6.二人の女が同じ男を殺した
事件が司法手続きへ移ると、森野凪と白石莉奈は別々の場所へ向かった。
凪は少年事件として家庭裁判所へ送致された。
その後、少年鑑別所で調査を受けた。家庭裁判所は事件の性質、成育環境、心理状態、再非行の危険性を総合的に見て、少年院送致の処分を決定した。
凪は通常の刑事裁判には立たなかった。
だがそれは、罪がないという意味ではない。
槍、密室、事前の呼び出し。それらは、彼女の行為が一時の衝動だけではなかったことを示していた。凪はたしかに高瀬を死なせようとしていた。ただ、彼女が手を下す前に、別の女がすでに彼を死へ押し出していた。
白石莉奈は殺人罪で起訴された。
彼女は成人であり、教師でもある。自分が何をしたのか、あのハンカチが何を意味するのかを理解していた。検察側は、計画性が明確であり、専門環境を通じて化学物質に接触した責任は重いと主張した。
裁判員裁判は数日にわたって続いた。
法廷で、莉奈は終始静かだった。
自分を正義の人間として語ることも、罪を否定することもなかった。彼女はただ、高瀬の異常に早くから気づきながら、世間体、娘、そして自分の弱さのために、すべてを押し込めたと認めた。
その沈黙が、最後に殺人へ変わった。
判決の日、莉奈は濃い色の服を着て、被告人席に立った。
裁判所は、高瀬が生前、未成年の女子生徒に対して重大な不適切行為をしていた疑いが強く、事件の背景には被害者側の問題もあったと認定した。しかし莉奈は、告発、通報、学校や教育委員会への相談を選ばず、計画的な方法で人の命を奪った。
最終的に、白石莉奈は殺人罪で懲役十八年を言い渡された。
判決後、莉奈は何も言わなかった。
ただ、深く頭を下げた。
凪と莉奈が法廷で顔を合わせることはなかった。
二人はそもそも共犯ではない。
十代の女子生徒と、離婚した前妻。
二人は高瀬に違う形で傷つけられ、同じ日に、まったく違う方法で同じ男へ殺意を向けた。
結果だけを見れば、高瀬は死んだ。
けれど、その奥にあるものを見れば、この事件で本当に救われた人間はいない。
凪は、青春の最初の部分を失った。
莉奈は、残りの人生と娘のそばにいる時間を失った。
小春は父を失い、母と暮らす日々も失った。
青峰体育高校は、表面上の平穏を失った。
そして高瀬の死は、見られ、黙らされ、羞恥に閉じ込められてきた少女たちを、すぐに元の生活へ戻してはくれなかった。
取材を終えた沙也香は、青峰市を離れた。
夕方の電車が、体育館近くの高架下を抜けていく。遠くに青峰体育高校のグラウンドが見えた。まだ生徒たちが練習している。槍が夕暮れの空を切り、細い弧を描いて、すぐに地面へ落ちた。
本来なら、清潔で明るい風景のはずだった。
けれど沙也香の頭には、男子更衣室の開かなかった引き戸、女子寮一階の窓、そして真実を語った二人の女の表情が浮かんでいた。
学校は、人を成長させる場所だ。
それなのに、子どもの安心を最初に破るのが、教壇に立つ大人であることもある。
凪が本当に殺したかったのは、高瀬という一人の男だけではなかったのかもしれない。
逃げ場のない視線そのものだった。
莉奈が本当に恐れたのは、夫に愛されなくなったことではなかったのかもしれない。
危険がそこにあると知りながら、何度も沈黙し、その危険がいつか娘に近づくかもしれないことだった。
沙也香は取材ノートに、最後の一文を書いた。
密室とは、開かない更衣室のことだけではない。
閉じ込められた子どもの前で、扉は本当は開いていた。
ただ、誰もその子を外へ連れ出さなかった。




