表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女性専用刑務所の面会室:一線を越えた【危険な女たち】の犯罪告白  作者: 熾星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/12

2.美しい妻の結婚

 2009年の初め、美咲は家族や友人の反対を押し切って、黒川蓮司と結婚した。

 当時の蓮司は、町ではよく知られた男だった。整った顔立ちで、背も高く、家の食品スーパーも繁盛している。見た目も経済力も、申し分のない相手に見えた。


 ただ、彼をよく知る人間は、女関係がきれいではないことも知っていた。


 小さな町に、噂は隠せない。蓮司が結婚前に何人もの女性と付き合っては別れていたことは、誰の耳にも入っていた。美咲の親しい人たちは何度も止めたが、彼女は聞かなかった。


 あのころの美咲は、自分に強すぎるほどの自信を持っていた。


 きれいで、スタイルがよく、ダンスもできる。人に好かれる振る舞いも知っていた。これまでの女たちが蓮司をつなぎ止められなかったのは、単に魅力が足りなかったからだと考えていた。


 あるとき、美咲は友人にこう言ったことがある。


「あの人がどれだけ浮気性でも、最後には私のところへ戻ってくるようにできる」


 友人は、それ以上何も言わなかった。

 そのころの美咲は、自分に都合の悪い言葉を受け入れられる状態ではなかった。

 結婚してからの三年間、二人は確かに周囲がうらやむような夫婦に見えた。


 蓮司は美咲の仕事帰りに迎えに来た。スーパーを閉めたあと、彼女の好きな菓子を買って帰ることもあった。週末には二人で軽井沢まで車を走らせ、写真を撮り、買い物をし、温泉旅館に泊まった。

 美咲は、自分が勝ったのだと思った。


 だが、日常が落ち着き始めると、蓮司の昔からの癖がゆっくり顔を出した。

 彼は家に帰らない夜が増えていった。


 最初は週に一度だった。やがて、二日、三日と続くようになった。明け方に帰ってくるとき、酒のにおいと、見知らぬ香水のにおいをまとっていることもあった。ひどいときは、翌日の昼になっても帰らなかった。


 ある日の昼、美咲は文化センターの昼休みに家へ戻り、そのまま寝室へ駆け込んだ。ベッドで眠っていた蓮司の腕をつかみ、無理やり起こした。

 蓮司は驚いて目を覚まし、眉をひそめた。


「何だよ」


 美咲はベッドの脇に立ったまま、青白い顔で彼を見下ろした。


「昨日の夜、どこにいたの」


「麻雀」


「本当に?」


 蓮司は目をこすり、苛立ちを隠さなかった。


「友達と朝まで打ってたんだよ。まだ二時間も寝てないんだ。今やる話か?」


 美咲はベッド脇のコップをつかみ、床へ叩きつけた。


「いつまでごまかすつもり?」


 蓮司の顔が硬くなった。


「麻雀だって言ってるだろ」


「女のところに行ってたんでしょう」


「病気かよ」


 蓮司は服をつかんでベッドから下りた。靴下もまともに履かないまま寝室を出ようとする。美咲が袖をつかんだが、彼はそれを振り払った。


「もううんざりだ。狂いたいなら、一人でやってろ」


 扉が激しく閉まった。

 美咲は割れたガラスのそばに立ち尽くした。伸ばした指だけが、まだ宙に残っていた。

 のちに拘置所でそのころの結婚生活を語ったとき、美咲の声はやはり静かだった。


「人は変われると思っていました」


 彼女はガラスに映る自分の顔を見つめた。


「私のために、この家のために、あの人は変わってくれると思っていたんです。でも違いました。私は自分を買いかぶっていたし、蓮司の浮気癖を甘く見ていました」


 その日を境に、夫婦関係は急速に悪化した。


 蓮司が家に戻らない日はさらに増えた。美咲は、かつて結婚に反対した両親や友人に相談できなかった。自業自得だと思われるのが怖かった。あのとき止めたのに、と憐れむ目で見られるのも耐えられなかった。


 そのとき、美咲は一人の男を思い出した。

 血はつながっているのに、一緒に育った記憶のない兄。

 桐生明人だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ