6.地下に残されたもの
事件のあと、奥羽村は長いあいだ元の静けさを取り戻せなかった。
佐伯家の庭には規制線が張られ、地下貯蔵庫の入口は木板で仮にふさがれた。村人たちはその道を通るたびに、自然と足を速めた。久美子は昔はいい人だったと言う者もいれば、二度と名前を口にしない者もいた。
岩城はのちに、事件記録へこう記した。佐伯久美子は殺人、死体遺棄などの容疑で検察に送致された。
法は、やがて裁きを下す。
しかし、地下へ引きずり込まれた人々は戻らない。
沙也香の取材映像が放送されたあと、多くの視聴者は久美子の最後の言葉を覚えていた。
子どもたちに申し訳ない。
だが、その子どもたちから大切なものを奪ったのは、ほかでもない久美子自身だった。
彼女は失敗した結婚の影に閉じこもり、屈辱と恨み、金への執着、裏切りへの憎しみを抱え込んだ。止まる機会は何度もあった。離れることもできた。警察に相談することもできた。
金を返すことも、過ちを認めることも、誰かに助けを求めることもできた。
それでも彼女は、そうしなかった。
彼女は一人、また一人と、地下へ引きずり込んだ。
雪国の冬は、いつか過ぎていく。貯蔵庫にしまわれた野菜は腐り、土はふたたび固くなる。けれど、隠された罪が永遠に黙っていることはない。
奥羽村の人々は、やがて佐伯家の地下貯蔵庫について、あまり語らなくなった。
それでも初冬になり、どの家も冬越しの準備を始めるころになると、誰かが必ず、雑草に覆われていたあの入口を思い出した。
そこには、四人の命が隠されていた。
そして、一人の女の腐りきった心も。




