8.誰も勝たなかった情事の果て
警察は、朱里の酒類雑貨店の奥にある休憩室から、美麗の血痕を検出した。
朱里の車のトランクからも、美麗のDNAが見つかった。
南沢町のキャリーケース遺棄事件の証拠は、そこで完全につながった。
慎吾の最初の供述は、もはや結論を左右しなかった。彼が沈黙しても、警察はこれが一人だけの犯行ではないと証明できた。
半月後、地方検察庁は毛利慎吾と篠原朱里を起訴した。
事件は地方裁判所へ移り、裁判員裁判として審理された。
法廷で、朱里は自分の行為を認めた。
凶器を渡したことも、事件後に掃除と運搬、遺棄に関わったことも否定しなかった。慎吾は最初から最後まで沈黙した。
ようやく、自分を空の殻に閉じ込めたようだった。
裁判所は、毛利慎吾が感情のもつれから松永美麗を殺害し、その遺体を損壊、遺棄したと認定した。手段は残忍で、社会的影響も大きい。
慎吾には死刑が言い渡された。
篠原朱里については、慎吾に殺意があることを知りながら凶器を渡し、犯行後も現場の清掃、遺体の運搬と遺棄に加担したと認定された。
主導者ではない。
だが、完全に脅されて従っただけの傍観者でもない。
朱里には無期懲役が言い渡された。
判決の日、奈津子は傍聴席にいなかった。
来なかった。
朱里は判決を聞いた瞬間、体をわずかに揺らした。
それでも倒れなかった。
慎吾はずっと下を向いたまま、朱里を見ることも、誰を見ることもしなかった。
一人の女は、夜明け前の休憩室で死んだ。
もう一人の女は生き残った。
けれど二度と、あの夜から出られなくなった。




