7.彼女が待っていたのは王子ではなかった
事件が裁判員裁判に移ると、黒沢剛志と藤原春江には、それぞれ別の判決が下された。
剛志は、小野寺美月を死亡させた主たる責任者と認定された。
法廷で検察側は、薬物の影響下で幼い被害者を死亡させ、その後に遺体を損壊し隠したこと、さらに違法薬物の取引と使用に長く関わっていたことを指摘した。
被害者はわずか七歳だった。
実の母親に置き去りにされ、すでに危険な環境にいた子どもを、さらに深い闇へ落とした。
最終的に、黒沢剛志は殺人、死体損壊・遺棄、薬物関連法違反などの罪で死刑を言い渡された。
春江には、有期懲役十二年が言い渡された。
裁判所は、彼女が美月を殺害した直接の実行者ではないと認めた。一方で、長期間にわたり剛志の遺体処理と隠匿に協力し、清掃員という立場を利用して何度も玩具店へ侵入したことを重く見た。
一時の混乱ではない。
継続的で、反復的で、剛志を捜査から逃れさせるための行為だった。
判決のとき、春江は剛志を見なかった。
被告席で深く背を丸め、ただ座っていた。
五十一年待ってようやく出会った男は、最後まで彼女を振り返らなかった。
取材が一時間半ほど続いたころ、春江の体調が崩れ始めた。
刑務官が沙也香へ中断を促した。
春江は椅子にもたれ、顔色を灰のようにしていた。薬物が残したものは、彼女の体だけでなく、意志まで少しずつ削っていた。白髪まじりの髪、濁った目、風が吹けば倒れそうな体。
彼女は、実年齢より早く老いへ引きずり込まれた人のようだった。
けれど沙也香にはわかっていた。
春江の心は、体と同じようには老いていない。
まだ二十歳そこそこで止まっている。
彼女の前半生で最も大切だった二十数年は、病床、請求書、薬代、清掃の仕事に飲み込まれていた。人が恋をし、結婚し、子どもを産み、喧嘩をして、仲直りをしているあいだ、春江は床を拭き、両親を介護し、翌月の家賃を計算していた。
すべてが終わったとき、彼女はもう若くなかった。
だから剛志を、遅れてきた人生の始まりだと思ってしまった。
春江は、恋を覚えたばかりの少女のように、彼が来るのを待った。
まっすぐで。
寂しくて。
哀れだった。
けれど彼女が待っていたのは、童話の王子ではなかった。
下水道から這い出してきた鼠だった。
もっと恐ろしいのは、彼女自身もその腐臭に気づいていながら、それでも抱きしめてしまったことだった。




