります」
「お待ちを! 聖堂内部には数百人の――」
「人は掃除しませんよ」
「あ、はい」
「超広域清掃」
シュッ!
光が大聖堂全体を包む。
黒い雨が消える。
黒かった壁が白く戻る。
巨大な光柱も一瞬で消えた。
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《反転聖域》
汚染度
100%
↓
0%
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《西方大聖堂》
完全清掃
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《緊急依頼3》
達成
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「終わりました」
誰も返事をしない。
神官たちが口を開けたまま俺を見ている。
「……あの?」
大神官がようやく口を開いた。
「これを」
「はい」
「午前中だけで?」
「3件目です」
「3件!?」
俺は空を見る。
太陽はまだ高くない。
「昼前か」
結構早く終わった。
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《本日の緊急依頼》
3/3
完全達成
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「よし」
これなら魔王城へ戻って、普通の仕事もできそうだ。
「じゃあ帰ります」
「お、お待ちください!」
「まだ何か汚れてます?」
「いえ! そうではなく!」
なら大丈夫。
「空間移動」
シュン!
魔王城。
清掃部。
戻る。
ガルドが書類を読んでいた。
俺を見る。
時計を見る。
もう一度、俺を見る。
「……早くね?」
「終わりました」
「3件?」
「はい」
「全部?」
「はい」
ガルドはしばらく黙った。
「まだ昼前だぞ」
「だから戻ってきました」
「何しに?」
俺は部屋を見る。
朝から散らかったままの依頼書。
分類したとはいえ、紙の山はまだ残っている。
床も見えにくい。
「掃除です」
ガルドが天井を見た。
「世界最強になっても、そこは変わらねえのな」
「清掃員ですから」
俺はアブソリュートモップを持ち直した。
世界最強。
LV999。
緊急依頼3件。
午前中で全部終わった。
でも。
目の前には、まだ紙の山がある。
「まずここから片づけますか」
結局。
仕事は増えただけだった。
お読みいただきありがとうございます!
世界中から届いた依頼、
8472件。
レベル999になっても、レンの仕事は終わりません。
むしろ増えました。
次回――
世界最強になったので、3つの世界災害を午前中に全部掃除しました
もう強さを隠す必要もありません。




