表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女性専用刑務所の面会室:一線を越えた【危険な女たち】の犯罪告白  作者: 熾星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/91

7.誰が悪人だったのか

美咲が医療機関から警察へ移されたとき、精神状態はまだ不安定だった。

強い自殺願望があり、警察は単独の部屋を用意し、厳重に見守った。取り調べに対し、美咲はほとんど弁解しなかった。小春を死なせたことも、集落ごと終わらせようとしたことも認めた。


彼女が繰り返し求めたのは、死刑にしてほしいということだけだった。

沙也香が会ったとき、美咲の目は干上がった井戸のように空っぽだった。


取材が始まってすぐ、美咲は泣いた。

けれど激しい泣き方ではなかった。

体の中の水分をとっくに流し尽くした人間に、最後に残った反応だけが出ているようだった。


沙也香は取材ノートを開き、声を落とした。


「鹿喰集落で暮らしていたあいだ、ずっとひどい扱いを受けていたんですね」


美咲は答えなかった。

沙也香は質問を変えた。


「山へ連れていかれたときのことを、話してもらえますか。あなたの経験を知ることで、警戒できる人がいるかもしれません」


美咲は長く沈黙した。


「自分でついていったんです」


声は小さかった。


「愛されていると思っていました。あの人と行くことが、親に反抗してでも選ぶ恋なんだと思っていました。山に近づいたころ、渡された飲み物を飲んで……目が覚めたら、森下家にいました」


沙也香は美咲を見つめた。


「逃げようとは思いませんでしたか」



「思いました」


美咲はうつむいた。


「でも、山道もわからない。携帯もない。戸も開かない。小春が生まれてからは、余計に無理でした」


部屋は静かになった。

美咲の手は膝の上に置かれていた。爪が掌に食い込んでいた。


「帰りたくなかったわけじゃありません。帰ったあと、私はまだ青山美咲でいられるのか、それがわからなかったんです」


沙也香はすぐには何も言わなかった。

目の前の女は被害者だった。

そして、娘を殺した加害者でもあった。

簡単な同情も、単純な断罪も、あまりに軽かった。

裁判は長く続いた。


検察側は、美咲が長期にわたって誘拐、監禁、虐待、性的暴力を受け、精神的に深刻な損傷を負っていたことを認めた。それでも、幼い娘を死なせた事実は消えないと主張した。

弁護側は、極限状態の中で正常な判断能力を失っていたとして、被害経験とトラウマの影響を考慮するよう求めた。


最終的に、青山美咲は殺人などの罪で無期懲役を言い渡された。


森下拓馬は、三人の老人を殺害し、さらにその罪を他人に着せようとしたとして死刑を言い渡された。


森下登喜子は、人身売買への関与と違法な監禁などの罪で有期懲役となった。


二か月後、警察は当時「瀬川翔」と名乗っていた男の本名を突き止めた。

三上健吾。

従兄とされていた男は、三上亮二だった。


二人は長年、偽名で若い女性に近づき、誘い出し、閉鎖的な地域の買い手へ引き渡していた。二人は誘拐、監禁、人身売買に関わる罪で、有期懲役十年を言い渡された。

判決が報じられると、海藤市のネット掲示板は再び大きく揺れた。

美咲に同情する者がいた。

許すべきではないと言う者もいた。


拓馬を罵る者もいれば、あの男も山に作られた存在だと語る者もいた。

だが沙也香は、すべての資料を読み終えたあと、どの意見も一つの事実を避けて通れないと思った。


あの誘拐がなければ、美咲は鹿喰集落へ行かなかった。

あの集落の沈黙がなければ、小春はあの古い家で生まれなかった。

誰かがもう少し早く手を伸ばしていれば、四つの命は違う終わり方をしていたかもしれない。

死刑執行を前に、美咲は拓馬との面会を願い出た。


面会室で、二人はガラス越しに向かい合った。

拓馬はひどく痩せ、髪にも白いものが増えていた。美咲は彼を見つめたあと、椅子から滑り落ちるように膝をついた。ガラス越しに、何度も何度も頭を下げた。


「ごめんなさい」


拓馬は答えなかった。

その目には憎しみがあった。

そして、もう名前をつけられない何かも残っていた。


二人はかつて、買い手と買われた女だった。

やがて名ばかりの夫婦になった。

そして一人の子どもを失い、互いに戻れない場所へ落ちていった。


沙也香はのちに、取材手記へこう書いた。

本当に恐ろしいのは、一人の人間の悪意だけではない。

ある場所があり、人々がいて、沈黙の決まりがある。

それが一人の被害者を、ゆっくり加害者へ変えていくことがある。


青山美咲の人生は、海藤市を離れたあの列車の中で、少しずつ引き裂かれ始めていた。

彼女は山から逃げ出した。

けれど、二度と人の世へは戻れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ