7.夢の中の蓮斗
事件は司法手続きへ移り、美和子は殺人罪で起訴された。
事件後、自ら通報したことは情状として考慮された。だが検察側は、被害者が眠っているところを襲い、一度目の攻撃のあと、さらに口と鼻を塞いでいる点を重く見た。殺意は明確だった。
さらに、殺害後すぐに亜紀へ電話をかけたことも問題視された。
それは執着と誇示の表れであり、彼女が自分の行為の意味をまったく理解できない状態だったとはいえない、とされた。
裁判員裁判は数日にわたって続いた。
法廷での美和子は、拘置所で会ったときよりも静かだった。自分が何かの命令に支配されたのだと言い張ることも、すべてを蓮斗のせいにすることもなかった。
ただ、自分はあの恋をつかみたかったのだと認めた。
つかみ続けた結果、相手の命まで手の中に閉じ込めようとしてしまったのだと。
弁護側は、美和子が長く年の差恋愛による不安にさらされていたこと、蓮斗の裏切り、家族からの圧力、結婚問題によって精神状態が悪化していたことを主張した。事件後に逃げず、自ら通報したことも強調した。
だが、それでも一人の命が失われた事実は消えない。
最終的に、桐谷美和子は殺人罪で無期懲役を言い渡された。
判決の日、美和子は叫ばなかった。
ただ頭を下げ、両手を握りしめていた。
取材の最後、美和子は、毎日のように蓮斗の夢を見ると話した。
沙也香はすぐには聞き返さなかった。
拘置所の面会室の照明は白く、机は冷たかった。向かいに座る美和子は、急に年齢というものを失ったように見えた。若く見られたい女でも、殺人犯でもなく、ある夜に閉じ込められたまま出られない人のようだった。
「夢の中で、あの子が聞くんです。どうしてここにいるのって」
声は小さかった。
「私が言うんです。あなたを殺したから、ここに入れられたのよって」
美和子の指がゆっくりと握られた。
「でも蓮斗は、違うって言うんです。美和は俺を殺していないって。早く帰ろうって。ここは寒いから、体が冷えてしまうって」
そこまで言うと、美和子は顔を伏せた。
沙也香は、それ以上何も聞かなかった。
蓮斗はもういない。
あの夜、彼が婚姻届を使って美和子から逃げようとしていたのか、それとも弱さから二人の女性を同時に手放せなかっただけなのか、本人の口から語られることはない。
ただ、三年の関係に愛がなかったわけではない。
そして、愛だけだったわけでもない。
愛はいつしか執着に変わった。
執着は、やがて破滅に変わった。
美和子は蓮斗をつなぎ止めたかった。
蓮斗はどちらの女性も失いたくなかった。
亜紀ははっきりした未来を求めていた。
莉央は、母を現実離れした恋から引き戻したかった。
誰もが、自分なりの理由を持っていた。
けれど誰一人として、この関係を本当に止めることはできなかった。
前田沙也香が拘置所を出るころ、外はもう暗くなっていた。
海坂市の街には明かりが灯り、ファミリーレストランの窓には食事をする人々が映っている。若い恋人たちが横断歩道を渡り、コンビニの前では会社員がスマホを見ていた。
街はいつも通りだった。
一つの恋が壊れても、何事もなかったように動き続けている。
沙也香は取材ノートに、最後の数行を書いた。
二十四歳の年齢差そのものが罪だったわけではない。
中年の女性が若い男性を愛したことも、罪ではない。
この関係を深い場所へ落としたのは、誰もが大事なところで逃げたことだった。美和子は本当の年齢から逃げ、蓮斗は選ぶことから逃げ、佐野家は息子の本音を見ることから逃げ、亜紀はその関係に最初からあった混乱を見ないふりをした。
蓮斗は午前四時に死んだ。
美和子の人生も、その夜で止まった。
誰にも祝福されなかった年の差恋愛は、年齢に敗れたのではない。
嘘に負けた。
迷いに負けた。
手放さないことを愛だと思い込む執着に負けた。
そして執着が愛の顔をしたとき、人はときどき、相手を壊すことまで永遠だと錯覚してしまう。




