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女性専用刑務所の面会室:一線を越えた【危険な女たち】の犯罪告白  作者: 熾星


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3.捨てられた妹

 美咲が生まれてまもなく、実の両親の生活は行き詰まった。


 それは地方の小さな町では珍しくない貧しさだった。路上で暮らすほどではない。食べるものがまったくないわけでもない。けれど毎月、住宅ローンや医療費、生活費に追われ、子どもが増えるたびに家計は少しずつ削られていった。


 結局、生後間もない美咲は、母方の遠い親戚の家へ養子に出された。

 戸籍の上では、彼女は別の家の娘になった。

 それでも、血のつながりそのものが消えることはなかった。


 美咲は幼いころから、自分が養父母の実子ではないと知っていた。養父母は彼女を粗末に扱ったわけではない。それでも、薄い紙一枚隔てたような距離は常にあった。飢えたことも、虐げられたこともない。けれど親戚が集まるたび、自分だけがどこか違う場所に立っているような感覚があった。


 成人して町立文化センターで働き始めてまもなく、実の母が美咲を訪ねてきた。

 二人にとって、それが初めての本当の対面だった。


 母は、美咲が想像していたよりずっと老けていた。文化センターの外のベンチに座り、古びた手提げかばんを両手で握っていた。美咲はその姿を見ても、すぐに懐かしさは湧かなかった。激しい憎しみもなかった。


 ただ、この人は知らない人だと思った。

 その出会いをきっかけに、美咲は明人と会うことになった。


 明人は美咲よりかなり年上で、若いころに名古屋へ出て働いていた。兄妹として初めて向かい合ったとき、美咲は彼の顔を見て、血のつながりというものを初めて実感した。

 目元が似ていた。

 顔の輪郭も似ていた。


 明人が彼女を見る目には、慎重な親しみがあった。何かを埋め合わせたいのに、遅すぎたのではないかと恐れているような目だった。

 沙也香は美咲に尋ねた。


「初めて明人さんに会ったとき、お兄さんだと思えましたか」


 美咲は軽く唇を噛んだ。


「思えました」


 彼女は視線を落とした。


「私は、兄がいる生活を知りませんでした。あのとき初めて、味方になってくれる人がいると思ったんです」


 のちに明人も、その日のことを語った。


「美咲が妹だということだけは知っていました」


 別の面会室で、明人は指を組んだまま座っていた。


「でも、どんな子なのかは何も知らなかった。目の前に立ったとき、この子をもう苦しませたくないと思いました。小さいころに家から出された。うちは美咲に借りがあるんです」


 その負い目は、やがて美咲が手にする縄になった。

 彼女は少しずつ、それを締めていった。


 明人は最後まで気づかなかった。


 明人と連絡を取るようになると、美咲は頻繁に電話をかけるようになった。

 最初は近況報告だった。やがて、それは愚痴と訴えに変わった。蓮司がいつ帰らなかったのか。服に香水のにおいがしたのか。携帯に怪しいメッセージがあったのか。美咲は

 一つ一つ、明人に話した。


 名古屋にいる明人にできることは、電話越しに慰めることだけだった。


「少し落ち着け。夫婦のことは、怒鳴り合っても解決しない」


「でも、もう限界なの」


「本当に無理なら、家庭裁判所で調停を申し立てることもできる。自分を追い詰めるな」


 美咲は、そういう言葉を求めていなかった。

 欲しかったのは助言ではない。

 自分の代わりに蓮司を罰してくれる人間だった。


 ある深夜、蓮司はまた家に戻らなかった。

 美咲は明人に電話をかけた。つながると、挨拶もせずに低い声で切り出した。


「兄さん、蓮司が三日も帰ってこない」


 電話の向こうで、明人は少し黙った。


「店が忙しいんじゃないのか」


「かばわないで」


 美咲は携帯を強く握った。指の関節が白くなった。


「兄さん、私のことを守るって言ってくれたよね。私には兄さんしかいないの」


 明人はため息をついた。


「美咲、こういうことに俺が口を出すのはよくない」


「少し脅かすだけでもだめ?」


 明人はすぐには答えなかった。

 その電話のあと、美咲の中で、蓮司への報復は小さく根を張り始めた。


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