5.やさしい女の告白
山崎兄弟が殺されたあと、テレビ局の記者、前田沙也香は久美子への面会取材を許された。
面会室で久美子は、淡い色の被留置者用の衣服を着ていた。髪は少し短くなっている。実年齢よりもやつれて見えたが、目元にはまだ柔らかい印象が残っていた。手錠と足かせがなければ、連続殺人事件の容疑者とは結びつけにくかった。
沙也香はガラス越しに座り、録音機のスイッチを入れた。
「ご主人が家を出てから、一人で子どもたちを見ていたんですよね。大変でしたか」
久美子はうつむき、しばらくしてから答えた。
「体がしんどいのは、我慢できました。つらかったのは、心のほうです」
「まだ、ご主人のことを愛していましたか」
久美子の指が、わずかに動いた。
「あの人は初恋でした。私の人生で、愛した男はあの人だけです」
沙也香は口を挟まなかった。
久美子は机の上を見つめ、低い声で続けた。
「あの人にほかの女ができた日、私は気づいていました。でも、聞かなかった。責めもしませんでした。失うのが怖かったんです。あとになってわかりました。私は、とっくに何も持っていなかったんだって」
失敗した結婚。置き去りにされた恨み。裏切りへの嫌悪。久美子はそれらをすべて胸の奥に押し込めた。時間がたつほど、それは痛みではなく、黒ずんだ執着へ変わっていった。
彼女は自分の傷を処理できなかった。
その代わり、他人の傷まで憎むようになった。
山崎兄弟との関係は、最初は金の貸し借りだった。
久美子は健一と修二から金を借りたことがある。のちに返済し、それで終わったと思っていた。だが、久美子の供述では、二人はその後も彼女に近づき続けた。
沙也香はガラス越しに久美子を見た。
「どうして山崎さんたちを殺したんですか」
久美子は顔を上げた。目つきが急に冷たくなった。
「昔、金を貸したことを口実に、何度も来るようになったんです」
「警察には相談しなかったんですか」
「していません」
「どうしてですか」
久美子の口元が、かすかに動いた。
「恥ずかしかったから」
村の人たちに知られたくなかった。噂されるのも怖かった。子どもたちが顔を上げられなくなることも恐れていた。だから彼女は、最も極端な方法を選んだ。
健一が死んだ日、先に佐伯家へ来たのは修二だった。
修二が帰ったあと、健一もやって来た。六十を過ぎた男だったが、それでも久美子には耐えがたい存在だった。その夜、健一は久美子が差し出した薬を飲んだ。
久美子は、それを体が元気になる薬だと説明した。
本当は、彼女が不眠のときに飲んでいた睡眠薬だった。
薬が効くと、健一は深く眠り込んだ。久美子は彼の手足を縄で縛り、首を絞めた。息がなくなったことを確認すると、シーツで遺体を包み、地下貯蔵庫へ引きずっていった。
三日後、修二が来た。
彼は酒瓶を一本持って佐伯家の食卓に座り、兄が消えたことをこぼした。久美子は卵を焼き、夜更けまで相手をした。
「警察から、まだ何もないのか」
「ない。あんな大人が、急に消えるなんてな」
修二は、自分が探している相手が佐伯家の地下に横たわっていることに気づかなかった。
その夜、修二も久美子から渡された薬を飲んだ。
修二は健一より若く、薬の効きは遅かった。久美子は長い時間を待った。彼が完全に眠り込んでから、同じ方法で殺した。
兄弟の遺体は、どちらもシーツに包まれ、ミイラのように縛られたあと、地下貯蔵庫へ落とされた。
それから久美子は修二の携帯を使い、家族へメッセージを送った。
沙也香は、しばらく言葉を失った。
これまで多くの容疑者を見てきた。怒鳴る者も、無表情な者も、最後まで言い逃れをしようとする者もいた。だが、久美子は奇妙だった。子どもの話をするときには柔らかい表情を見せるのに、殺人を語るときには、やらなければならない家事を説明しているようだった。
その落差は、怒りよりも冷たかった。
「今、いちばん申し訳ないと思っているのは誰ですか」
久美子は長く黙った。
「子どもたちです」
彼女の目は赤くなっていたが、涙はこぼれなかった。
「子どもたちのためだと思っていました。でも今は、私が壊したんだと思います」
彼女は、一人の子どもから父親を奪った。
そして、別の二人の子どもから母親を奪った。
その言葉のあと、面会室には録音機のかすかな作動音だけが残った。




