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女性専用刑務所の面会室:一線を越えた【危険な女たち】の犯罪告白  作者: 熾星


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【買われた花嫁】四年ぶりに逃げた女は、娘を殺していた 1.国道の逃亡者

2008年6月17日、黄瀬町近くを走る国道317号線を、一台の長距離トラックが山道に沿って進んでいた。


運転手は長時間ハンドルを握り続けていた。まぶたは重く、意識が眠気に引きずられかけていた。そのとき、ヘッドライトの前を何かが横切った。


運転手は反射的にブレーキを踏んだ。タイヤが路面をこすり、鋭い音が谷へ長く響いた。

車が止まったとき、道端に一人の女が倒れていた。


女の体は泥にまみれていた。服は枝や石で破れ、顔は紙のように白い。運転手が駆け寄ったとき、彼女はもう息をしていないように見えた。


女はかすかに目を開け、最後の力で運転手の袖をつかんだ。


「助けて……」


黄瀬町警察署と救急車は、すぐに現場へ向かった。


女の体には複数の傷があり、長いあいだ殴られていたような痕も残っていた。幸い、外傷はいずれも急所を外れていた。数時間の処置の末、彼女は一命を取り留めた。

警察は、女が目を覚ますのを待って身元を確認した。


名前は青山美咲。

海藤市出身、二十四歳。


聴取を担当した刑事は、こけた頬と乾いた髪を見つめながら、目の前の女がまだ二十代半ばだとは信じられなかった。海藤市から黄瀬町までは、千キロ以上離れている。なぜ若い女がこんな山間の国道に倒れていたのか。なぜこれほど傷ついていたのか。


美咲は、消え入りそうな声で自分に起きたことを語った。

山に売られたのだ、と。


四年前、美咲は海藤市の私立大学に通う学生だった。


大学の食堂で、瀬川翔と知り合った。翔は学生ではなかった。食材配送会社で臨時の配送員をしており、毎週、大学の食堂へ野菜や冷凍食品を運んでいた。

美咲の友人が食堂でアルバイトをしていた。


ある日、美咲はその友人に荷物を届けるため食堂へ行き、そこで翔と初めて顔を合わせた。

翔は美咲より四歳年上だった。


話し方は素朴で、少しだけ人を笑わせるのがうまかった。美咲は幼いころから両親に大切に守られて育ち、社会の底で働く若い男と深く関わったことがなかった。何度か会ううちに、彼への好意は急速に大きくなっていった。


三度目に会ったころ、二人は恋人同士になった。

美咲が二十歳になった年、翔は結婚の話を出した。


まだそんなことは考えていなかった。けれど、彼をがっかりさせたくなくて、家族に話した。両親は強く反対した。美咲はまだ大学生で、学業を優先すべきだった。何より、両親は素性のはっきりしない臨時配送員を信用できなかった。


翔は美咲を責めなかった。

ただ傷ついたように笑い、自分から別れを切り出した。


「俺が君の邪魔をしちゃいけない。ご両親の言うことを聞いたほうがいい。君は、君の世界に戻るべきだよ」


その言葉で、美咲の心はさらに揺れた。

翔はいい人なのだと思った。

両親はただ、彼の仕事を見下しているだけなのだと思った。


2004年の秋、大学の休暇を前に、美咲は家族に友人と登山へ行くと嘘をついた。実際には、翔と一緒に海藤市を離れる列車へ乗った。

その列車が、彼女の人生を二つに分けた。


翔は、自分の実家は黄瀬町近くの大黒岳の奥にあると言った。

けれど、山へ向かう切符は直接取れなかった。二人は先に南瀬市へ向かった。そこで翔は、従兄が車で迎えに来ると説明した。美咲は疑わず、その車に乗った。


途中、翔の従兄は車の調子が悪いと言い、別の車へ乗り換えた。

それが警察の追跡を断つための手口だったことを、美咲はずっとあとになって知った。

山が近づいたころ、翔は美咲に飲み物を渡した。

それを口にしたあと、急に眠気が襲ってきた。


次に目を覚ましたとき、美咲は見知らぬ古い木造家屋の中に閉じ込められていた。翔はいない。従兄だと言っていた男もいない。外には重い山影があり、窓には板が打ちつけられ、玄関先には知らない老女が座っていた。


美咲は、大黒岳の中腹にある鹿喰集落へ売られていた。

買ったのは、森下家だった。

男の名は、森下拓馬。


警察が買い手の身元についてさらに尋ねたとき、美咲は突然取り乱した。

頭を抱え、病室の隅へ逃げるように身を縮めた。聴取していた刑事が声をかけても、彼女には届かなかった。ただ小刻みに震えていた。

駆けつけた医師は、深刻なトラウマ反応に加え、抑うつ、自傷傾向、解離症状があると判断した。

その日の聴取は、そこで中断された。


黄瀬町警察署はすぐに海藤市警へ連絡した。確認の結果、青山美咲の両親は2004年の秋、彼女が失踪してまもなく警察へ届け出ていたことがわかった。その失踪事件は三か月近く捜査されたが、手がかりは南瀬市の駅周辺で途切れていた。

瀬川翔も、まるで最初から存在していなかったかのように消えていた。


警察はあらためて、美咲が通っていた私立大学と食材配送会社を訪ねた。そこでわかったのは、「瀬川翔」が一時的に使われた偽名だったということだった。配送会社に正式な雇用記録はなく、彼は短期間だけ手伝いに来て、すぐ姿を消していた。


警察は二手に分かれた。

一組は大黒岳へ向かい、鹿喰集落と買い手の家を探すことになった。

もう一組は、瀬川翔の本当の身元を追った。


海藤市警は美咲の両親に連絡し、娘を迎えに来るよう伝えた。病室に入った二人は、ベッドの上に横たわる美咲をすぐには娘だと認められなかった。四年間、仕事を辞め、家の一部を売り、娘を探し続けてきた。


けれど帰ってきたのは、あの明るい女子大生ではなかった。

短い再会のあと、美咲は専門の医療機関へ移された。

彼女はあまりにも衰弱していた。

そして、あまりにも危うかった。


生きて山から逃げ出したはずなのに、魂だけはまだ、あの場所に置き去りにされたままだった。


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