7.国道を走った箱
その後のことを、朱里はひどくゆっくり話した。
まるで自分ではない誰かの話をしているようだった。
慎吾に指示され、朱里は休憩室と浴室を掃除した。雑巾を何度も水に浸し、床を拭き続けた。指は水で白くふやけていった。
それでも痕跡は、完全には消えなかった。
けれど止まることはできなかった。
慎吾は複数のキャリーケースを用意し、遺体を分けて入れた。
そのうち一つが、朱里の店で以前、仕入れの荷物を運ぶために使っていた青いケースだった。表面には傷があり、車輪の具合もよくなかった。
慎吾がそれを裏口へ引きずると、床に嫌な音が響いた。
二人は服を着替えた。
夜が明ける前、慎吾は車を出し、朱里を乗せて北沢駅前商店街を離れた。
車は国道を郊外へ向かった。
街の明かりが少しずつ遠ざかる。道沿いには、ガソリンスタンド、無人の駐車場、黒い河川敷の影が流れていった。
慎吾に、はっきりした目的地はなかった。
よさそうな場所があれば車を止め、確認しに降りる。
違うと思えば、また走る。
捨てられそうなら、箱を一つ下ろす。
南沢町の再開発工事現場。
青川の河川敷。
廃採石場の周辺。
後に二人が指し示すことになる場所だった。
凶器もその夜、慎吾が青川の河川敷の草むらへ投げ捨てた。あまりにも当てもなく走ったせいで、二人とも正確な場所を覚えていなかった。
すべてを終えても、二人に平穏は訪れなかった。
美麗は死んだ。
二人の間に立っていた女は、もういない。
それでも慎吾と朱里の間には、幸福など生まれなかった。
慎吾は朱里を恐れるようになった。
彼女が少し感情を乱すだけで、すぐに一一〇番すると言い出す。慎吾は強い言葉を口にできなくなった。飲みに行くことさえ、自由にはできなかった。
朱里が口を開けば、自分は終わる。
その恐怖が、いつも慎吾のそばにあった。
朱里も慎吾を疑うようになった。
自分への言葉はすべてその場しのぎで、本心は白倉町の奈津子と三人の子どもにあるのではないか。慎吾が店に来る回数は減り、子どもを抱いてもどこか心ここにあらずだった。
二人は毎日のように疑い合い、傷つけ合った。
やがて、どちらも耐えきれなくなって別れた。
だが別れても、罪は消えない。
小春のポケットに入れられた紙片が、二人をもう一度同じ場所へ引き戻した。
朱里が許せなかったのは、慎吾が自分を庇い続けたことではなかった。
最後の最後で、奈津子に自分から金を取らせようとしたことだった。
百万円。
朱里にも、慎吾の子どもがいる。
事件当時、その子はまだ二歳を過ぎたばかりだった。
慎吾は紙片のことについて、何も話さなかった。
それが露見したあと、彼は余計な言葉を一切口にしなくなった。数日のうちに髪は半分ほど白くなり、かつての余裕は完全に消えた。
今度こそ、扉は閉まらなかった。




